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これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5店

集英社オンライン / 2022年7月20日 15時1分

岐阜には一風変わったカツ丼が多い。7つの県と隣接する岐阜で、独自のミクスチャー食文化から生まれたカツ丼を食べ歩き。なぜこの地には多様なカツ丼の名店が多いのかを考える。

創業120年の変わらない味

ミクスチャー食文化で知られる名古屋。その上方(北側)をぐるりと取り囲む岐阜県南部には、多種多様なカツ丼が存在する。濃尾平野にかかる岐阜南西部の西濃エリアにも、一度は食べてみたい……いや何度でも食べたい老舗のカツ丼があちこちにある。

一体、どんなカツ丼があるのか?

まず、西濃のカツ丼を語る上で避けて通れない名店が大垣にある。名古屋駅から東海道本線快速で32分の大垣駅へ。駅から徒歩38分(もしくはバス12分)に位置する「鶴岡屋本店」。1902(明治35)年創業という創業120年の老舗そば・うどん店だ。



この店にカツ丼が生まれたのは、第二次世界大戦で出征していた当時の店主が、終戦後にベトナムで捕虜になったときに出会ったデミグラスソースに感動したのがきっかけだという。帰国後に試行錯誤を繰り返し、うどんの出汁を加えたオリジナルのソースを開発。和風ソースのカツ丼がメニュー入りしたという。

国内のソースカツ丼と言えば長野県の伊那市・駒ヶ根市や福井県が知られている。確かに西濃と伊那市・駒ヶ根市は中山道の脇街道ルートでつながっている。しかし遠い上に、キャベツの千切りの有無やカツの形状などが大きく異なる。むしろスタイルとして近いのは、真北にある福井のソースカツ丼だろうか。

福井市から大垣市を結ぶ街道には、琵琶湖をかすめて南下する北国街道(現:国道365号線)というルートもある。鶴岡屋のカツ丼には複数のカツが乗っていて、キャベツも敷かれていない点などは福井との共通点もある。

もっとも味わいには、独自性が際立つ。ソース、ケチャップにうどんの出汁を合わせた"和風"のオリジナルソースには不思議な味のまとまりと独特の旨味がある。。やさしく、まろやかで、甘すぎず、丼に合わせて見事にチューニングされている。

初めてこの店を訪れる方は、まず「上カツ丼」を召し上がっていただきたい。通常のカツ丼もソースとカツのシンプル&ストレートなおいしさが味わえるが、「上」になると半熟の落とし卵がカツの上に鎮座する。

カツ丼の上に卵がのった「上カツ丼」

着丼した瞬間、ふるりと震えた卵の頂点に箸先をぷつりと入れると、白身の奥からとろとろと流れ出す卵黄ソース。この魅力にはどうしたって抗えないし、抗う必要もない。もっと言えばこの卵黄ソースにダイブしたい。

カツの揚げ加減もまたお見事。衣のサクッとした心地よさを残しながら、ソースもたっぷり、肉の食感も硬すぎずやわらかすぎず、白飯との相性もとてもいい。もりもり食べ進んでしまう。

カツ丼も美味いが脇の丼もまた美味い

そもそもがそば・うどん店だけあって、そば・うどんを+220円でセットメニューにできる。うどんも讃岐うどんのようなわかりやすいコシというより、福岡うどんにも似た口当たりのやさしいコシが、サバ節と昆布という関西風のあっさり出汁と相まってなんとも沁みる。

「鶴岡屋本店」はそば・うどん店

看板には「麺類」と掲げられている

大垣にうどんのイメージは持っていなかったが、大垣市は三重との県境に位置していて、日本でもっともやわらかいといわれる「伊勢うどん」の本場、伊勢市にも比較的近い(経度は同じ東経136°)。美濃路の宿場町でもあった大垣宿はやわらかいうどんで旅の人々をやさしく包み込んだのかもしれない……という話は伊勢うどん大使でコラムニストの石原壮一郎さんがいかにも仰りそうなので自重しておこう(と思いつつ、書いてしまった)。

そして大垣にはもう1軒、他所では見ないカツ丼を出すうどん店がある。大垣駅から徒歩12分にある老舗「手打ちうどん朝日屋」だ(地元のタウン誌には明治創業とあったが、現在の店主が3代目だそうなので、1950年前後、戦後ほどなく現在の業態になったと思われる)。

朝日屋のカツ丼は、他のどこのカツ丼にも似ていない。というのも、まずこのビジュアルである。

ふわっふわっの卵がカツの上にのった朝日屋のカツ丼

朝日屋もまた看板には「手打ちうどん」が掲げられている

まず目に飛び込んでくるのが、スペインで言う"エスプーマ"か、静岡・袋井の"卵ふわふわ"かというような、ムース状の全卵だ。出汁で溶かれた全卵が泡立てられ、カリッと揚がったカツを包むように覆っている。外側はほぼレアな泡立て卵だが、内側は熱が入った、卵ふわふわ状態だ。要するにカツ丼+卵かけご飯+卵ふわふわという、とてつもなく贅沢な代物だ。

