東京五輪から間もなく1年。開催が決まった2013年頃から、不動産価格が高騰を続けている。中でも、マンション価格の高騰が顕著だ。コロナ禍でもその勢いは衰えず、むしろ、より一層の加速を見せている。
東京五輪から1年―新築・中古マンションの高騰はいつまで続くのか
集英社オンライン / 2022年6月24日 13時1分
「マンション探してるんだけど、手ごろな物件が全然なくってさ…」。東京ではそんな話を聞くようになって久しい。東京五輪から1年が経ち、東京の不動産価値はどうなっているのか。高騰し続ける都内のマンション価格の現在を取材した。
マンション価格はかつてないほどに高騰
首都圏の新築マンション価格はバブル期超え
(出典:㈱不動産経済研究所)
2022年4月の東京都23区の新築マンション価格の平均は、7,344万円。その前年、2021年度の平均価格8,449万円は、昭和のバブル期を超え過去最高を更新した。
各月の契約率も、好調の目安となる70%を概ね超えており「価格が高いにもかかわらず売れ行きも好調」という状態が継続している。
(マンションリサーチ調べ・オーナーチェンジ物件を除く40㎡以上の中古マンション坪単価)
価格が高騰しているのは、新築マンションだけではない。中古マンションは、1度目の緊急事態宣言が出された際に大きく価格を落としたものの、その後は高騰基調が継続している。
2022年5月の東京都の平均坪単価は、約293万円。60㎡のマンションなら5,300万円ほどだ。一方で、コロナ前の2019年同月・同エリアの平均坪単価は約230万円。この3年で、中古マンションは1,000万円以上(60㎡換算)値上がりしていることになる。
「駅近」「ブランド」「タワー」はより顕著
新築マンション販売とともに中古マンションの仲介を手掛ける伊藤忠ハウジングの取締役経営管理グループ長・西健悟氏は、次のように語る。
「当社が販売する新築物件の売れ行きは好調です。とくに、都心物件は高価格帯の住戸も非常によく売れています。当社が販売する『クレヴィア』は、ブランドが認知されていることも好調の要因と考えられますね。中古マンション市場でも『クレヴィア』ブランドの物件の査定価格は1年前と比べ100~137%(平均111%、首都圏39物件調査)程度、上昇しています」
(出典:伊藤忠ハウジングマガジン)
同社が販売した、東急目黒線不動前駅徒歩4分、地上21階建、2015年築の「クレヴィアタワー目黒不動前」は近年、新築分譲時の120%ほどの価格で取り引きされているという。
コロナ禍をうけ、郊外エリアの物件にも価格高騰が見られるようになっているものの、やはり「駅近」や「ブランドマンション」「タワー」は根強い人気があり、価格上昇もより顕著に見られる。
東京五輪も終わった今、なぜマンション価格はこれほどにまで高騰しているのだろうか?
その理由は、高騰の背景に「東京五輪以外のもの」があるからだ。
マンション価格高騰の3つの理由
マンション価格の高騰の大きな要因となっているのは、圧倒的な低金利だ。
さらに、住宅ローン減税によって、場合によっては負担しているローンの金利以上の減税効果を得られる。この状況により需要が押し上げられ、売れ行きが好調となり、価格の高騰につながっているものと考えられる。
■圧倒的な低金利
マンション価格が高騰し始めた2013年は、東京五輪開催決定とともに「アベノミクス」が始まった年でもある。同政策の1つが、大胆な金融緩和政策だ。
これにより、住宅ローン金利はかつてない低水準となっており、最近では、変動金利であれば0.3%前後で借り入れられる。固定金利でも1%強。価格はバブル期超えだとしても、当時の金利水準と比較すれば圧倒的に低く、返済額も大幅に抑えられる。
■税制優遇
金利水準の低さとともに、購入を後押しするのが住宅ローン減税だ。控除率が1%から0.7%に引き下がった2022年度税制改正は「改悪」との声も大きいが、それでも0.3%、0.4%の金利で融資を受けているとすれば、お釣りがくる。
さらに、夫婦それぞれの名義で住宅ローンを組むとすれば、夫と妻、両者が住宅ローン減税を受けられるため、2倍の税制優遇が受けられるのだ。
■売り出し数・在庫数不足
不動産の価格は、需要と供給のバランスに大きな影響を受ける。コロナ禍では、需要は伸びたものの中古マンションの売り出し数が大きく減少した。新築マンションについても、首都圏における2021年度末の在庫は5,881戸と、7期ぶりに5,000戸台にまで低下している。
需要が供給を上回っていることもまた、価格が高騰している要因の1つだといえるだろう。
だが、マンション価格がここまで高騰している中「景気が良い」と感じている人はどれほどいるだろうか? おそらく、多くはないだろう。昭和バブル期のマンション価格高騰は、景気の上向きとともにもたらされたものである。しかし現在は、お世辞にも「景気が良い」状況とはいえない。
ではなぜ、飛ぶようにマンションが売れるのか?
当面は金利が上がらない? 高騰傾向は落ち着くか…
なぜマンションが高騰し続けるのか? なぜ高騰したマンションを買えるのか?……その要因となっている起点は、先述の通りほぼすべて「圧倒的な低金利」に集約される。つまり、今後も今の圧倒的な低金利水準が維持される限り、急激にマンション価格が落ちたり、需要が下がったりすることはないものと考えられる。
住宅ローン金利と密接にかかわる金融政策だが、諸外国が引き締めの姿勢を見せる中、日本は依然として緩和の姿勢を崩さない。6月17日の金融政策決定会合でも、今の大規模な金融緩和政策を維持することが決まり、日銀の黒田総裁は改めて「今は金融を引き締める段階にない」という認識を示した。
急激な円安やインフレも懸念される状況であることから、今後、日本も利上げに舵を切る可能性はあるものの、当面の間は「現状維持」が継続する見込みだ。
(マンションリサーチ調べ・中古マンションの売り出し戸数)
ただ、マンション価格高騰の理由の1つとして「売り出し数の減少」を挙げたが、ここにきて売り出し数に増加傾向が見られる。
都内のどのエリアもコロナ前の水準には戻っていないものの「供給」が増えれば需給バランスの天秤が水平に近づき、価格高騰は落ち着いてくるものと考えられる。
取材・文/亀梨奈美
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