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トム・ハンクスが『エルヴィス』で演じたのは、キャリア唯一のバッドガイ

集英社オンライン / 2022年7月2日 14時1分

『フィラデルフィア』、『フォレスト・ガンプ/一期一会』などで知られるハリウッドのナイスガイ、トム・ハンクス。新作『エルヴィス』では、“ロックスター”エルヴィス・プレスリーを創り上げ、さらに殺したとも言われる悪名高きマネージャー、トム・パーカー役を、特殊メイクで熱演した。これまでのキャリアで見たことがない、その悪役ぶりにかけた思いとは。ロサンゼルス在住の映画ライター中島由紀子さんが、知られざる素顔と共に深掘りする。

エルヴィスの悪名高きマネージャーを熱演

特殊メイクを駆使し、トム・パーカー役を演じた
©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

トム・パーカーという名前を聞いたことがあっても、どんな人物だったかを知っている人は、あまり多くないのではないでしょうか。正体は、エルヴィス・プレスリーのすべてを管理し、伝説のロックンローラーに仕立てた影の男。生涯にわたってマネージャーを務めた強欲な人物です。



バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』で、トム・パーカー役を演じているトム・ハンクスも、「パーカーが誰なのか、バズ(・ラーマン監督)に説明されるまで知らなかった」と言います。

カンヌ国際映画祭で。左から、エルヴィス・プレスリーの元妻のプリシラ、映画でプリシラを演じたオリヴィア・デヨング、エルヴィスを演じたオースティン・バトラー、バズ・ラーマン監督、トム・パーカーを演じたトム・ハンクス
©HFPA

「ある日、バズが僕に会いに来た。トム・パーカーを誰か知らない僕に、エルヴィスを創り上げた天才的な男だという話をしてくれたんだ。聞き始めて7分くらいで“やりましょう!”とバズに言ってしまった。その後で彼の写真を見て、自分とかけ離れたルックスだったから“えっ!”と、息が詰まる思いだったよ。けれどもう、引き受けてしまった後だったから覚悟を決めたんだ」と、カンヌ国際映画祭で会場を沸かせていました。

トム・ハンクスは、トム・パーカーのことを悪魔的天才と呼んでいます。
「恥も外聞もなく、何にでも値段をつけて金儲けにつなげてしまう天才。見方によっては学ぶところがある人物でもあるんだ」

エルヴィス・プレスリーを創り上げ、そして破滅に導いたこのキャラクターは、トム・ハンクスの40年のキャリアの中で“ナイスガイじゃない唯一の役”と言われています。ただし、人格者として知られるトム・ハンクスが演じると、どこか愛すべきキャラクターに見えてくるから不思議。
「悪いヤツを悪いヤツとして演じることほど退屈なことはない。トム・パーカーをただの悪漢として演じるつもりはなかった。プリシラ(エルヴィスの元妻)が言っていたよ。“パーカーは一緒にいて楽しい人だった。彼が部屋に入ってくると部屋中がパアッと明るくなる感じだった”って」

ハリウッドで定着したナイスガイのイメージ

アカデミー主演男優賞にノミネートされた『ビッグ』(1988)、『プライベート・ライアン』(1998)、『キャスト・アウェイ』(2000)、アカデミー主演男優賞を受賞した『フィラデルフィア』(1993)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)など、彼の出演作の一部を並べただけでも、その功績の大きさがわかります。

人魚と恋をする青年を演じた『スプラッシュ』 (1983) を見たときに、「わあ、おもしろい俳優が登場した」と好印象を持ちました。それ以来、出演作品をほとんど見てしまうほど、不思議な魅力に引き込まれてきました。同じような演技を繰り返し、あっという間にハリウッドから消え去った俳優たちは山ほどいます。ところがトム・ハンクスの場合、どの作品でもナイスガイを演じていますが、決してリピートしているわけではありません。60本以上の出演作の中で、常に違う形のナイスガイを演じ、ファンを飽きさせずにきた。これは非常に難しいことですし、並大抵のことではないと思います。誰にでも好かれる役柄を明るく演じているだけではなく、役を深いところまで研究し尽くしているのです。

『フィラデルフィア』ではデンゼル・ワシントン(右)と共演
Photofest/アフロ

『フィラデルフィア』で演じた、ゲイの弁護士、アンドリュー・ベケット役もとてもナイスガイでした。エイズが進行し、死にゆく運命と知りながら、生きたいと願う姿を見事に演じ、ひとつ目のアカデミー主演男優賞に輝きます。まだまだホモセクシュアルへの偏見が強かったアメリカの1990年代。彼自身は、メグ・ライアンとのラブコメ作品で、明るく屈託のないアメリカのナイスガイ像を確立し、人気が安定し始めた頃です。アメリカ社会のエイズに対する無知と偏見と差別を炙り出した『フィラデルフィア』への出演は、もしかすると、彼のナイスガイ・イメージ定着へのチャレンジだったのかもしれません。

当時のことを最近、「ニューヨーク・タイムズ」紙で、こう語っていました。
「僕があの役を演じることが許されたのは、1993年だったからだと思う。今なら当然ながら、ゲイの役をストレートの役者が演じることはない。あの頃はゲイであることを隠さなければ、社会から弾き出されるような空気だった。カミングアウトしている役者もほとんどいなかったしね。僕の“普通の人のイメージ”が、演じる上で役立ったと思う。僕がゲイの弁護士役をやっても、観客は熱愛もしないが憎悪もしない。僕が匂わすナイスガイのイメージは、パーフェクトだったんだと思う」

