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「ジェンダー平等」と「競技力向上」の両立は可能か? WEリーグ岡島チェアに聞く

集英社オンライン / 2022年6月23日 17時1分

開幕初年度のシーズンを終えた、国内初の女子プロサッカー「WEリーグ」。ジェンダー平等社会の実現を目指して様々な施策を行ってきた同リーグだが、競技力向上との両立は簡単ではない。スポーツライターの松原渓氏が、WEリーグの岡島喜久子チェアに話を伺った。

女子プロサッカー「WEリーグ」が、開幕初年度のシーズンを終えた。同リーグは日本女子サッカーのレベルアップとともに、ジェンダー平等社会の実現を目指して様々な理念推進活動を行なってきた。

妊娠・出産への配慮を選手の雇用契約に加えたほか、新規の女性層が足を運びたくなるようなスタジアムの環境作りにも力を入れている。

また、海外に比べて女性の指導者や審判が少ない現状から、現役選手やOGに資格取得をサポートするなど、活躍・成長の場を提供している。



だが一方で、性別によって機会を限定する風潮に対して、現場からは疑問の声も聞こえてくる。海外のトップリーグが急激なレベルアップを続ける中、WEリーグに与えられたもう一つの使命は、「世界一の女子サッカーリーグを目指す」こと。そのビジョンと女性活躍推進の社会理念を、両立させることは果たしてできるのだろうか。

社会理念と競技力向上は両立可能か

「2021-22 Yogibo WEリーグ」において、得点王に輝いた三菱重工浦和レッズレディースの菅澤優衣香

WEリーグが掲げる「ジェンダー平等社会」の実現は、プロ化によって競技力が向上し、選手たちが輝いてこそ説得力を持つ。だが、現状はプロで指導できるライセンスを持つ女性指導者が少なく、初年度はWEリーグ11チーム中、女性監督はわずかひとりだけだった。

また、クラブの参入基準として「運営法人の50%以上を女性とする」ことや、「クラブの意思決定に関わる者のうち、少なくとも1人は女性とすること(取締役以上が望ましい)ことなどを求めている。

報酬や大会賞金の格差など、男性優位が根強いスポーツ界の風潮を変えていくために、こうしたクォータ制の導入は一定の効果をもたらすと思われる。

一方で、WEリーグの発展を考えれば、重要なポストこそ、性別ではなく能力が重視されるべきではないだろうか。現場との緻密なコミュニケーションの中で、JFAやリーグの柔軟な対応が期待されている。

――ジェンダー平等が世界的な潮流となった中で、ヨーロッパの女子サッカー界は大きく発展を遂げています。WE リーグが掲げるビジョンや社会理念は浸透してきたと思われますか?

WEリーグは参入条件に、女性を一定数入れるという要件がいくつかあって、それはリーグの理念にも通じることです。今後は、その項目を達成していないチームとコミュニケーションをとりつつ、達成に向けて尽力していきたいと思っています。将来的には、引退した選手がセカンドキャリアでクラブの役員を目指せるようになるのが理想ですね。

WEリーグの岡島喜久子チェア

――「世界一の女子サッカーを」というビジョンも掲げているので、競技力の向上も重要なタスクですね。

フットボール事業の方では、集客で目に見える結果が出せていません。本来は社会事業とフットボール事業の両方が振り子のように揺れていく形にしなければいけないと思っていますし、来季はフットボール事業の方にもっとリソースをかけたいですね。

S級ライセンス保持者は男性500人、女性10人

――現在、プロで指揮を執るために必要なS級ライセンス保持者が男性は500人以上いるのに対し、女性は10人ほどで、女性指導者の育成が急がれています。ただし、WEリーグでは秋春制を採用しているため、Jリーグで経験を積んだ指導者やコーチが指揮を執りづらいという現状があります。

海外から女性指導者が来るようになればいいなと思っていますが、それもお金がかかります。リーグが露出を高めて、1試合ごとの興行が黒字になれば、海外の指導者や選手を求める余裕も出てくると思います。

――WEリーグは審判を女性に限定していますが、女性審判の数も海外のプロリーグに比べるとまだまだ少ないと聞きます。

WEリーグは『女性が活躍するステージを用意したい』という思いがあって、女性の指導者や審判を育てていきたいんです。ただ、競技力を上げるためには、プロフェッショナルな経験や実力さえあれば、性別は関係ないのでは、との声も各クラブから上がっています。理念と競技力の向上に折り合いをつけるために、選手の声も聞くようにしています。

――各クラブの女性役員だけのオンライン会議を開催されるそうですが、どのような狙いがあるのでしょうか。

今のところ、女性取締役がいるのは8クラブです。まだ、各クラブの女性役員がお互いの顔を知らないので、顔合わせという意味でのカジュアルなミーティングをして横のつながりを作りたいと考え、実施することにしました。実際に顔を合わせて、各クラブへの関わり方を確認することも大切だと思うからです。

子供たちの“なりたい職業”になってほしい

――「まだ全チームの女性取締役が揃っていないのに、(ミーティングを)行う理由がわからない」という反対意見も出たそうですね。理念推進を形式的に進めていく中ではそうした反発もありますが、どのように受け止めていますか?

多様性とは、異なる意見が多く出るということです。クラブのリーグ参入条件に女性登用の要件を設けたのは、『女性の声をもっと現場に反映させて欲しい』という狙いからです。日本はクォータ制を進めていかないと、ずっと変わらないままですよ。

10年、20年前に同じことを言ったら企業も『何を言っているんだ?』という状況でしたが、時代は変わりつつあります。サッカー界はそうした面ではまだ途上なので、刺激が必要だと思いますし、新しいことをやる上で必ず反発はあるものだと思うので、いろいろな意見を取り入れながらも貫いていくつもりです」

「2021-22 Yogibo WEリーグ」において、初代王者となったINAC神戸レオネッサ

――チェアはアメリカと行き来しながら試合の視察もされていますが、直接選手からの声を聞く機会もあるのでしょうか。

「WE MEETING」と言って、オンラインで全クラブの選手たちと直接話す機会を作っています。『リーグが終わったら意見を聞かせてね』と伝えているので、1年目が終わった段階で、検証として選手のいろいろな声を聞きたいなと思っています。

――最後に改めて伺います。チェアは、WEリーグの未来図をどのように描いておられますか?

子どもたちの夢になるリーグにしたいですね。なりたい職業のトップ10にWEリーガーが入るようになって欲しいし、『プロアスリートになりたい!』という女の子たちが増えるような社会を作ることが目標です。

リーグがプロになった成果が結果として現れるのには4、5年はかかると思うので、なでしこジャパンにはぜひ、2024年のパリ五輪で世界一を目指して欲しいと思っています。



試合数、集客、日程、そして、理念推進と競技力向上の両立――。それらの課題をクリアし、リーグが新たなスタートラインに立つまでに、与えられた時間は多くはない。来季の開幕は10月の予定だ。

前編はこちら

写真/AFLO

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