1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

“4番らしくない”スラッガー。データからみる西武・山川穂高の異能

集英社オンライン / 2022年7月26日 9時1分

前半戦が終了したプロ野球。パ・リーグでホームランキングを独走(29本)するのが、埼玉西武ライオンズの山川穂高だ。本人が「全打席ホームランを狙っている」と語る豪快なスイングが魅力だが、持ち味はパワーだけではない。データから、他の打者にはない山川の特徴と魅力を野球解説者の伊勢孝夫氏が分析する。

全打席ホームラン狙い。方向はレフト。

私が巨人の打撃コーチをしていた頃だったろうか。2軍の試合で、まだ若い頃の山川を見たことがあった。当時は、先輩である中村剛也のスイングを真似ていた。構えたときのグリップはやや低く、ボールを呼び込んでは身体をコマのように回転させて叩く。

野球選手としては同じ小柄なスラッガー(山川は176㎝、中村は175㎝)ということで真似ていたのだと思うが、当時はまだ一発狙いのホームランバッターの卵だった。



その後、だんだん進化して現在のような、バットを高く構え、振り下ろすようなスイングスイングで1軍に登場してきたのだが、今ではもう中村を超えたといえるかも知れない。

その要因は、もちろんパワーである。小柄でも100キロ超えた体重を最大限に利用して、ボールに体重をしっかりと乗せて打っている。

ただ私が着目するのは、そのパワーより、山川が、およそ4番バッターらしくないホームランバッターであるということだ。

ここからは技術面より、データで説明した方がわかりやすいだろうか。山川の今季ここまでのホームラン数はパ・リーグ断トツの29本。その打球方向はレフトが20本、センターが6本、そしてライトが3本である。

レフト方向だけで20本だから、典型的な“引っ張り型”の打者といえるだろう。おそらく3本のライト方向も、自分では引っ張ったつもりが、結果、ライト方向に飛んだだけだと思われる。

意識は常にレフトに引っ張る。これはスラッガーとして台頭してきてから変わらぬ、彼の身上を表してもいるのだろう。この点については4番らしいバッターといえる。

ただ、引っ張り型のホームランバッターは今の日本野球ではホームランの量産は難しい。かつての落合博満、村上宗隆もそうだが、それぞれ“逆方向”にもスタンドインさせられるテクニックがあって、はじめて量産できるのだ。その点、山川は異色といえる。

ではなぜ引っ張り型の山川が、これだけの結果を残しているのか? いくつかのデータを見ると、その理由が浮かんでくる。

「試合序盤、早いカウント」でのホームラン

たとえばカウント別でのホームラン。29本中最も多い5本が、1ストライク1ボールからのものだ。続けて0-0、0-1がそれぞれ3本と4本。つまり29本のうち12本が初球から3球目までに打っているホームランなのだ。

イニング別で見ると、1回から4回までに18本打っている。打席でいえば第1打席、第2打席でそれぞれ9本打っていた。試合の序盤、それも早いカウントからのホームランが多いというのは、ハッキリいって“4番らしくない”といえるだろう。

4番といえば試合を決めるような試合終盤での決勝ホームランなどをイメージしがちだが、山川は試合の序盤で先制したり、あるいはリードされていたところ同点に追いつくなど、チームを勢いに乗せるホームランを放つ。そんな4番バッターなのだ。これは近年のどんなホームランバッターとも異なるタイプだ。

ちなみに、「ホームラン率」(1本のホームランを打つために、何打数要したかを表していてるもの。打数を本塁打で割った数字)でみると、山川は9.31(270打数÷29本)。つまり約9打数で1本打っている計算になる。

パ・リーグでホームラン2位の楽天・浅村栄斗が19.70(335÷17)。セ・リーグで33本打っているヤクルト・村上宗隆ですら9.51(314÷33)とわずかながら及ばない。いかに山川がどの打席でもホームランを狙っているかがわかる指標だ。

ただし、こうした傾向が出ているのに、なぜ相手バッテリーはその逆を突いていかないのか、という疑問が浮かぶ。配球でいえば、例えば初球のストレートから狙ってくるとわかっているなら、いきなりフォークから入ってもいい。

内角高めを苦手にしているようだから、外角低めにフォークを落として空振りを誘うなどしてカウントを稼ぎ、最後、内角高めに投げ込めば、ホームラン含めヒットを打たれる確率は極めて低い。苦手な球種にカーブがあるから、その連投でもいい。

それでも投手からすれば、ひとつ間違えばスタンドインされてしまうという恐怖感があるのだろう。だから、どんな打者以上に慎重に、丁寧に投げなければいけない。

だが、そう思うことで不必要なプレッシャーが生まれ、かえってキレのないボールになってしまったり、制球を乱すこともあるのだろう。それを「いただきます!」といわんばかりにフルスイングしてくるのが山川というわけだ。

データや傾向からはいくらでも対策が出来そうに見える。だが、そんなデータなどお構いなしとばかりにスタンドインさせてしまう。それが山川穂高という打者の“魅力”なのだろう。(文中の記録は7月24日現在)

構成/木村公一 写真/小池義弘

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください