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年を重ねる毎に不安が大きくなってきた。アーティスト長場雄の10年

集英社オンライン / 2022年7月1日 14時1分

東京・代官山に新たに誕生した「Lurf MUSEUM(ルーフ ミュージアム)」のオープニングイベントとして、アーティスト長場雄の個展「PINK NUDE」が7月24日(日)まで開催中。雑誌や広告、アパレルブランドなどとのコラボレーションでも知られる、温もりとトレンドを感じさせるシンプルな作風はどう生まれたのか。そして、「個展の前はいまだに緊張する」と苦笑いを浮かべる、本人の意外なキャラクターにも迫った。※グッズの価格は記事の末尾に掲載しています

――「ルーフ ミュージアム」のこけら落としとして個展が開催されることになった経緯を教えてください。

2019年に原宿の「GALLERY TARGET」で開催した「Express More with Less」と、2020年に渋谷の「SAI」で開催した「The Last Supper」というふたつの個展があるんです。そこで展示した作品をまとめた作品集を作りたいという思いはずっとありました。なんとなく動いてはいたんですが、どこでどう形にするかは決めていなくて。そんな中、今年の1月に「ルーフ ミュージアム」のオーナーから声をかけていただいたんです。とはいえ準備期間が半年もなかったので、新作だけでこれだけの空間(2階のギャラリーは面積70坪、天井高4メートル)を埋めるのはちょっと難しい。そこで、進行中だった作品集「Express More with Less」のお披露目会としてこの場所を使わせてもらおうと考えたんです。



2階に飾ってある作品は、ほとんどコレクターさんの手元にあったものを、個展のために一時的に貸していただきました。僕の手を離れていたので、こうしてまた会えたことは個人的にも本当にうれしい。ちょっとずつ描き方とかも変わってきているので、改めて見直してみると「こんなふうに描いてたんだ」という発見もありました。

コレクター所蔵作品も今回展示されている。見応えたっぷりだ

新作画集『Express More with Less』はカフェスペースで販売されている

――変化した描き方とは?

なるべく線を増やさないという基本はベースにあるんですけど、どういうふうに線を入れていくかは、おもしろいことにそのときの気持ちでだいぶ変わったりするんです。たとえば、初期の頃は眉毛と鼻をT字で表現していたんですけど、最近では目と鼻を離して描いたり、そもそも眉毛がなかったり。自分なりに試行錯誤しています。

――そもそも、このシンプルな線画が特徴の作風は、いつ、どのように生まれたのでしょう?

このタッチになったのは2014年から。それまでは色彩があったり、もうちょっとキャラクターっぽかったり、いろんなバリエーションがあったんです。当時はTシャツのグラフィックデザインの仕事をやめて独立し、食べていけるくらいにはなっていました。でも10年後とかを考えたときに、自分の色みたいなものがないまま、果たしてやっていけるのかなあということは感じていて。もっと自分らしさを出せるものを作らなきゃと思って辿り着いたのが、今の作風です。元々は裏で隠し持っていたタッチで、「僕はいいと思うけど、周りはどう思うのかな」と思っていたものだったんです。

油絵で描かれた今回の新作2点

30代で楽になったはずなのにーー40代の新しい負荷

――新作2点は、初のオイルペインティングによるものですね?

キャンバスに描くものとしては昔からある王道の画材。最近はアクリルで描くことが多かったので、クラシックなところに突っ込んでいくのもおもしろいかなと。10歳の頃にトルコに住んでいたんですけど、その頃に油絵を描くアーティストの方に絵を習っていたことがあって。それ以来、油絵はずっと触っていなかったんです。多分、一番扱いにくい素材なんだという印象があったと思います。すごく乾きにくいし、匂いもあるし、混色するし。10歳の自分にはちょっと重すぎて、うまく消化しきれなかったんです。

でも今回は、「ルーフ ミュージアム」のオーナーさんが油絵をやっていて、「描いてみたら?」と言われたこともきっかけになりました。子供の頃はトゥーマッチに感じていたけれど、今、他の人が描いた油絵を見ると質感を含めて素直にいいなって思えることも多くなったので、自分の中に取り入れていきたいと思ったんです。

――30年以上ぶりに描いてみて、いかがでしたか?

