相次ぐ大型クラブ閉店! 再開発で渋谷の夜はどう変わったのか?
集英社オンライン / 2022年7月22日 18時1分
目まぐるしい速さで再開発が進み、渋谷の遊び方も変わりつつある。若者たちの路上飲みが定着し、MIYASHITA PARKなど新たな複合施設も次々と誕生。コロナ禍でクラブに行く機会は激減し、渋谷最大級のクラブ「SOUND MUSEUM VISION(サウンド ミュージアム ビジョン)」(以下 VISION)の閉店はその象徴といえる。こうした状況の中でVISION事業部部長の乗田公平氏はこれからの渋谷をどう考えているのかを訊いた。
渋谷最大級のクラブが閉店
DJやラッパー、ダンサーなど、多くのアーティストにとっては表現の場でもある「クラブ」。クラバー(クラブに通って踊ったり飲んだりする常連)にとっても、大音量の音楽を聴きながら踊ったり杯を交わせる唯一の場所だ。
好きな音楽を大音量で楽しめ、男女の出会いの場所でもある。
クラブ遊びの醍醐味を一度知ってしまえば、そこにしかないものを求めて何度も通いたくなる。これこそ、クラブカルチャーが発展し、今もなおその文化が受け継がれている所以である。
とりわけ、渋谷最大級のクラブ「VISION」は、メインフロアのGAIA(ガイア)を筆頭に4つのフロアごとに雰囲気やジャンルの異なる音楽が楽しめる。国内外の大物アーティストを招いた幅広い音楽イベントが開催されることもVISIONの大きな特徴だ。
そんなVISIONは、2022年9月3日を最後に、渋谷道玄坂二丁目地区の街づくりプロジェクト「道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業」の施工の影響で閉店が決まっている。
VISIONだけでなく、系列店のクラブ「Contact(コンタクト)」も2022年9月17日に営業終了となり、道玄坂一帯の人気クラブは相次いで閉店を余儀なくされている。
渋谷には道玄坂以外にも“クラブ街”“ラブホ街”と言われる円山町には多くのクラブが軒を連ね、週末を中心に盛り上がりを見せている。
だが、VISIONに匹敵するほどの大箱は存在しない。
DJ、ラッパー、ダンサーなどクラブを生業とするアーティストはもちろん、イベントに通いつめたクラバーにとって、VISIONがなくなれば行き場を失ってしまうのでは──。
どうしても、そう思わざるを得ない。
ラグジュアリーなビジネス型のクラブが台頭
渋谷の再開発の影響で、10年以上にわたりナイトカルチャーを牽引したクラブの営業に終止符を打つことになったVISION事業部部長の乗田公平氏は、「これも時代の流れであり、いつまでもお店が続くわけではないと割り切っている」と前を向く。
「2015年末に閉店した代官山AIRしかり、2022年1月末で閉店した新木場ageHaしかり、いつまでもクラブが続くものではない。というのは、身に染みて感じていました。特に渋谷はトレンドの移り変わりが激しく、新たなカルチャーが生まれては消えることの繰り返しだと思っています。
一時期は、おしゃれして大箱に行くことで高揚感に浸るような楽しみ方が主流でしたが、最近の若年層はクラブの大小はあまり関係なく、言ってしまえば渋谷の路上飲みを楽しんでいる姿もよく目にします。
会社としても、『これまでのように大箱(キャパシティの大きなクラブ)を持つこと自体、時代に合わないのでは』という見方もあります。一方で、やはり海外のアーティストを招いたイベントを企画するには、それ相応の広さを持ったクラブが必要なんです。VISIONの跡を継ぐクラブを出したいという思いはあるものの、今はまだ渋谷の物件を探しているような状況ですね」
近年では、ラグジュアリーかつおしゃれな雰囲気を持つ小箱のDJバーが急増している。
従来のような、大箱に行って“クラブでしか味わえない高揚感”を求めるのではなく、“スマートにクラブのノリを楽しめる気軽さ”が顕在化していると考えられる。
また、昨今のクラブはVIPルームを中心としたフロア構成が中心となっており、純粋に音やカルチャー体感する場所というよりも、ビジネスを重視したクラブが多い。
だが、VISIONはこうしたトレンドに迎合せず、「音楽やアートといった要素を取り入れたカルチャーを発信する」というこれまで培ってきた“らしさ”の部分での営業展開を模索し、その継承にふさわしい立地を求めている。
VISIONだからできたことがある!
「海外アーティストも呼べない箱だと、ワクワク感や感動が生まれないと思っています。だからこそ、諦めずにVISIONに代わる1000人規模の物件を必死に探しているんです。かつて、Travis Scott(トラヴィス・スコット)やA$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)といった海外の大物ラッパーがVISIONに来日してくれたのも、ストリートカルチャーらしいクールでイケてる雰囲気があったからこそだと。そう感じているんですよ。
VISIONはVIPルームで売上を立てようとせずに、常に『かっこいいクラブを作りたい』という一心を持って運営してきました。また、来店するお客様がフランクに楽しめる社交場を提供し、クラブでしかできない遊び方を提案してきたんです。一刻も早くいい物件を見つけて、VISIONでやってきたようなイベントを開催できるようにしたいですね」
刻一刻と迫るVISIONの最終営業日。泣いても笑っても、最後は飛びきり最高のイベントを作りたい。
VISION立ち上げから関わってきた乗田氏にとって、その思いはひとしおに違いない。
約11年間にわたる営業の幕切れを飾る“ラストダンス(最後のイベント)”は「VISIONでお世話になったアーティストを大集結させ、後にも先にも思い出に残るようなイベントを開催したいと思っています」(乗田氏)
渋谷のクラブシーンにおいて、確実に一時代を築いてきたVISION。その歴史に幕を降ろしたとしても、ここで生まれた数々の思い出は今後も語り継がれることだろう。
いつの日か、再びVISIONが復活するのを願って──。
取材・文/古田島大介
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