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「未だ世に出る名もない差別に衝撃」。間宮祥太朗さんインタビュー【60年ぶりの映画『破戒』に主演】

集英社オンライン / 2022年7月16日 13時1分

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被差別部落の問題だけでなく、まだ名前も付いてない差別が、未だに世の中に出てくることが改めて衝撃だった。

今から約150年前、明治4(1871)年に明治政府は「それまでの身分制度で賤民とされていた人々の身分や職業を平民と同様にする」と太政官布告をしました。それまで交際、結婚、居住などにおいて様々な制約や差別を受けてきた人たちは、解放令により、平民として結婚や職業選択の自由、苗字の取得などを得ました。

ところが明治38(1905)年、長野県で教員をしていた島崎藤村が書いた長編小説「破戒」の中では、解放令から30年ほど経っても、未だ被差別部落の出身者にまつわる差別の実態が描かれています。


主人公の瀬川丑松は、優秀な成績を収め、教員となり、生徒たちからも信頼されていますが、家を出るときに父親から、被差別部落で生まれたことを決して人に明かしてはいけないとの戒めを受け、絶えず心苦しさを抱えています。本の中では、旧来の身分制度にこだわる人間や、新平民へ侮蔑の感情を露わにする人間の描写があり、今の時代に通じるヘイトを生み出す心理状況を生々しく描きます。

大正11(1920)年3月3日、被差別部落の人々の解放を目指して全国水平社が設立され、今年で100周年を迎えました。創立大会で読み上げられた宣言文がかの有名な「水平社宣言」です。

宣言の原文は被差別部落出身の一人の若者が考えたもので、長い歴史において、不当な差別を受けてきた人々の意識革命を決起した言葉が並びます。水平社宣言の原文と現代語訳は調べるとウェブ上でも簡単にアクセスできるのでぜひ、見ていただきたいのですが、「人の世に熱あれ、人間に光あれ。」の末文には、すべての人があらゆる差別を受けることのない社会の実現への希望に満ちています。

あれから100年、私たちの暮らす社会から差別は消え、全ての人が人間らしく生きられているでしょうか? 島崎藤村が不当な差別を受ける側の内面へと迫り、苦悩を描いた『破戒』の映画化で主人公、瀬川丑松を演じた間宮祥太朗さんにお話を伺いました。

(左)間宮祥太朗(Shotaro Mamiya)
1993年生まれ、神奈川県出身。中学時代からモデルとして活動をはじめ、2017年、『お前はまだグンマを知らない』にて映画初主演。『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019)、『殺さない彼と死なない彼女』(2019)、『RED』(2020)、『東京リベンジャーズ』(2021)はじめ数々の映画やドラマの話題作に出演している。現在、KTV系列『魔法のリノベ』に出演中

島崎藤村が思いを寄せた、モデルとなった先輩の教員。藤村の個人的な思いが『破戒』の文章に乗っている印象を受けた。

──島崎藤村は国語の教科書で必ず紹介される作家なので、彼の小説の『夜明け前』や『破戒』もタイトルは知っているという人が多いのですが、実際、読んでいるかというとそう多くないのかもしれません。

今回、調べると、『破戒』が小学校教員時代、同じエリアにかつて部差別部落出身であることで理不尽な差別を受けながら、堂々と教員に立ち続けた先生の話を周囲から聞き、知り合いに取材を重ねて、自主出版した作品だと初めて知りました。


「自主出版であっても世に出したかったということもあり、原作を読んだとき、僕は藤村の個人的な思いが文章に乗っかっているような印象を受けました。藤村が、自分の先輩である、モデルとなった教師の人に自分を投影していたのかどうかは、もう100年以上前で知るよしはないんですけど、小説の主人公として置いた瀬川丑松に託した想いはとても強いと感じますよね。おそらく藤村は、教員生活の合間の週末に、色々取材をして、リサーチして、もがきながらも感情が乗って、丑松という人物を作り上げた気がします。

原作を読んだときに強く感じたのは、丑松の生徒たちへの接し方でした。いろいろな登場人物が出てきますけど、彼は、生徒と教師、大人と子供という区別をせず、ひとりひとり、人間として、ちゃんと目の前の相手と対等に対話をしている。そのことを大事にしている役柄だなあと思ったし、そこが丑松のキャラクターの中ですごく好きな部分です。彼のそういうところを大事にしたいなと、当初の脚本では生徒たちに対して敬語を使ってなかったんですけど、僕から監督と相談して、敬語に変えてもらったんです」