役柄だけでなくプライベートもナイスガイ

そう、トム・ハンクスは演じる役柄だけでなく、本人も最高にいい人です。どんなときでもユーモアと謙遜を忘れません。

「ハリウッドで一番のナイスガイ」
「地球上で一番のナイスガイ」
「アメリカのお父さん」

アメリカでは色々な呼び方で、彼の人柄が表現されています。

「僕はアップとダウンの差があんまりないタイプだと思う。僕がイライラしたり、子供に使ってはいけないと教える汚い言葉で怒りを吐き出したりする瞬間があるかって? そうだな……プリンターが言うこと聞かず、紙を入れ替えても何をしても動かないときだね」(トム)

テレビシリーズ『バンド・オブ・ブラザース』(2001)の取材で著者と。トムは製作総指揮と1話の脚本、5話の監督を担当した
©HFPA

ナイスガイのイメージについてはこうも語っています。
「嫌なヤツだと思う相手には結構厳しいから、“ハンクスは決してナイスガイじゃない”と言う人がいても驚かない。常に守っているのは、誰にでも敬意を持って接するということ。ところが、それを忘れてしまうときだってあるんだよ。はっきり言えるのは、僕はパーフェクトな人間ではないということ」

妻のリタ・ウィルソンと
ロイター/アフロ

今年で結婚34年になる、妻で女優のリタ・ウィルソンに、「ハリウッドで一番のナイスガイと結婚した感想は?」と聞いたことがあります。
「まだ結婚前でデートを重ねているときに、彼なら一緒にやっていけると感じた言葉があるの。それは、“僕と結婚するからって自分を変える必要はまったくない。ありのままでいてくれればそれでいい”という言葉よ。その言葉を彼が破ったことは、一度もないわ」
うらやましい話です。

順調なキャリアを築き、今やハリウッドで確固たる地位を築いているトムですが、実は、意外な過去があります。「人生を大きく変えた瞬間はありますか?」という質問に対して、こんなことを語っていました。
「本当はシェアしたくないけど、話すよ。人生で大きく何かが変わったと思った瞬間があった。あれは『ビッグ』(1988)の公開のときだった。それまで僕は、離婚してふたりの子供を持つシングルファザーで、友人の家に住んでいたんだ。その上、深刻な税金問題を抱えていて歯医者に行くのも(アメリカの歯医者の治療費は異常に高いのです)ままならない状況だった。『ビッグ』が公開されると評判がすこぶるよくて、上昇気流に乗っていける予感がした。公開時にはリタと結婚もできたし、アカデミー賞候補にもなって、自分のやってきたことが実り始めていると思えた瞬間でもあった。これで家賃も払える、歯医者にも行ける、色々な問題から解放されそうだと実感できた。何かが大きく変わったと思える瞬間だったんだ」

ゴールデン・グローブ賞授賞式で涙のスピーチ

第77回ゴールデン・グローブ賞授賞式でのハンクス一家。左からコリン・ハンクスの妻のサマンサ・ブライアン、コリン、トム・ハンクス、リタ・ウィルソン、チェスター・ハンクス、エリザベス・ハンクス、トルーマン・ハンクス
©HFPA

第77回ゴールデン・グローブ賞では、セシル・B・デミル賞(名誉賞)を受賞。2020年1月に行われた授賞式にはファミリー全員が集合し、お祝いをしていました。

44歳の長男コリンは俳優で、40歳の長女エリザベスはライター。「ヴァニティ・フェア」誌や「ガーディアン」紙に執筆しているそう。このふたりが、元妻で女優のサマンサ・ルイスとの子供です。次男チェスターは31歳、26歳の三男トルーマンは、スタンフォード大学を卒業し、現在は撮影部門で働いているよう。

トムのスピーチを聞き、涙を拭くトルーマン(中央)と、涙ぐむエリザベス(右)
©HFPA

トムは授賞式のスピーチで、「(コリンの妻、サマンサ・ブライアンも含めた)5人の素晴らしい子供たちは、みんな父親よりも賢く、人間的にも素晴らしい。僕が彼らに教えることは何もありません。そして非の打ち所がない妻のリタ。ファミリーの愛の支えなくして、今の僕はありません」と涙を浮かべて語っていました。

セシル・B・デミル賞を受賞し、満面の笑み
©HFPA

このスピーチを聞いて、会場にはもらい泣きする人が続出。セシル・B・デミル賞を受賞した俳優の中には、嬉しさを抑えて気取っている人もいます。でも、トムは大喜びして涙ながらにスピーチをし、心から「ありがとう」と感謝を伝えていました。素晴らしいキャリアを築きながらも、気取らず、おごらず、本当に素直で素敵な人。その卓越した演技力とにじみ出る人柄で、これからも魅力的なキャラクターを演じてくれるに違いありません。

文/中島由紀子 構成/松山梢

©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『エルヴィス』(2022)Elvis 上映時間:2時間39分/アメリカ
センセーショナルなパフォーマンスで若者から熱狂的に支持され、一躍トップスターとなったエルヴィス。ところがブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスが問題視され、警察の監視下に置かれてしまう……。エルヴィスを演じたオースティン・バトラーは、ほぼ全編、吹き替えなしで歌とダンスを披露。生涯にわたりエルヴィスのマネージャーを務めた悪名高いトム・パーカーを、トム・ハンクスが演じた。

7月1日(金)より全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/

トム・ハンクス
1956年7月9日生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。1979年に『血ぬられた花嫁』で映画デビュー。『スプラッシュ』 (1983)『ビッグ』(1988)『フィラデルフィア』(1993)『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)『プライベート・ライアン』(1998)『キャスト・アウェイ』(2000)など出演作多数。『すべてをあなたに』(1996)や『幸せの教室』(2011)など、映画監督としても活躍している。

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