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女性の社会進出、コロナ禍のメイク欲……爆売れのリップモンスターから紐解く落ちない口紅の背景

集英社オンライン / 2022年7月17日 17時1分

爆発的な人気を誇り“都市伝説リップ”とも呼ばれるKATEのリップモンスター。マスク社会で絶大な支持を得たのはなぜか。その秘密に迫ると、生みの親であるカネボウ化粧品の長きに渡る挑戦と、KATEがブレずに貫き続けたブランドコンセプトが見えてきた。

ドラッグストアで展開されるコスメブランドの中で異彩を放ち、クールで強い女性のイメージが根付いているKATE。

そのKATEから2021年5月に発売された“落ちにくいのに、つけたての色がそのまま持続する口紅「リップモンスター」が爆発的な人気を誇っている。

その売り上げ実績は、発売から1年経った2022年5月の時点で累計出荷本数は350万本※を突破。未だ入手困難な状態が続いている。



実際リップモンスターは口紅市場でのシェアも1位を獲得。眉や目元のメイクアイテムが人気のKATEのイメージを覆す、ブランドを代表するアイテムの1つとなった。

今では当たり前のように求められている“落ちないリップ”だが、その歴史が始まったのはいつからなのか。日本におけるリップアイテム市場の歴史を、KATEのPR担当・若井麻衣さんに聞いた。

落ちないリップのはじまり

カネボウ化粧品の“落ちないリップ”への挑戦は、実はリップモンスターが初めてではない。

歴史を遡ると、“落ちないリップ”の歴史は1988年に登場した「BIOフィットネット口紅」がはじまりだ。吐息の水分が唇にネット状の膜をつくり、落ちにくい、におわない、軽い感触という機能性を持つこの商品は、やがて発売される「落ちない口紅」の礎となった。ちなみにこの口紅のキャンペーンソングは、南野陽子の「吐息でネット。」。この曲も大ヒットした。

さらに、1992年2月に発売したテスティモの「落ちない口紅」で待望の「落ちない」を実現。口紅のカラーバリエーションだけでなく“機能”をプラスしたことが大ヒットに。同年の日経優秀製品サービス賞最優秀賞を受賞した。

「落ちない口紅」のすごさは、発売後2ヵ月で189万本、1年間で499万本を売り上げたという圧倒的な数字から想像できるだろう。しかし、ここまでの売り上げを後押ししたのには、もう1つ理由があったと担当者は教えてくれた。

「リップ専用のクレンジング『リップカラークレンジング』を『落ちない口紅』の発売日と同日にリリースしました。落ちない口紅と、リップカラークレンジングを一緒に発売することで“(専用のクレンジングが必要なほど)落ちないんだ”という印象を世の中に与えることができ、説得力が増し、口紅市場でその新たなジャンルを開拓できたのだそうです」

1990年代、落ちないリップはなぜ求められた

ここで、もう1つの疑問が生まれる。そもそも落ちない口紅が、こんなにも世間から求められたのはなぜなのか。

その答えを、担当者は当時の社会情勢にあったと教えてくれた。

「1990年代に入り、女性の社会進出が急速に進んでいきました。そのため、オフィスで口紅の色落ちを気にする女性が増えたんです。

落ちない口紅が発売されたのは、その頃でした。落ちない口紅をつけていれば塗り直しのために何度も席を立つ必要がないというのが、ヒットした理由の1つなのではないかと考察します。女性の社会進出に伴う、ニーズを叶える商品だったんです」

カネボウ化粧品では、その後、1994年に「落ちにくさ33%アップ・うるおい2.5倍」とさらにパワーアップした「テスティモリップスティック(ラスティングⅡ)」を発売。こちらは2ヵ月で200万本の大ヒットを記録した。

さらに2年後の96年には「テスティモⅡ スーパーリップ」を開発。イメージキャラクターに男性アイドル木村拓哉を起用し、CM好感度No.1に。2ヵ月で312万本を販売し、落ちない口紅市場で不動の地位を確立した。

発売するたびに、記録をどんどんと塗り替えていったカネボウ化粧品の落ちない口紅。

色を乗せるだけだった口紅に「落ちなさ」を、そして「潤い」を両立させる技術を加え、真摯に向き合い続けてきたことが、現代の落ちないリップの土台になっているのだ。

大ヒットアイテムの開発を支えた2つのカギ

今回、取材に応じてくれた若井麻衣さんがPRを担当するKATEでは、商品開発をする上で「市場ニーズに合うもの」と「情緒性」を掛け合わせるように意識していると教えてくれた。

そこで頭をよぎるのが、コロナ禍の時代に誕生したリップモンスターだ。

コロナ禍により、外出が制限され、マスクをすることが当たり前となったこの2年あまり、化粧品業界全体の売り上げが大きく落ち込んでいる。マスクで隠れる、見せる機会が大幅に減ったリップ市場は特にそうだ。

しかし、そんな社会情勢が続く2021年5月に「ケイト リップモンスター」は登場した。

時代に逆らうようなタイミングで出したリップモンスターについて、社内外からは「なぜ今、リップなのか」という声もあったそうだ。しかし、この当時の心境を若井さんは次のように教えてくれた。

「たしかに、マスクでリップメイクが隠れてしまうタイミングで、リップアイテムの需要があるのかと疑問視する声があるのも納得でした。

しかし、SNSで女性の声を拾っていくと“マスクをしていたって、メイクしたい”という声があることに気づいたんです。そのニーズをしっかりキャッチできたところが、すごく大きかったなと思っています」(若井さん)