出汁は香るが、いわゆる甘辛いカツ丼のつゆよりも遥かに上品で、ごはんにもほとんどつゆが沁みていない。いわゆる"つゆ抜き"に近い。

個人的な好みになるが、カツ丼にはコメが浸かるほどのつゆはなくていい。カツにきっちり味がついていれば、コメに味がついていなくてもいいし、そもそもつゆが多いとコメとコメの間のねばりがつゆに溶けてしまって、雑炊化してしまう。コメ一粒一粒をしっかり噛みこんでこそ味わえる、コメの甘みももまた丼飯の醍醐味だ。その点、朝日屋のカツ丼はご飯の旨さも際立つ組み立てになっている。

元祖みそかつの店のカツ丼も…

そして、この店にも白眉の汁麺がある。朝日屋ではカツ丼を注文する人はだいたい中華そば(490円)も注文する。汁麺とのセット割引はないものの、この一杯がまた素晴らしい。

朝日屋の「中華そば」

チャーシューとかまぼこがそれぞれ2枚ずつ乗っていて、メンマは麺に合わせて細く切ってある。こういう細やかな仕事がされている店はまず間違いなく旨い。スープは鰹節中心で脂はほとんど浮いていない。揚げ物のカツ丼の脇を固めるのにこのさっぱりスープはうってつけ。それでいて味わいはまぎれもなく中華そばだ。

カツ丼を食べに来たはずなのに中華そばまで旨いとなると、メニューにある“冷やし中華"や"酢なし中華"(酢なしの冷やし)や、本業のうどんやそばも食べてみたくなるが、すでに丼と中華そばを平らげてしまっている。悔しい思いと満腹のお腹を抱えながら、帰り道に「拠点があれば出直せるな……」と近隣の不動産店の店頭で賃貸物件の相場を見てしまった。

最後の1軒は東濃でも西濃でもなく、その中間に位置する岐阜市内のカツ丼だ。名古屋駅から東海道本線快速で18分の岐阜駅へ。目的地は、駅から徒歩15分の「元祖みそかつの店 一楽」である。

1957(昭和32)年に創業した「一楽」のカツ丼はおなじみの卵とじタイプ。もっとも卵でとじられたこの店のカツ丼には一目見てわかる違いがある。

箸ではなく、レンゲで食べるのが一楽流

カツの上に味噌ダレがかかっているのだ。実は岐阜県のなかでも、岐阜市内は物理的にも名古屋に近く、交通も至便で人の行き来も多い。味つけも愛知県と似通ったところがある。とんかつ店に行けば、味噌カツの店も多いのだ。

丼つゆは少々甘めでつゆだく。つゆが多めということもあって丼にはレンゲが添えられる。ボリュームたっぷりでつゆもたっぷり。ざばざばとかっこめば、さっき書いたばかりの「コメが浸かるほどのつゆはなくていい」という一文を早くも撤回したくなる。やっぱりこれはこれでうまい。

丼のアタマにかかった味噌ダレごとかっこめば味噌味のカツ丼にも、味噌ダレの部分を食べ分ければ味の変化もつけられる。丼のアタマに垂らされた味噌ダレひとつで、この店のカツ丼は地域性を際立たせている。

岐阜ならではの地形から生まれた伝統のカツ丼

この店の暖簾にある「元祖みそかつ」の由来は、初代がカツをどて煮に落としてしまい、食べてみると意外と旨かった――。という偶然からスタートしている。その後、試行錯誤を重ねて開発した味噌カツが評判となった。現在は3代目が「祖父の味を守ること」をモットーとして「一楽」ののれんを守り続けているという。

3代目が暖簾を守る創業60年を超える老舗

今回#1と併せて紹介した岐阜のカツ丼5種は、①あんかけ ②粘度の高いソース(かけ)+千切りキャベツ ③さらりとしたソース(漬け)+落とし卵 ④エスプーマ ⑤卵とじ味噌ダレがけ……。3エリア、5軒のカツ丼はどれも異彩を放っている。このほか、岐阜県内には東濃の中津川や恵那、その他の地域にもまた違うカツ丼がある。

東西に走る中山道のほか、北陸に抜ける美濃街道や白川街道、北国街道、そして伊勢へとつながる伊勢街道など、様々なルートで流入した食文化と各店舗の創意工夫で少しずつで岐阜のカツ丼は形成されてきた。

現在、岐阜県でカツ丼を提供する店の多くは、1970年の「外食元年」よりも遥か前から地域の人の胃袋を支え続けた存在だった。情報の流速ががのどかだった時代に導入された文化は固定化されやすい。街道沿いを中心に広く集落が点在した岐阜では、カツ丼はそれぞれの形を保ち、今もそれぞれの町と店で異彩を放ち続けている。

文・撮影/松浦達也

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