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なぜ君は総理会見に参加できないのか? 直近10年「新規登録0人」の異常性

集英社オンライン / 2022年7月7日 12時1分

「直近10年で新たに事前登録が認められたフリーランス記者は0名」という、日本の総理大臣記者会見の異常な閉鎖性を伝えるシリーズ企画の第2弾。フリーライターの犬飼淳氏は、本サイトに掲載した第1弾の記事内容、経緯をもって参加条件を満たしたはずだったが、そこにはさらなる落とし穴が待っていた。

官邸報道室から、さらなる“後出し条件”が……

2012年12月に自民党・第二次安倍政権が発足してからこの10年間にわたり、「新たに事前登録が認められたフリーランス記者は0名」という、世界に類を見ない、日本の総理大臣記者会見の異常な閉鎖性については、前回記事「なぜ君は総理会見に参加できないのか? 「報道自由度71位」という日本の異常な現実」(2022年5月31日)に記した通り。



あらためて、フリーランス記者が総理大臣記者会見に参加・質問するには、通過すべき4つの関門(①事前登録→②抽選→③参加→④質問)があるのだが、前回記事の掲載によって筆者は晴れて「事前登録」の条件を満たし、今回はそれ以降の流れについてリポートする……はずであった。

ところが、官邸報道室から再び後出しで事前登録の条件が追加され、筆者はまだ条件を満たしていないことが判明した。一体どういうことなのか? まずは前回記事でもお伝えした、登録に必要な条件を振り返る。

・直近3ヶ月以内に協会(日本専門新聞協会、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会、日本新聞協会)の加盟社が発行する定期的刊行物等に総理や官邸の動向を報道する署名記事を掲載

・上記記事を掲載した加盟社または媒体の編集者からの推薦状を提出

出典:官邸報道室から筆者への参加条件を連絡するメール(2022年4月28日 発信)を筆者が要約

このうち、署名記事は「直近3ヶ月」かつ「総理や官邸の動向を報道する内容に限る」こと、「推薦状も必要」であることは、官邸報道室の担当者とやり取りを重ねる中で明らかになった内容。つまり、後出しでされた条件だ。

これらを踏まえ、筆者は「総理や官邸の動向」に関係する前回記事を、本年5月31日付で、日本雑誌協会の加盟社である集英社が運営する当サイトに寄稿。これによって今後3ヶ月間(8月末まで)は総理大臣記者会見の事前登録の条件を満たしていると解釈していた。

ただ、一方で小さな不安があったことも事実だ。前回記事でも伝えた通り、官邸報道室から参加条件を伝えるメールに添付されていた事前登録申込書に、気がかりな文言が含まれていたのだ。それは「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」というもの。

内閣総理大臣官邸報道室からのメールに添付された事前登録申込書。メール本文には記載されていなかった、「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」という厳しい条件が追加されている。ただし、タイトルが「内閣官房長官の定例記者会見」とあり、どこまで正確な文書なのかは不明

それまでのやり取りでは「直近3ヶ月以内に署名記事を掲載」だったはずが、この事前登録申込書には「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」となっているのだ。

総理大臣記者会見への参加が認められないフリーランスの記者にとって、「直近3ヵ月以内に1つ」ならともかく、「直近3ヶ月以内に各月1つ以上」「総理や官邸の動向を報道する」記事を掲載してもらうことは、容易ではない。

ただ、この条件について官邸報道室は筆者宛のメール本文で一切、言及していない上、タイトルが不正確(「内閣官房長官の定例記者会見」)な添付ファイルに記載された内容だけに、これを「正式な参加条件だ」と主張することはさすがにないだろうと筆者は心の底では楽観視していた。

官邸報道室との静かな攻防

5月31日に記事が掲載され、推薦状の目処も立ったことで、筆者は官邸報道室とのメールでのやり取りを再開した。表向きは申請書類の提出方法を確認しながら、「事前登録の条件を既に満たした」という筆者の解釈が正しいのか探りを入れた。以降、その際のメールのやり取りをそのまま紹介する。

