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栃木は餃子だけじゃない! 町おこしに賭けるシウマイの味

集英社オンライン / 2022年6月26日 12時1分

「栃木名物の食べ物」と聞くと、宇都宮市に代表される餃子を連想する人がほとんどだろう。だがその宇都宮市の隣、人口10万人足らずの鹿沼市が町おこしのタネに選んだのはシウマイだった。なぜシウマイなのか、町おこしの効果は? 鹿沼市を食べ歩き、人々から話を聞いた。

テイクアウトで1日1000個も売る人気店

お店で注文して待つこと数分、目の前にテイクアウト用のカップに入った「揚げシウマイ」と「蒸しシウマイ」の2種類が供された。

「味はついています。最初はそのままお召し上がり下さい」

と、店長の佐藤早苗さんが笑顔で勧めてくれる。

「揚げ」の方は外がカリッとして中がジューシーな仕上がり。「蒸し」はもっちりした食感が楽しい。どちらも肉のうま味はもちろん、タマネギの甘みが舌の上に残る。



「国産豚の赤身肉を使っていて、とてもヘルシーですよ」(佐藤店長)

ここは栃木県鹿沼市、JR日光線の鹿沼駅のロータリー内にあるシウマイのお店「笑福(えふ)シウマイ」だ。オープンしたのは2020年11月、店名は「食べた人が笑顔になって福が訪れますように」という願いを込めて付けられた。その甲斐あってか、1日1000個も売り上げる日もがあるという、人気店だ。

鹿沼駅ロータリー内に店を構える「笑福シウマイ」。テイクアウトのみ。営業時間は午前11時から午後3時まで(月曜定休日)

「学校帰りの中高生とか、よく買っていってくれます。冷凍シウマイのまとめ買いをされていく方も多いです」(佐藤店長)

シウマイは1個40グラムと、なかなか食べごたえがある。学校帰りに空かせた青春の腹を満たすにはぴったりなのだろう。

笑福シウマイの「揚げシウマイ」(左、税込450円)と蒸しシウマイ(同375円)。餡にしっかり味が付いているが、お好みで醤油やカラシも出してくれる

崎陽軒初代社長の地元が縁に

鹿沼市が町おこしの起爆剤としてシウマイをアピールし始めたのは、今から2年前のこと。きっかけは「シウマイ弁当」などでお馴染みの崎陽軒(きようけん、神奈川県横浜市)の初代社長・野並茂吉氏が同市の出身だったこと。

ちなみに、「シウマイ」という呼称は、崎陽軒のそれに倣っている。

鹿沼が「隣の餃子」ではなく、一見遠そうな「シウマイ」を持ってきたのは、強い危機感があったからである。

鹿沼は、人気観光地の宇都宮市と日光市に隣接する好立地ではあるが、観光客が足を運ぶことはほとんどない。

人口も1999年の10万4798人をピークに減少の一途をたどる。2022年6月1日現在は9万2557人だが、31年には約8万8000人になると予測される。とりわけ30歳未満の若い世代が少ないという、典型的な地方都市の課題を鹿沼も抱えているのだ。

加えて、15年9月に発生した関東・東北豪雨や、19年の台風19号によって死者が出るほどの自然災害に見舞われたことも、近年、鹿沼の人々を意気消沈させていた。

町おこし政策の旗振り役を務めてきた鹿沼商工会議所経営支援課の水越啓悟課長は、このまま地元が衰退していくのが見ていられなかった。

「かぬまシウマイ」始まる

そこで始まったのが、「かぬまシウマイ」による町おこしである。「かぬまシウマイ」とは、町おこしの取り組みを進める中で、21年2月から商工会議所を中心に使われ始めたフレーズである。水越さんによると、定義としては鹿沼で製造・販売されるご当地シウマイの総称のこと。地域を代表するブランドとして育て上げるために、今後は商標登録なども進めていく。

これまでにも「サイクリング」や「もの作り」など地元に以前からある特色を前面に打ち出した企画を実施してきたが、結果的に「シウマイがいちばん引きが強かった」(水越さん)というのだから、町おこしは面白い。

「メディアの取材が増え、企業から『何か一緒にできないか』という問い合わせも多いです」(水越さん)

今では駅前に「シウマイ像」を設置して、さらに、市内の至るところにフラッグやのぼりを掲げるなど、あの手この手で「かぬまシウマイ」をアピールしている。

鹿沼駅前にある「シウマイ像」。崎陽軒、東京芸術大学との連携によって21年9月に完成した。作者は彫刻家の石井琢郎さん

町を歩くだけで「シウマイ欲」が煽られる

そして地元のスーパーマーケット「ヤオハン」にシウマイ専用コーナーができ、来店客が買い求める光景もよく見られるようになった。

地元スーパー「ヤオハン」にあるシウマイ専用コーナー

お蕎麦屋さんでシウマイ

そして、町おこしの決め手となるのがもちろん、冒頭で紹介した「笑福シウマイ」のような地元飲食店によるオリジナル・シウマイの販売である。崎陽軒に相談したところ、快くシウマイに関する研修を行ってくれて、商品開発担当者がシウマイのうま味に対する考え方や、シウマイの握り方、作り方などを地元飲食店の人たちに伝授した。