時代は明治後期、瀬川丑松はある地方で小学校教員をしている。

──元々、『破戒』は過去に2度映画化されていて、ひとつは松竹の木下惠介監督の『破戒』で、丑松役は池辺良さん。大映版では市川崑監督で、市川雷蔵が主演です。

私は雷蔵版の『破戒』が大好きで、よく息子に見ようよと誘ったりしたのですが、内容がいいとわかっていてもモノクロで、重そうだから見たくないなあと敬遠されちゃって。今回、間宮さんが主演だと話したら、「それなら見たい」って話していました。


「わあ、嬉しいな。それが、今回、僕が演じる意味につながるかな。自分もこの話をいただいた時、原作は100年も前のものだし、二回も映画化されている。なぜ、僕が主演で、令和になって映画化をするだろうと、まず最初に疑問を持ちました。

原作と脚本を読んで、これは昔の話ではなく、今の世の中のことを考えて制作陣は作るんだなと自分も納得して、だったらできるかなと思いました」

葛藤を抱えて生きる丑松に抱いたイメージは、ピンと張りつめた湖に投げ込まれた波紋。

──過去作はご覧になったんですか?

「影響を受けたくなかったので撮影が終わるまで2本とも見ませんでした。先程に言ったように小説は読んで、文芸小説としての気品を感じたので、僕が演じることでそれを破壊したくないと思いました。

最初に抱いたイメージとしては、瀬川丑松はピンと張り詰めた池とか湖の水面みたいな印象です。そこに小さな石が投げ込まれたり、雨が降ったりして、水面に徐々に波紋が広がっていって、ついには父から受けた『被差別部落の出身であることを誰にも口外するな』という戒めを破る。そこに向けて、徐々に波紋を大きくしていって、最終的には嵐や洪水で、表面の水の動きが上下左右に入り組んだ感じ、そこを経て、また静かに張っている状態に戻るんだけど、でも最初の状態とは池の中の水が全部入れ替わっているという。

抽象的なイメージですけど、そういう感情の流れを表現していきたいと考えていました。ある場面で、脚本に『叫ぶ』とト書きであったんですが、前田和男監督から、叫んでいる声と音は消して無音状態にして、表情だけが叫んでる状態にするという説明を受け、そういう明白なビジョンがある中で、どう心の叫びを表すか考えたりするのが面白かったですね」

逗留していた宿で被差別部落出身の大尽への不当な差別を目撃し、丑松は近隣の寺への転居を決意する

志保との場面では細やかな感情の交わりがある。

──すごく詩的なアプローチで、素敵ですね。今回の間宮さんの丑松はカラー映画ということもあり、特に瑞々しい青の時代という印象を受けました。

下宿先で知り合う、士族出身の志保との仄かな恋愛も展開しますが、志保は与謝野晶子を愛読し、時代の変化にビビッドに反応している女性像として描かれていますね。二人の恋愛感情を表現する上で大切にされたことは?


「丑松と志保の関係においては、演じながらというよりも、完成した作品を見て感じる部分が多かったですね。すごく細やかな感情の交わりがたくさんあるんです。

③ 士族出身の志保(石井杏奈)は健康のすぐれない父を持ち、家族のために寺の養女となっていた。丑松と志保は文学を通して、心を通わせていく。

今、メディアでは色んな恋愛リアリティショーがあるじゃないですか。スキンシップを電波を通して結構、見慣れているというか。そういう流れの中にいて、『破戒』では、桜の花びらの動きを追っているときに、一瞬、二人の目と目があう。これは監督の演出ですけど、明星という雑誌を一緒に読んでいるとき、僕がめくったページを志保役の石井杏奈さんが受け取って、一枚ページをめくる。それだけの作業の中で、触れそうになる手や、近づく顔とか、些細な距離感で、二人の交わりが見えてくる。

そういう表現で伝えていく感情の演出が、個人的にはぐっと来て、すごく良かったなあと思いますね。監督からは、「破戒」は丑松の物語で、差別の中で生きて、父の戒めを破る話ではあるけれども、志保との場面はラブストーリーを撮っているつもりで撮影したいと仰っていたので、それを頼りに演じました」

矢本悠馬とはプライベートでも仲が良いので、素直に演技することができた。

学生時代からの親友、銀之助を演じるのはプライベートでも仲のいい矢本悠馬さん。

──その父の教えを破って、自分のことを友人や生徒に告白する場面があります。今の時代では、自分のアイデンティティや特性について、カミングアウトしたくなければ話さなくてもいいと、人権を守るという姿勢が尊重されています。
丑松のカミングアウトの場面はどう解釈されて演じましたか?


