モニター越しにも、そのピンクのパンツは目に眩しかった。グレーのジャケットとコーディネートされたそのファッションに、どうしても目が行く。普通、藤井の対局では、何を差し置いてもまず藤井の動向が注視されるが、この日は違っていた。対戦相手の大橋の装いは、地味になりがちな将棋の対局風景の中で異彩を放っていた。
朝の主役は「ピンクのパンツ」だったが、時間が深まるにつれて華麗に躍動する大橋の駒たちに目を奪われた。AIの評価値は形勢互角を表している。最強棋士である藤井を相手に、大橋は奮闘していた。
そして突然、藤井の評価値が急落した。間違えたのだ。大橋は慎重に駒を進める。優勢になったとはいえ、終盤での一手のミスは即、逆転につながる。しかし、大橋は強かった。藤井以上に質の高いパフォーマンスを見せ、最年少記録を更新し続ける19歳の五冠王を倒したのだ。