アクリルで描くときはすごくフラットにしていますけど、油絵では下地をわざと白だけじゃなく、黒とかグレーを入れながら少しずつレイヤーを作っていきました。少し刷毛の質感を残して荒らしたりしながら、ザクザク描いていった感じです。

そのレイヤーを作っていく感じが、なんかすごい、気持ちが入っていくなって思ったし、おもしろかったですね。言語化しなくても、筆を通して今の気持ちが吸い取られていく感じ。これまでは自分の気持ちをダイレクトに込めることを積極的にやってこなかったんです。でも今は、ひとつのキャンバスに気持ちを閉じ込めることが、僕のやるべきことなのかなって、強く感じましたね。残していきたいという思いが、今すごくある気がします。

――対照的なキャラクターが描かれていますね?

左の子は、少し不安が強い感じ。自分自身もちょっと、内向的になってしまうことがあって。そういう部分を表現したかったんです。

逆に右の子は、そこから抜け出してちょっとポジティブになっている感じ。不安なときって、当事者としては結構シリアスだったりするんだけど、少し客観的に引いてみたり、時間を置いてみたりすると「あれ、なんだったんだろう?」みたいなことってあるじゃないですか。そういうコミカルさみたいなものを表現できたらいいなと思いました。

――長場さんが感じている不安とは?

仕事もだんだん大きくなってきたので、その辺のプレッシャーを感じたり。何か負荷がかかったときに対処できる引き出しがなかったり。自分をうまくコントロールできないなと感じることはあります。

思い返すと、30歳くらいのときってすごく「楽になったな」という感覚があったんです。10〜20代のときに小さな世界で感じていたいろんな不安が、30代になって少し外れたというか。経済的にも余裕が出てきて、このまま楽になっていくと思っていたけど、意外と、また違う負荷がかかってくることを感じて。なるほどなーって思っています(笑)。

ゲルハルト・リヒターっていうドイツの画家がいるんですけど、その方のドキュメンタリーをこの間DVDで見たんです。かなりの大御所ですけど、個展の前とかに不安になっている様子が収められていて。ちょっと安心したんです。「そっか、そっか、みんなそうなんだ」って。僕も毎回、個展の前は緊張するし、今回の個展の前も「どう受け取ってもらえるかな」って、不安になりましたから。

――とはいえ、これまでのキャリアを振り返ると、とても順調に見えます。

僕は本当に周りの人に感謝しなきゃいけないなって思っています。どんな状況でも気にかけてくれて、声をかけて、仕事を振ってくれる。周りあっての僕だと、いつも思っています。実は「ルーフ ミュージアム」のオーナーさんやスタッフの方たちも、以前別のお仕事でご一緒した方たちなんです。ギャラリーを立ち上げるからということで声をかけていただいて。本当に助けられています。

――美大を卒業されてから、Tシャツのグラフィックデザインをされていたとのことですが、初めからアーティストとして活動しようとは?

子供の頃から絵を描くと周りが褒めてくれたから、そういう道に進みたいとは思っていたんです。でも美大に行ったら周りにはめちゃめちゃ絵がうまかったり、才能がある人がいっぱいいたから打ちのめされちゃって。当時は裏原ブームだったこともあって、Tシャツがもてはやされていたんですね。絵を描く仕事をしながら、カルチャーやファッションともつながることができるTシャツは、自分の表現する媒体としてすごくしっくりくると思いました。

――当時の経験が、今のアーティスト活動に生きている部分は?

いいのか悪いのかはわかりませんが、当時の社長からは「売れるものを作ってください」ということをテーマとして与えられていました。それまでは、絵を描くときに売れるか売れないかを意識したことがなかったので、商売としてどうしたら広く受け入れられるか自分なりに研究しました。その経験は自分の中に蓄積されていると思うし、今もいい感じに作用してくれているのかなとは思っています。もちろん、自分がいいと思ってもあまり反応がなかったり、失敗はいっぱいしてきたけどね。表現したいものを商業に乗せることに限界を感じて独立を決断しましたし、答えなんてない。ただ、個人的にはコミュニケーションを生む要素が絵の中にあるといいのかなって、思っています。

――作品作りの他にも、雑誌や書籍、アパレルブランドとのコラボレーションなど、クライアントワークも数多く手掛けています。かなり多忙だと思いますし、仕事がお好きなんだろうなという印象です。

仕事から離れたくなることもありますよ(笑)。でも、声をかけていただけることが本当にうれしくて。自分にできることがあるのなら、って思うと、受けちゃうんです。今の現状は素直にとってもうれしく思います。

――仕事をする上で大切にしていることは?