官邸報道室 担当者さま

フリーランス 犬飼淳です。お世話になっております。
先日 問い合わせた総理大臣記者会見の参加申込について、確認がございます。

今週、日本雑誌協会 加盟社(集英社)が運営する「集英社オンライン」にて「総理や官邸の動向」に関する署名記事を掲載しました。
shueisha.online/culture/19508

また、掲載媒体の責任者から推薦状を頂いており、これにて4月28日に○○様にメールでご回答頂いた総理記者会見の事前登録 条件3点を満たしたと考えています。

————————————————————
参考:4月28日 官邸報道室 ○○様からの返信メールに記載された条件
① 顔写真付きの身分証明書の写し
② 直近3ヵ月間の掲載記事の写し(申込書の(注)にございます通り、(社)日本専門新聞協会、(社)日本雑誌協会、日本インターネット報道協会、(社)日本新聞協会の加盟社(以下「加盟社」という)が発行する定期的刊行物等への掲載で、総理や官邸の動向を報道するものに限る。)
③ 記者としての活動実績・実態についての②を掲載した加盟社又は媒体による証明(②を発行したことの確認と、推薦状又はこれに代わるもの)
————————————————————

これらの提出にあたり、改めて確認させてください。

事前登録申込書および上記3点(①②③)は全て電子ファイルをメール添付する形で提出して問題ないでしょうか。それとも③の推薦状だけは原本を郵送した方がよろしいでしょうか。お手数おかけしますが、ご回答お願い致します。

犬飼淳

出典:筆者から官邸報道室へのメール(2022年6月3日 11:10発信)

官邸報道室から提示された事前登録の条件を示した上で、1回目の記事掲載をもって条件を満たしたと解釈したことを筆者は意図的に明記した。これに対し、官邸報道室から即座(27分後)に返信メールが届いた。

犬飼 様

お世話になっております。
事前登録等の書類については、推薦状も含め
全てメールに添付いただく形で問題ございません。
どうぞよろしくお願いいたします。

官邸報道室

出典:官邸報道室から筆者へのメール(2022年6月3日 11:37発信)

官邸報道室から筆者へのメール(2022年6月3日 11:37発信)

官邸報道室は表向きの用件(申請書類の提出方法)に簡潔に回答した一方、事前登録の参加条件を達成したという筆者の解釈については一切、言及がなかった。

一般的な感覚であれば、ここまで明確に書いても否定しないのだから、条件は満たしたと安堵するところだろう。

しかし、総理大臣記者会見に度々参加しているフリー記者に筆者が確認したところ、「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」という条件は現在も有効なはずで、そのために申請自体を諦めたフリー記者が多数いるという衝撃的な実態を知らされた。

つまり、官邸報道室は筆者が参加条件を満たしたと誤解していると気づきながら、一切、指摘せずにやり取りを続けた可能性がある。過去のやり取りで示された「事前登録の手続きには1ヶ月ほどかかる」という見解も踏まえて、官邸報道室の狙いを推測すると以下のような流れを目論んでいたのではないか。

6月上旬:筆者が総理大臣記者会見の事前登録を申請
7月上旬:官邸報道室はきっちり1ヶ月かけて、事前登録の審査結果を筆者に連絡。登録条件を満たしていないことを理由に申請を却下。

この目論みに乗ってしまうと、登録条件を満たしたと油断した筆者は、6月には「総理や官邸の動向」に関する署名記事は寄稿しない。

すると「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」という条件が事実であると7月に入ってから気づいても、6月の記事掲載がないため、7月を1ヶ月目として改めて3ヶ月連続で記事が掲載されなければ条件を満たすことはできなくなる。つまり、5月に掲載された記事はリセットされ、条件達成は最短でも9月にずれ込むのだ。

そこですぐさま、登録条件の解釈をピンポイントで官邸報道室に確認することとした。

官邸報道室 担当者さま

お忙しいところ、素早いご返信ありがとうございます。書類の提出方法は全てメール添付で問題ないこと、承知しました。

また、署名記事1点の掲載と推薦状をもって事前登録の条件を満たしたと私が考えていることについて、特に否定はされませんでしたが、官邸報道室としても同じ認識ということでよろしいでしょうか?

以前に添付して頂いた申込書(タイトルが「内閣官房長官の定例記者会見 事前登録申込書」と不正確)では、署名記事について「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載していることを示すもの」という文言が含まれていましたが、これはタイトルが不正確であることと同様に、総理会見における条件ではないという理解で正しいでしょうか?