「丑松が親友で、同僚の教員である銀之助に自分のことを告げる場面があるのですが、演じている矢本悠馬とは、2014年のドラマ『水球ヤンキース』から何度も共演していて、プライベートでもずっと仲良くしていたので非常にやりやすかったし、あれこれ考えすぎず、素直に演技をすることが出来ました。

生徒たちに話す場面では、丑松は自分から積極的に告白したいから告白するわけではなくて、自分にとって大事な生徒たちひとりひとりに、自分の経験と感情を伝えることで、子どもたちがこの先、自分の頭で考えて、成長して大人になる過程での一つの材料として、いつかふっと、『先生はこういう思いでいたのかな』と思いいたるように、種のまくような気持ちだったかと思っています」

水平社宣言から100年、でもまだ差別が残っていることが衝撃的

──2022年は水平社が設立され、水平社宣言が行われてから100年目にあたりますが、色々リサーチされる中で、間宮さん自身が改めて知ったことの中でショックだったことは何ですか?

100年以上、月日が経ってなお、差別がこの社会に残っていることです。被差別部落だけの差別だけでなく、新しい差別だったりとか、新しく名前が付いた差別だったり、もしかするとまだ名前も付いて無くて、ジャンル分けがされてない差別もありますよね。それが未だに出てきていることがやっぱり、改めて衝撃的というか。

自分は今回の『破戒』は部落差別の背景があるけれども、部落差別にだけフォーカスした映画だとは思ってないんでいません。だから、先ほども言いましたが、令和の今、60年ぶりに映画化される意味があると思っています。

元々、水平社100年に向けて、最初はドキュメンタリー映画で歴史を紹介する案もあったと聞いています。それをドキュメンタリー映画じゃなくて、劇映画にして、令和の映画館で上映するということが、今、この世の中の空間に漂っている差別の根や空気感とリンクして、自分が演じる意味もあるし、見てくれる人達もそれぞれの感じ方をしてくれることでしょう。そこに映画化の意味が何かしらあると思います」

丑松は被差別部落出身の思想家、猪子蓮太郎(眞島秀和)を尊敬し、交流を重ねていたが、あるとき、悲劇が起きる。

破戒

1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督と名だたる巨匠が映画化してきた島崎藤村の同名小説「破戒」を60年ぶりに映画化。
明治後期を舞台に、亡き父(田中要次)から被差別部落出身の出自を隠し通すように強い戒めを受け、教師となった瀬川丑松(間宮祥太朗)の内面的葛藤が静かに描かれる。丑松が思いを寄せる下宿先の士族出身の志保に石井杏奈、親友の銀之助に矢本悠馬が扮している。改めて日本社会の差別について考えさせられる一作。
監督は、椎名桔平主演の映画『発熱天使』(高崎映画祭招待作品)やキネマ旬報「文化映画部門」ベストテン7位の『みみをすます』(教育映画祭最優秀賞・文部科学大臣賞)を監督した前田和男。

出演:間宮祥太朗 石井杏奈 矢本悠馬 高橋和也 小林綾子 七瀬 公 ウーイェイよしたか(スマイル) 大東駿介
竹中直人 / 本田博太郎 / 田中要次 石橋蓮司 眞島秀和
原作:島崎藤村『破戒』 脚本:加藤正人/木田紀生 監督:前田和男 音楽:かみむら周平

2022年製作/119分/日本
企画・製作 全国水平社創立100周年記念映画製作委員会 制作 東映株式会社
制作協力・配給/宣伝 東映ビデオ株式会社 制作プロダクション 東映株式会社京都撮影所

©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

★7月8日(金)から丸の内TOEIほか全国ロードショー公開。

『破壊』公式サイト


執筆参考文献:
荒木謙『『破戒』のモデル-大江礒吉の生涯』 解放出版社
東栄蔵『大江磯吉とその時代-藤村の「破戒」のモデル』 信濃毎日新聞社
水野永一『『破戒』のモデル-大江礒吉考』 ほおずき書籍

撮影/菅原有希子

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