2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が好評だ。小栗旬演じる北条義時(小四郎)を主人公に据え、大泉洋演じる源頼朝の隆盛から凋落までを描く、鎌倉時代を舞台にした物語だ。
史実に基づきながらも、三谷幸喜脚本によるウィットと残酷さが入り混じった急勾配のある構成が評判の所以だろう。
今作に限らず、大河ドラマを視聴するときには、歴史を少しかじっておくのが良い。史実と比較することで、より物語を楽しめるからだ。
そうはいっても、今さら鎌倉時代を勉強し直すのは少々の手間なのも事実。そこで今回は気軽に鎌倉時代の基礎をおさらいできる『世界のなかの日本の歴史』シリーズのうちの1冊、『一冊でわかる鎌倉時代』(大石学監修/河出書房新社)を紹介しよう。
『鎌倉殿の13人』佐藤浩一演じる上総広常は、なぜ惨殺されたのか?
集英社オンライン / 2022年7月3日 20時1分
放送のたびにSNSを賑わす大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。源頼朝の側近として重要な役割を果たした北条義時の目線で絵が描かれる同ドラマを、さらに楽しめる書籍『一冊でわかる鎌倉時代』を紹介。
イラスト&図解たっぷりでわかりやすい
学生時代に習った日本史や世界史について、どんな印象をお持ちだろうか。知的好奇心が刺激され、のめり込むように学んだ方もいれば、似たような地名や人名に辟易し、早々に苦手意識を持った方も多いだろう。歴史は好き嫌いが激しい分野である。
本書『一冊でわかる鎌倉時代』は、歴史が苦手だと感じていた方にこそおすすめしたい。
まず、至るところに示されているイラストや図解が、イメージが漠然としやすく歴史への理解を助けてくれる。
鎌倉時代で言えば、鎌倉幕府を作った源頼朝、戦の天才と謳われた源義経あたりはハッキリとイメージできるだろう。しかし、同じ源には「義朝」「実朝」「頼家」「頼経」「頼嗣」など多くの武将がおり、それぞれの人物が何をしたか、パッと暗誦できる人はそう多くはないはず。
本書では、鎌倉幕府の成り立ちから、約30年の短さで幕を閉じた顛末までをわかりやす解説。歴史の教科書では文章や年表の羅列で終わっていた部分が、イラストや図解を駆使することで想像しやすい構成になっているのだ。
同時期の”世界”を知ることで、歴史の”面”を意識
「1185年(もしくは1192年)に源頼朝が鎌倉幕府を作った」と丸暗記するだけでは、よほど覚えやすい事柄以外は忘れてしまう。歴史の面白さは、ひたすら点を打つのではなく、打った複数の点をつなぎ合わせ、面として捉えることで初めて見えてくるものがある。それがわかるのも、この本の魅力だ。
日本で源氏と平家の争いが起こっていた同時期に、世界では何が起こっていたのか。本書では、日本と世界の歴史を同列に示すことで、より多面的に「鎌倉時代とはなんたるか」を見せてくれる。良くも悪くも、世界と日本の違いを知ることができるだろう。
少しだけ視点を広げることで、外から見た鎌倉時代の様子が見えてくる。なんと鎌倉時代の成り立ちには外国(特に東アジア)が関係しているとされ、その観点からの研究も進んでいることがわかる。
鎌倉時代のことを学ぶなら、鎌倉時代だけに焦点を当てた方が効率が良いと思われるかもしれない。しかし、外国と日本の関係性を捉え直すことで、当時の将軍や御家人たちが何をしようとしていたのかも見えてくる。
そうすることで、私たちにとっては「教科書に載っている歴史上の人物」にしか過ぎない彼らが、実際に生きていた命ある人間だったということに気づくことができるのだ。
外国との繋がりを増やし、貿易を盛んにすることで、日本のさらなる発展を目指した向上心。それらを感じることで、より歴史が体温を帯びてくるだろう。
史実を踏まえながら『鎌倉殿の13人』を楽しもう
歴史を面で捉えながら、鎌倉時代を生きた人々の関係性にも目を向けてみる。
本書で史実のポイントを抑えながら、改めて大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見てみると、なんとも味わい深い。
ここでは例として、源頼朝の挙兵を後押しした人物・上総広常を挙げよう。
関東に名を轟かせていた豪族・上総広常(かずさ ひろつね)は、源頼朝が挙兵し平氏を脅かす動きを助けた立役者。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では俳優・佐藤浩一が演じている。頼朝にとってなくてはならない人物の一人と思われるが、1184年に起こった一ノ谷の戦いの後、事件は起きる。
源義経の尽力もあり、この戦いで源氏の力を大いに見せつけた頼朝。武士の御家人化を進め、どんどん軍事政権の形を整えていった。その過程で、自身の脅威となり得る人物は早々に処分する残酷さも見せたのである。御家人を統制する一環として、少々自由すぎた広常は、頼朝の命令により殺害されてしまうのだ。
その凄惨な最後については、ドラマの第15回「足固めの儀式」にて描かれているのだが、本書とドラマを合わせて見ることで豊かな背景が浮かび上がってくる。
そのほかの点についても同様だ。ドラマで描かれている時代背景や人間関係と、史実の間にはどのような違いがあるのか。焦点を当てる人物を変えてみることによって、歴史は広がりを見せる。
鎌倉時代における要点をわかりやすくおさえた本書だからこそ、無用な先入観は排したうえで、しっかりと歴史に向き合えるのである。
史実を知ったうえで見ると、さらに面白さに奥行きが生まれる『鎌倉殿の13人』。おともには、ぜひ『一冊でわかる鎌倉時代』をおすすめしたい。
文/北村有
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