色とりどりのコンパクトなオートバイ「スーパーカブ」がずらりと並ぶのは、“ヨコリン”の愛称で親しまれる東京・足立にあるホンダウイング横山輪業。同店の代表、横山敏久さんはこう語る。
「ほとんどが納車待ちの車体で、販売できるフリー在庫は数えるほど」
ヨコリンは敏久さんの父親が戦後に開業した、70年以上の歴史を持つ老舗オートバイ店。現在取り扱う半数以上の車両が原付二種なのだという。
「納車1年待ち」原付二種人気を牽引するスーパーカブの魅力
集英社オンライン / 2022年6月22日 10時1分
三密を避ける移動手段として、自転車と並び人気急上昇中の原付オートバイ(原動機付自転車)。とくに注目されるのは原付二種と呼ばれる排気量50cc超〜125ccのモデルで、納車まで1年以上かかるという人気車も少なくない。そんな原付二種ブームの主役として再評価されている、“国民的オートバイ”スーパーカブの魅力を紹介する。
人気車種の生産が追いつかない
筆者がヨコリンでスーパーカブの一種であるクロスカブを購入したのは2020年の夏。当時は店頭の在庫車を選んで購入できたが、現在スーパーカブシリーズは月に1台入荷するかどうか。「品薄の中なんとか苦労して在庫を確保し、予約順に販売している」と横山さんが言う通り、スーパーカブを中心とした原付二種のブームが巻き起こっている。
そもそも原付二種ってなに?
オートバイの種類は道路運送車両法により、エンジンの排気量によって分けられる。原付は小さい順に原付一種(50cc以下)、原付二種(50cc超〜125cc以下)となる。
写真右の二台はスーパーカブのベーシックモデルの「スーパーカブ110」。手前から3台目の「クロスカブ110」など多彩なバリエーションを持つのがスーパーカブシリーズの特徴
「原付二種が人気となった大きな理由は、125cc以上のオートバイと比較して車体価格が30万円前後と安くて手ごろなところ。それでいて原付一種には義務付けられている時速30km以下の速度制限がなく、二段階右折も不要なので、運転をストレスなく楽しめるということ。
「税金や保険料も原付一種並みに安いのも魅力です」(横山さん)
50ccの原付一種に乗ったことのある人ならば、時速60km以上のハイスピードで流れている幹線道路で走っていて、不安を感じた人も多いはず。さらに原付二種は、道路交通法では普通二輪にカテゴライズされるため、原付通行禁止の標識があるアンダーパスなども問題なく通行することができる。普通二輪との法規上の違いは、高速道路を走れないことくらいだろうか。
免許制度の改定で脚光を浴びたスーパーカブ
そんな数々のメリットを持つ原付二種人気を後押ししたのが、2018年に改正された運転免許制度。原付二種の運転には「小型限定普通二輪免許」か「AT小型限定普通二輪免許」のいずれかが必要だが、普通自動車免許を保持している場合、「小型限定普通二輪免許」なら最短6日間、「AT小型限定普通二輪免許」ならば最短2日間の講習だけで取得できるようになったのだ。
スーパーカブに必要なのは「AT小型限定普通二輪免許」。つまり普通自動車運転免許を持っていれば2日間の講習だけでスーパーカブを運転することができるというわけ。かくしてスーパーカブは、原付二種ブームの牽引役を担うことになった。
スーパーカブは4段のギアを搭載しているのでスポーティな走行が楽しめる
ビジネスバイクから趣味のバイクへ
スーパーカブは安価で気軽にカスタマイズできる点も人気の理由の一つ。ヨコリンは純正パーツの組み換えによるカスタムを手掛ける先駆者として知られている。
「スーパーカブの魅力は、小さくても『バイクらしさ』をしっかりと感じられること。そして、自由にカスタマイズを楽しめる懐の深さにあります」(横山さん)
お店の出前や郵便配達といった“働くバイク”というイメージがあるスーパーカブだが、カスタムして街乗りを楽しむユーザーは今回のブーム以前から存在していたのだそう。
