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コロナ禍で仕事が激減。高知県に移住した一家を待ち受けていたもの

集英社オンライン / 2022年7月5日 14時1分

コロナ禍の2021年、東京23区から他道府県に「転出」した人が「転入」した人を、統計開始以来初めて上回った。リモートワークの導入などで生活スタイルや価値観が多様化。これにより都会での暮らしにこだわらず、移住に関心を持つ人が増えているが、移住先が楽園とは限らない。東京都新宿区から高知県へ移住した3人家族にスポットを当てた。

コロナ禍で英会話学校の収入が激減

マユコ(45)と夫のボビー(52)は2020年、コロナ禍で経済的な窮地に立たされていた。2012年に結婚した二人は、新宿区で広い家を借りてAir B&B事業を営んでいた。日系アメリカ人のボビーは英会話講師も兼務。2015年には長男のカイも生まれ、一家の生活は順調に見えた。



しかし、変化は予期せずやってきた。

一つ目の変化は、2016年に法律が改正され、借家でのAir B&B事業にライセンスが必要になったことだった。だが、ライセンスの取得は容易ではなく、また新宿区では週末しか営業ができなくなったことから夫婦は事業継続を諦め、別の家に引っ越した。

次の変化は2020年。現在も続いているコロナ禍で、ボビーの勤める英会話学校が完全オンライン授業となった。多くの生徒が辞め、収入が激減した。Air B&B事業を営んでいた頃と比べ、月にして20万円もの減収に、夫婦は東京脱出を本気で考えるようになった。

それ以前から、カイが生まれたのをきっかけに「もっと空気や水のきれいな、大自然の中で子育てするのもいいね」と話していた二人にとって、都会を離れる時期が来たということなのかもしれなかった。

そんな時、ボビーのUCLA時代の同級生が、高知県仁淀川町でクラフトビール工房をオープンする。一家はオープニングレセプションに招かれると共に、「いいところだから家族で引っ越して来たら?」と誘いを受けた。

山深い高知県は澄んだ水源の宝庫だ

一家はオープニングへの参加を兼ね、仁淀川町を訪れることに。この時、すでに移住を視野に入れていたため、役場にアポも入れ、現地で移住相談員の面談を受けたという。相談員からは、空き家に住めるチャンスがあること、「地域おこし協力隊」が隊員募集中であることなどを聞かされた。

住居費が14万円→実質0円に

地域おこし協力隊とは、総務省が主体となり、希望者が都市地域から過疎地域等へ住民票を移し、地域協力活動を行いながらの定住をサポートする取り組みだ。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は1年以上3年未満。

隊員一人当たり480万円を上限とする地方交付税が自治体に交付される。隊員はそのうちの「報償費」を給料として自治体から受け取る。月額の報償費は自治体によって違うが、おおよそ20万円程度。それ以外は「活動費」として、家賃補助などに充てられる。

一旦、東京に戻った夫婦は話し合った。本当に移住するなら、カイが小学校へ上がる前がいい。ボビーは地域おこし協力隊員に応募することを決める。

その後はトントン拍子だった。2021年2月に受けた隊員の書類選考と3月のオンライン面接に合格。4月15日に初出勤が決まり、一家は仁淀川町の住人となった。

息子カイ、そしてその親友と一緒に庭作りをするボビー

町での最初の住まいは、移住者用のシェアハウスだった。同居人は、やはり東京から移住してきた女性。家賃は無料で、そこに住みながら引っ越し先を探した。

家は1、2カ月もすれば見つかるだろうと高を括っていたが、そう簡単ではなかった。仁淀川町には不動産屋というものがない。ボビーの同級生曰く、「町の人と仲良くなれば、空き家の情報など教えてもらえるよ」。

実際にその通りで、半年が経つうち、周囲の人たちに気心を知ってもらえると、「◯◯さんのところが空いているよ」などという情報が入ってくるようになった。3軒内覧したうちの1軒、8畳2間に6畳が2間、家賃無料(3万円まで活動費から補助)の築30年の民家に住むことを決めた。新宿区の家賃が14万円だったことを考えると、生活費は大幅にコストダウンできた。

新鮮な野菜に満点の星

移住にあたって夫婦が一番心配していたのは、カイが地域の幼稚園に馴染めるかということだった。しかし、心配は杞憂だった。移住後すぐ仲良くなった、元地域おこし協力隊員の息子と同じ保育所に入ることができたのだ。

町には幼稚園がないが、1クラス10人未満のその小さな保育所は、先生の目が子ども全員に行き届き、他の子ども達もおっとりしていて優しかった。

師走には近所のお宅でお餅つき

ボビーは地域おこし協力隊員として、健康な土壌と農作物の関係を研究するなど、地域活性化のためのアイデアを一つ一つかたちにしていく仕事に勤しんでいる。移住当初は教育委員会から依頼を受けて、保育所、小学校、中学校で英語教師のサポート業務も受け持っていた。

マユコは自動車免許を取得。大学で専攻し、以前住んでいたカナダ・トロントでも続けていた金属工芸の作品作りを再開しようとしている。山の上にある炭焼き小屋だった建物を、タダ同然の破格な家賃で借り、家具などを設え、自分のアトリエとして改良中だ。

マユコのアトリエとして改良中の炭焼き小屋内部

地域の人達は親切で、度々野菜をどっさりくれたりする。天気の良い日の夜空はまるでプラネタリウムのように、満点の星が見える。そして、クワガタ、ムカデ、カメムシ、足高クモなどに交じって、今まで図鑑でしか見たことがなかったカラフルな虫が、次から次へと現れるのだそうだ。それも含め、家族全員、ここへの移住生活に大満足して暮らしている。

人間が好きでないと苦労する

ボビーは言う。

「隊員の期限が終わる3年後は、グリーンツーリズムや農業ができる民泊を営むのも面白い。農業は農作物によっては必ずしも通年、フルタイムで働かなくてもいいので、人手が必要な時期に手伝うスタイルもアリだと思う。

ロサンゼルス育ちの僕は、田舎暮らしの経験はないが、庭作りも薪割りも今はYouTubeやSNSの中に先生がいる。買い物も、アマゾンやメルカリで都会と同じものが手に入る。

ここには流行りのレストランはないけど、新鮮な食べ物を安く調達し、友達とバーベキューができる。田舎なら空き家がいくらでもあるし、ネットワークさえあれば、他の地域や国に移り住むことも難しくないと思えてきたよ」

マユコも、移住とここでの暮らし、馴染むコツについて話してくれた。

「今のSNSがある世の中だからこそ、移住できたと感じています。国内外の多くの友達が、SNSにアップした写真や投稿を見てコメントをくれるから、都会ともつながっていると感じられます。それがなかったら、きっともっと孤独だし、誰も見てくれる友達がいない環境で、お洒落をする気もおきないでしょう。

一方、田舎は都会と違い、町の住民が全員知り合いというぐらい、ご近所付き合いが密接です。人間が好きで、地域の人と仲良く暮らしたいと思えないと、苦労するかもしれません」

プラネタリウムのような満点の夜空と澄んだ空気、水。農家さんからもらえる新鮮な野菜。夏になれば川遊びができる仁淀川町の暮らしでカイはのびのびと育ち、ボビーとマユコも癒やされている。

これから自由に選べるとしたら、あなたはどんな場所に住みたいだろうか。

川で遊ぶカイ(手前)とその親友

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