この大きな決断は、長きに渡り「市場ニーズに合うものを的確に捉えて出す」ということを繰り返してきたからこそできたこと。そこにKATEの商品のもう1つのカギ「情緒性」を掛け合わせた。

「ただ落ちない口紅を作ったところで、その技術は既にありますし、それだけでは受け入れられないだろうと思っていました。

そのため、今回は落ちないという技術だけではなく、メイクをするときのワクワク感と楽しみ感を入れようと決めたんです。

その結果、以前から意識していた情緒性のある、かつSNSでつぶやきたくなるようなネーミングを考えました。

KATE史上最強に落ちない口紅であるため“最強”なイメージが強い「モンスター」と「リップ」を組みわさせたリップモンスターと名付けたのです」

さらに、ネーミングへの情緒的こだわりは、それぞれのカラーにまで。

例えば、01のカラーは「派手な赤は嫌だ。でも子どもっぽく見えるピンクも嫌だ」「私は絶妙な赤ピンクの口紅が欲しいんだ!」という“モンスター”の欲望に応えたいとの思いを込めて“欲望の塊”と表現している。(全色に込められた思いは最終ページへ)

01 欲望の塊

KATEが考える女性にとっての口紅

長い歴史の中、常に変わり続けるメイクへのニーズ。今、KATEにおいて、リップアイテムはどのような位置付けにあるのか。若井さんは次のように答えてくれた。

「KATEがターゲットとする10〜20代の女性の中で、口紅はマストアイテムとなっている印象があります。その理由は、1番メイクをしている感が出やすいですし、血色感を含めて顔全体の印象をコントロールできるアイテムだからというのが理由だそうです」

実際、人生で初めてメイクをする時に買うアイテムとして、また、外出時に持ち歩くコスメの1つとして口紅を選ぶ人が多いのも前述の理由からだろう。加えて、口元が顔全体の表情に与える影響が大きいことは、コロナ禍の今、身に染みて実感したはずだ。

また「落ちない唇が求められてきたのは、会話や食事などにより、他のパーツよりも化粧くずれしやすいからだけではない」と若井さんは言う。

「魅力的に見せるだけでなく、自分を表現するという意味でも口紅は時代を問わず重宝されてきました。

いつの時代も落ちにくい口紅が求められてきたのは、口紅が落ちてしまうことで表現したい自分らしさが損なわれてしまったり、顔全体のバランスが保てなくなったりするのを防ぎたいからだと考えます」

唇は言葉を発して思いや感情を伝えるパーツだ。だからこそ、その色や質感が言葉とともに人々の印象に残る。美しいリップカラーが乗った唇は、感情が伝わりやすくメッセージ性も高いのだ。

最後にKATEでは今後どのようなことに挑戦していくのかを聞いた。

「リップモンスターを継続育成して、強いアイテムに育てていくことが、当面の目標です。新商品や限定品を出して話題を作るのはもちろん、パーソナライズされたデジタル体験を含めて楽しめる提案をし続けていきたいですね」(若井さん)

取材・文/瑞姫

全14色レビュー&ネーミングに込められた思い

01 欲望の塊

派手な赤は嫌、子供っぽく見えるピンクも嫌、絶妙な赤ピンク色の口紅が欲しいというモンスター達の欲望に応えるピンクレッド

02 Pink banana

モンスターの世界にあるピンク色のバナナをイメージしたまろやかなニュアンスのある、まろみピンクベージュ

03 陽炎

モンスターが苦手とする、淡い炎のように日光が地面に照り付けたような、ゆらめくロゼベージュ

04 パンプキンワイン

モンスター達が飲んでいる飲み物をイメージした、煮詰めたカボチャとワインの深みを感じる、黒み・まろみのあるテラコッタブラウン

05 ダークフィグ

モンスターのおやつ熟れたイチジクをイメージした奥行きのあるブラウンレッド

06 2:00 AM

モンスターが活発になる時間帯である、不気味なダークナイトをイメージしたくすみ系ディープレッド

07 ラスボス

11本の中で一番の絶妙なMLBB系くすみローズレッド。他の10本にとって一番の敵であり、このカラーを倒せれば自分が買ってもらえるという意味を込めてラスボス

08 モーヴシャワー

モーヴピンクの中にモンスターが浴びるブルーパールのシャワーがちりばめられている様子をイメージしたアンニュイなモーヴピンク

09 水晶玉のマダム

水晶玉の中にいる真っ青な顔色のマダムの肌にさえなじむような、血色感を演出するスカーレットレッド

10 地底探索

ダークな赤〜橙の土色の地底をモンスターが探索している様子をイメージ。まだ見ぬ冒険へ踏み出したくなるようなブリックブラウン

11 5:00 AM

モンスターが静まり寝る時間帯である、夜明け前の少し暗い太陽の色をイメージしたダークブラウン

12 誓いのルビー

モンスター達が誓いを捧げるルビーの宝石をイメージした、力強い存在感を放つルビーレッド

13 3:00AMの微酔

深い夜にほろ酔いになりほんのり火照ったモンスター達のほほのピンク色をイメージしたスモーキーピンク

14 憧れの日光浴

太陽が苦手なモンスター達が一度は太陽に当たってみたいと憧れるフレッシュな太陽をイメージしたフレッシュオレンジ

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