もし認識違いがあれば、ご指摘お願いします。

犬飼淳

出典:筆者から官邸報道室へのメール(2022年6月3日 12:22発信)

官邸報道室からはまたも即座(1時間後)に返信メールが届いた。

犬飼様

お世話になっております。
誤った様式を送っておりましたこと、お詫び申し上げます。
大変失礼いたしました。

改めて、総理大臣会見の事前登録様式をお送りいたします。
(参加条件については、先にお送りしました官房長官会見と同様です。)

「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載していることを示すもの」
の条件については、総理大臣記者会見においても必要になりますので
お手数をおかけしますが、こちらについてもご対応のほど、よろしくお願いいたします。

この度は犬飼様の誤解を招いてしまい、大変申し訳ございませんでした。

官邸報道室

出典:官邸報道室から筆者へのメール(2022年6月3日 13:22 発信)

官邸報道室から筆者へのメール(2022年6月3日 13:22 発信)

官邸報道室は意外にも「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」が正式な条件だとあっさり認め、筆者はまだ事前登録の条件すら満たしていないことが明らかになった。

「ひとつ前のメールで正直に教えてくれればいいのに……」と不親切な対応に不満を感じつつも、全てを飲み込んで以下のメールを送り、やり取りはいったん終了した。

官邸報道室 担当者さま

素早いご返信ありがとうございました。
事前登録様式、参加条件について理解いたしました。
今後とも何卒よろしくお願い致します。

犬飼淳

出典:筆者から官邸報道室へのメール(2022年6月3日 14:38発信)

ちなみに今回、添付されていた総理大臣記者会見の事前登録申込書は以下のような内容であった。

官邸報道室からのメールに添付された、総理大臣記者会見の事前登録申込書。前回に誤って添付された官房長官会見用の様式と比べて、タイトル以外は同じ。

前回に誤った事前登録申込書を送ってきたのはケアレスミスの可能性もあるが、こうも不親切な対応をされると、それすらもわざとだったのではないかと勘繰ってしまう。

つまり「官房長官会見の登録申込書」を1ヶ月かけて審査した後、これは「総理会見の登録申込書ではない」という理由で申請を却下されたとしても、もはや大きな驚きはない。

直近10年で「フリーランス記者の新規登録0人」の要因

前回と今回の記事で紹介した官邸報道室の対応を改めて振り返ると、「いかにして新規登録のハードルを高くするか」に腐心しているかがよくわかる。

・参加条件に関する情報は極力一般には公開しない(電話やメールでやり取りを重ねると隠された条件が次々と明らかになる、等)

・参加条件をこっそりと伝える(メール本文ではなく添付ファイルの文言のみに条件を記載する、等)

・こちらの解釈を明記しただけでは、その正誤について回答しない。答えざるを得ないほどピンポイント(「この理解で正しいか?」等)に質問した段階でようやく回答する

前回記事でも紹介した通り、現時点で総理大臣記者会見に事前登録しているフリーランス記者(約10名)は全員、2012年の民主党・野田政権以前に登録している。つまり、この10年間にわたって、新たに事前登録が認められたフリーランス記者はひとりもいないのだ。

その要因は、こうした官邸報道室の閉鎖的対応によって事前登録のハードルが引き上がり、フリーランス記者は申請自体を諦めざるを得なかったからだということが徐々に明らかになってきた。

実は今回の記事公開によって、筆者は3ヶ月連続で「総理や官邸の動向」に関する署名記事を協会加盟社が運営する媒体で掲載した。

*5月に総理大臣記者会見の参加条件に関する記事(https://shueisha.online/culture/19508)、6月にインボイス制度に関する岸田総理答弁の記事(https://shueisha.online/culture/25881)、7月に本記事を公開。

これにより、今度こそ総理大臣記者会見の事前登録の条件を満たしたことになる。筆者がフリーランス記者として約10年ぶりに事前登録に成功するのか。それとも官邸報道室が登録を阻むために新たな小細工を繰り出すのか。引き続き、身をもって検証していきたい。


写真/小川裕夫

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