最終的なアウトプットがどれだけおもしろくなるかということは、すごく大切にしていますね。マンネリ化しないように、常に新しいものを提供できるように気をつけています。ただ、そのためのインプットは最近あまりできていなくて。ちょうどこれから、10日ほど休みを取って、ヨーロッパを回ってくる予定なんです(6月9日取材時)。イタリアの「ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」とか、ドイツで行われている国際美術展「ドクメンタ15」とか、スイスのバーゼルで行われる現代アートフェア「アート・バーゼル」に行ったり。アジアとは違う、ヨーロッパの今のアートシーンを自分の目で見てみたいと思っています。

計画したのは2〜3ヶ月前。コロナもあってなかなか出歩けなかったですからね。「もーだめだ!」って思って(笑)。キャンプに行ったり、サウナに行ったりはしていましたけど、何か強烈にガツンと心に響く体験をしばらくしていなかったので。この経験が、いい方向に作用するといいなと思っています。

代官山は好きな街

一階のカフェスペースにも作品が並ぶ。デートや打ち合わせなど使い勝手がとにかく良さそう

――10年後を見据え、2014年に辿り着いたのが今の作風だったとのことですが、あと2年で10年が経ちますね。

そうなんです。だから、次のステップに行く移行期間ではあるのかなと思っています。自分の中でも10年一区切りと考えているので。

今回「ルーフ ミュージアム」のメインビジュアルに据えているのが、個展のタイトルにもなっている、マティスの「Pink Nude」をベースに描いた作品。過去に描いてきた絵たちを見て「次にどこに進もうかな」と考えたときに、「Pink Nude」を軸に置いて、ここから芽を伸ばしていくとおもしろいことが出来るんじゃないかなと思ったんです。生み出す作業は苦しいかもしれないけれど、どんなふうに変わっていくのか、自分でも楽しみです。

――ちなみに「ルーフ ミュージアム」がある代官山に、特別な思い入れは?

「代官山 蔦屋書店」は大好きな場所です。最初に自費出版で作った作品集も販売してもらいました。初版で500冊作ったんですけど、2週間くらいで全部売れるくらい反響があって。すごくお世話になりましたね。アップルパイやチーズケーキが美味しい「松之助NY」も好きで、代官山に行けば必ず立ち寄って買って帰ります。

あと、去年からクリスマスツリーを家に飾るようになりまして。僕は前からすっごく欲しかったんだけど、家族があんまり賛同してくれなくて(笑)。どうしても飾りたいと説得して、念願のにぎやかなクリスマスツリーを完成させたんです。1年中クリスマス関連の商品を扱っている「クリスマスカンパニー」でオーナメントいっぱい買いました。ちょっと足りないなって思ったら、またすぐ買い出しに来たり。好きなお店がたくさんあるし、代官山には思い入れはありますね。

――「ルーフ ミュージアム」は2階のギャラリーだけでなく、1階カフェスペースも素敵です。どんな風に楽しんでもらいたいですか?

アーティストや絵を購入されたコレクターの方は、一枚の作品をじっくり見る時間があるんですが、鑑賞する人は長く時間をかけて見る機会がないと思うんです。割とサーっと見ちゃったりするじゃないですか。オーナーは、ゆっくり絵を見て過ごせる時間を提供したいとおっしゃっていて、すごくいいなと思いました。ギャラリーは余計なものがないのでゆっくり、じっくり鑑賞することができますし、疲れたらカフェでくつろぐこともできる。インテリアは1930年代のデンマークの家具を集めているし、JBLのスピーカーやマランツの真空管アンプ、ガラードのレコードプレーヤーもあるから音もすごくいいんです。温かみのある空間なので、ぜひ、足を運んでもらえたらうれしいです。

取材・文/松山梢 撮影/石田荘一

Tシャツ 10型 サイズS~XL 4,950円

ハット 2型 4,400円

グラス 4型 2,750円

マグ 2型 3,080円

トートバッグ 5型 4,400円

スケートデッキ 1型 27,500円

「Lurf MUSEUM(ルーフ ミュージアム)」
〒150-0033
東京都渋谷区猿楽町28-13 Roob1-1F
https://lurfmuseum.art


長場雄個展「PINK NUDE」
会期:2022年6月10日(金)~ 7月24日(日)
時間:11:00-19:00 (会期中無休)
上記のLurf MUSEUM(ルーフ ミュージアム)にて開催中

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