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地政学リスクの深刻化と各国の利上げラッシュ! 自分の資産はどう守る?

集英社オンライン / 2022年7月29日 11時1分

ウクライナ問題や世界的なインフレ、米国の利上げと株価の暴落など、あたかも現在の経済状況を予測したような内容が評判を呼んでいる書籍『エブリシング・バブルの崩壊』(2022年3月発売)。「この先、米国経済が史上稀に見るクラッシュに見舞われることを念頭に置かねばならない」と語る著者のエミン・ユルマズ氏が推す「資産防衛法」とは?

日本のインフレ率はどこまで上がる?

――日本でも食料品などが一斉に値上がりし始め、インフレに対して警戒感が広がっていますが、この動きは続くのでしょうか?

6月の日本のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は、前年同月より2.2%上昇しました。3カ月連続の2%超えです。

日本のインフレの趨勢がどうなるのかはまだ読めませんが、オーストラリアの例が気になります。日本同様、CPIが2.5%で推移していたオーストラリアは余裕しゃくしゃくの体だったのですが、最近、一気に5%台に上昇して慌てているようです。



日本の場合、企業のPMI(Purchasing Managers’ Index=購買担当者景気指数)は前年対比で10%増です。企業が原材料の値上がり分のコスト吸収するのは、もはや限界なのです。企業は永遠にコストの回収はできないでしょう。

しかもこんなに円安が続く状況では、輸入品に対してコストの上乗せを始めざるを得ません。したがって、日本のインフレも近いうちにオーストラリア同様5%に上がっても致し方ないと思います。

――日本の一部大企業では社員給与を3~5%上げる動きがあるようですが、実際はどうなのでしょうか?

ここで給与を上げるとさらに企業側は苦しくなります。企業側が給与を上げるならば、さらに製品・サービス価格を上昇させねばなりません。私が前から主張しているのは、国が公務員の給与を上げないと、企業側は追随しづらいということです。

国が公務員の給与を10%上げたら、それがベースになって民間企業側も合わせてきます。国が民間企業に賃上げを促しても、それは民間企業側の自由でしょう。日本は共産主義国家ではないのですから。

――ウクライナ戦争に関してお聞きします。『エブリシング・バブルの崩壊』のなかで、ロシアのウクライナへの野心や侵攻を予測されていました。戦争は長引いていますが、今後はどんな展開が待っているのでしょうか?

明らかなのは、ロシアが初期の作戦に失敗したということでしょう。キーウを取ってロシア寄りの政権に交代させて、実質上の属国にするという野望は、ご破算になりました。

いまは東部ドンバス地方からクリミアを陸でつなげて、できれば西部のオデッサまで取って、ウクライナを黒海から完全に遮断するという、当初よりかなり小さな目標に変わったと思います。

このところロシアの侵攻はほとんど止まっています。一方、ウクライナに関しても、反撃しているところもあるけれど、さほど大きな戦果は挙げていません。いったんロシア軍に取られて防衛ラインをつくられた場所を取り返すためには、戦略的な武器が必要です。ですから、ウクライナも難しい局面に入っています。

ひょっとするとロシアは長期戦に持ち込む考えに傾斜しているかもしれません。消耗戦に持ち込んで冬場まで長引かせた場合、天然ガスを含めてエネルギー調達に不安のある欧州がウクライナ支援を弱める可能性があるからです。

景気後退は中国→米国→日本→EUの順

――欧米のロシアへの経済制裁によって、資源高、穀物不足など経済にもさまざまな影響がうかがえますが、今後はどうなっていくでしょうか?

こうした供給問題については、いまのところなんともならないでしょうね。しかしながら景気が悪くなれば、つまり世界経済がリセッション(景気後退)に突入していけば、コモディティの需要は必ず減るので、上昇した価格は元に戻っていきます。

欧米はインフレ退治に本気で乗り出してきました。繰り返しますが、そのための方法とは、供給を増やせないのであれば、需要を殺す(減らす)しかないのです。だから私は「需要崩壊(Demand Destruction)」が起きるだろうと予測しています。そしてそれは徐々に起きつつあります。

みなさん原油が高いと嘆いているけれど、2008年のリーマン・ショック直前には1バレルあたり140ドルにまで上昇していました。インフレ率を計算して実質価格を割り出すと、その当時の140ドルは、いまならば170ドル~180ドルになります。

そう考えると、いまの120ドルは当時と比べるとそんなに高くはないという捉え方もできるのです。仮にいまの原油価格が180ドルになっていたら、大変なパニックになっているはずです。

コモディティ価格については高いには高いのだけれど、過去のコモディティ・サイクルと比べると、とてつもなく割高という感じではないのです。

――中国経済に関しては土地バブルの崩壊、コロナ禍による都市封鎖などで、実質的に経済は崩壊しているのではないか? と噂されていますが、いかがでしょうか?