2008年ごろからスーパーカブを趣味のバイクとして乗るライダーが増え、「カブはカスタムすればもっと面白くなる」と思いたった横山さん。試行錯誤しながら、信頼性の高い純正パーツを活かしたカスタマイズのスタイルを確立した。
例えば、横山さんが見せてくれた純白の車体は、新聞配達などでおなじみの「スーパーカブ110プロ」をカスタマイズした車両だ。元々の色はブルーだが、兄弟車種用の純正パーツを流用しホワイトに統一。カブらしいデザインや信頼性を損なうことなく、エレガントに仕上げている。
「新聞をたくさん積んでもびくともしないキャリアの積載性を活かして、キャンプやツーリングなどを楽しむユーザーも増えました」(横山さん)
配達用として活躍する「スーパーカブ110プロ」だが、外装のカラーを変えるだけで、洗練された印象に生まれ変わる
また、様々なブランドからスーパーカブ専用に開発されたアクセサリー類も多数発売されている。豊富なパーツで車体をカスタマイズし、用途や好みに合わせ「自分だけの一台」に仕上げることができるのもスーパーカブ人気の理由の一つとなっている。
キャンプやツーリングを楽しむ筆者は、クロスカブのキャリアを郵便配達用カブの大型モデルに交換。スーパーカブシリーズのパーツを活用すれば信頼性の高いカスタムが可能だ
スーパーカブを象徴するS字のボディデザインにぴったりと合う、専用ラゲッジ類も発売されている。(写真はケムシファクトリーの「ベトキャリバッグ」)
リターン(出戻り)ライダーはここに注意!
「オートバイのブームはこれまでも度々訪れ、2008年に起きたリーマンショックのころにもライダーが増えた時期がありました」という横山さん。
今回のブームでとくに増えているのは、昔はバイクに乗っていたが、いったんオートバイから降りて、子育てや仕事が落ち着いてから再び戻ってきた「リターンライダー」の存在。かくいう筆者もその一人だ。リターンライダーの多くが、コロナ禍で公共交通機関以外の移動手段の必要性を感じ、オートバイを選んでいる。だが横山さんはそんな彼らにこんな注意を促す。
「とくにブランクを経て再びオートバイに乗るリターンライダーは、スピードを抑えて安全運転を心がけてほしい」
リターンライダーは過去に経験があるだけに、運転技術にそれなりに自信があるだろう。しかしバランス感覚や反射神経は若いころに比べ落ちているのは間違いない。横山さんの言葉は当たり前のようだが、改めて真摯に受け止めるべきアドバイスと言えるだろう。
もはやドライブレコーダーは必須
安心のために役に立つのがドラレコ(ドライブレコーダー)だ。
煽り運転問題の影響もありドライブレコーダーを搭載するライダーが急増したのも今回のブームの特徴。写真は前後2カメラ搭載の定番機種「デイトナ Mio MiVue® M760D」
最近では自動車と同じ様に、前方だけでなく後方も同時録画できる2カメラモデルも登場。ドラレコは取り付け工賃を含めると3万円程度からと決して安くはないが、ヨコリンでは顧客が事故にあった際、ドラレコの映像が証拠となり相手の過失が証明されたケースがすでに数件あるのだという。
コロナ禍が過ぎても人気は続く
数々の魅力で注目される原付二種だが、世界規模の半導体などの供給の遅れや、輸送コンテナ不足による品薄がネックとなっている。新車が手に入らないとなれば中古に目が向くが、「今すぐ欲しい」というニーズもまた多く、新車価格を超える中古も珍しくない。
スタイルに大きな変化はないが、エンジンやブレーキなど走行性能に関わる部分は着実に進化しているのだとか
「世の中が落ち着けば、車体の供給もスムーズになり入手しやすくなります。安全でかつ気軽に乗れる原付二種ブームが世界規模で続いていってほしいですね」(横山さん)
最近では、バイクのレンタルサービスも登場しているので、購入せずに気になるモデルを気軽に試すこともできる。「自分にも乗れるかな」と気になっている人は原付二種の世界を体験してはいかがだろうか。
(撮影/杉山元洋)
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