創業50年以上を誇る「そば割烹 日晃」で働く小倉真紀さんは、商工会議所から「シウマイ作り」を依頼されたときには、

「正直言うと、『え、シウマイ?』って思いましたね」

と、そのときの様子を思い出して苦笑する。シウマイを蒸すせいろなどの道具を新たに買いそろえる必要があったし、調理場のオペレーションも変更しなくてはならない。それでも、町のためになればと、スタッフ皆で企画を出し合いながらメニュー開発に努めた。

試行錯誤ののち、できたのが「そばの実海老シウマイ」だ。一口で食べるのが難しいほどのボリューム。溢れんばかりに詰まったそばの実は風味が良く、大きめの海老はプリプリの食感。お酒のつまみとして最適で、ビールにも日本酒にも合いそうだ。

そば割烹 日晃の「そばの実海老シウマイ」(5個入りで税込650円)

最近はリピーターもついてきた。「鹿沼といえばシウマイだよね、というお客さまの会話もよく耳にするようになりました」と、小倉さんも嬉しそう。

さまざまなシウマイの「競演」

「本業」の中華料理店も負けてられない。

ロードサイド沿いにあるラーメン店「山いち」。入り口の暖簾には大きく「ぎょーざ」と書かれているが、ここにもシウマイのメニューがある。その名も「チャーシウマイラーメン」。

山いちの「チャーシウマイラーメン」(あっさり醤油味は税込740円)

当初は豚肉や鶏肉で餡を作ろうと考えていたが、コストがかかりすぎた。そこで目を付けたのが、ラーメンで使うチャーシューの切れ端。「ロスがなくなり一石二鳥」と、お店の山市敦子さんは胸を張る。

チャーシューは4日間じっくりと煮込んだ、店主・山市道夫さん自慢の一品。味はしっかりと染み込んでいるが、口当たりは軽やかで今まで味わったことのない新食感だった。

店主の山市道夫さん(左)と、妻の敦子さん。「かぬまシウマイ」のTシャツがよく似合う

実は鹿沼は県内最大のニラの産地である。それをシウマイに使ってアピールしているのが、「みっちゃん蕎麦」。

この店が提供するのは「ニラそばシウマイ」。ニラの茎とそばの実、ひき肉などを加えて餡を作り、皮で包んでじっくりと蒸す。15分ほど経って出てきたニラそばシウマイは、具沢山でもっちりとしていて、香りの良いゆずポン酢との相性が抜群だ。ひと噛みすると熱々の肉汁が口いっぱいに広がる。

みっちゃん蕎麦の「ニラそばシウマイ」(4個入りで税込480円)

敢えてレシピを統一せず

ここまで食べ歩きをして気付いたのだが、鹿沼のシウマイには「統一レシピ」というものがない。地方のB級グルメなどでは、必ずといってよいほど、「基準」とした具材や食べ方があるものだ。

「そこは敢えて、自由にやってもらう方がいいと考えて決めていません」(商工会議所の水越さん)

それが多彩なシウマイ文化を生み、いくら食べ歩いても飽きない理由になっているのだろう……と感心していると、水越さんがおかしそうに、「次は本当に驚くと思いますよ」と一軒の店に案内してくれた。

店名は「創菓工房 松屋」。お菓子屋さんがシウマイ? 首をひねりつつ出されたひと口サイズのシウマイをほおばって、驚いた。甘いのだ。同店が売り出しているスイーツ「シューうまい」という。フリースタイル・シウマイの究極だ。

創菓工房 松屋の「シューうまい」(税込248円)。かぼちゃの種をグリーンピースに見立てている

同店の代表、熊倉雄一さんは「上に載っているボテっとした肉感を出すのが難しかった」と振り返る。試行錯誤の末に、マロングラッセ(栗を糖蜜で漬け込んだ菓子)を使った今の形にたどり着いた。

店舗は山間部に向かう街道の途中にあるため、ロードバイクでサイクリングを楽しむ人たちが小腹を満たすために購入することも少なくないという。たしかに疲れた体にこの甘さは心地良いだろう。

「シューうまい」の構造図

町おこしの前までは、鹿沼市内にシウマイを提供するお店は5店しかなかった。それがみるみる輪が広がり、今は50店以上に。「かぬまシウマイマップ」という店舗案内の地図も作られるようになった。

「町の皆さんが乗ってくれたことに、本当に感謝しています」(水越さん)

きっかけは商工会議所からの依頼だったかもしれないが、店側もやるからには町を盛り上げたいという気持ちがある。ラーメン店「山いち」の山市敦子さんは、「鹿沼が注目されることは嬉しい。どんどん情報発信していきたい」と意気込む。「かぬまシウマイ」の挑戦はこれからも続いていく。

(写真撮影/伏見学)

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