中国は実質上のリセッションになっていると思います。詳しくは、『エブリシング・バブルの崩壊』を参考にしてほしいのですが、不動産業も、製造業も、サービス業にしても皆、不調です。

また昨今の銀行の貸し出し比率をみると、2002年レベルにまで落ちています。景気の先行きが見えず不安だから、お金を借りて新たなビジネスに踏み出そうとする人たちが少なくなっている、もしくは、中国の銀行のお金自体が枯渇しかけているのでしょう。融資したものの焦げ付きが多くてニッチもサッチもいかなくなっているかもしれません。

最近よく聞こえてくるのが、中国の地方銀行による預金引き出し停止事件です。中国の投資会社・河南新財富集団傘下の3銀行で約8000億円に上る預金が引き出せない状態が続き、預金者から抗議が殺到しているといいます。

おそらく同投資会社が預金を不動産開発に注ぎ込み焦げ付かせたものと思われますが、今後はこの手の話が山ほど出てくるはずです。

中国はいま、1990年代の日本の不動産バブル崩壊と同じ状況になっているのでしょう。加えてゼロコロナ政策の影響もあって、さらに景気が悪化しているわけです。

中国に続いて米国もリセッションに入りつつあります。それを追って日本とEUもリセッションに向かっていくというのが、私の見立てです。

世界的なリセッションを睨んだ資産防衛法

――今後、世界中がリセッションに染まっていくなか、私たちはどんな方向に投資をすれば、自分の資産を守り、さらには増やしていけるでしょうか?

一連の値上げラッシュに直面した多くの日本人は、デフレマインドからインフレマインドに変えなければいけないと気付いたと思います。やはりこの機会に、資産運用について真剣に考えるべきでしょう。

ただシンプルにインフレから自分の資産を守りたい人は、実物資産の金とか、金と銀のETF(上場投資信託)を買えばいいでしょう。アンティークコインやジュエリーを買う人もいる。これらはインフレが発生すれば、基本的に価値は上がっていく。もしくは価値が守られます。

それだけでなく、少しでも資産を増やしたいと思う人はやはり株式に投資することです。株は基本的にはインフレに連動しますし、経済は止まることなく動いているわけですから、プラスアルファを生み出せる。ですから株は金とは異なり、実質上の資産運用につながります。もちろん、リスクは高くなります。

株式の買い方はさまざまです。日経平均やトピックスなど指数の積み立てでもいいと思います。指数の積み立て投資はドルコスト平均法(一定期間ごとに一定金額で購入する)なので、一番シンプルで長期的な資産形成に向いているでしょう。

余裕資金があって資産を増やしたい人は、セクター(防衛産業、基盤産業、鉄道、空運、観光等)の代表的な銘柄(会社)を買ってみるのも一案です。ほかには、ふだん仕事などでお世話になっているなど自分がよく知っているような銘柄への投資が良いのではないでしょうか。

――よく今の時代は、1929年の大恐慌前に似ているとも言われますが、どう思われますか?

似ているところもありますが、実は歴史上どの時代もユニークなので、まったく同じではありません。また、1929年の大恐慌が長引いた、もしくは大恐慌へと発展していった背景には、当時の金融政策、財政政策が不十分なものであったことが原因として挙げられます。今ではその経験が研究されているので、政策も進化しています。

さまざま持論を述べてきましたが、それでも、われわれはこの先、米国経済が史上稀に見るクラッシュに見舞われることを念頭に置かねばならないでしょう。そのときにはFRBは緩和政策に転じざるを得ず、その瞬間は株式の〝買い〟のタイミングになるはずです。

もしかしたらFRBは日銀のように、株価維持のために直接ETFを購入するという強硬手段に出るかもしれません。そうなれば、米国株はもう一回大きな上昇サイクルに入る可能性が出てきます。

当然ながら、中央銀行がこうした緩和策を永遠に続けられるかどうかはわからないですが……。投資は自己責任なので、日々の経済の動きを注視しながら機敏に反応していくことが求められます。皆さん頑張ってください。

撮影/堀田力丸

エブリシング・バブルの崩壊

エミン・ユルマズ

2022年3月25日発売

1,760円(税込)

四六判/256ページ

ISBN:

978-4-08-786135-8

コロナ禍で空前の金融緩和が行われて3年。インフレ懸念、利上げの必要性を叫ばれてきたが、いよいよ2022年は、FRB(米国の連邦準備理事会)の方針大転換で、3月から利上げが始まり、世界経済のフェーズが変わる。
米国のインフレ率は、2022年1月で前年比8.6%に達し、食料や生活用品が値上げされているばかりか、賃金も上昇している。
しかし日本では、思うように賃金が上がらず、物価の上昇だけが先行する不況下のインフレ、すなわちスタグフレーションが懸念されている。
また米国が撤兵したアフガニスタンの混乱や、ウクライナへのロシア侵攻の懸念など、地政学リスクが増大することによって、原油や天然ガス、小麦などのコモディティ価格が上昇し、ますます世界のインフレに拍車をかける状況となった。
一方、世界経済の牽引車だった中国は、恒大集団の実質的な破綻など不動産バブルの崩壊がささやかれ、景気の後退が懸念されている。
こうした様々な世界経済のほころびが明らかになった2022年、上昇しすぎた世界の株式市場や不動産市場はどうなるのか?
今後の世界経済はどのように展開していくのか?
すべてがバブルと思われるほど価格が上昇したいま(2022年春)、リーマンショック以上の世界経済の崩壊(!)が近づいていることを、著者は深く懸念している。
さらにサイバーセキュリティへの懸念や暗号通貨の広がりなど、グローバル化、デジタル化した世界経済ならではの、新しい問題についても警鐘を鳴らしている。
著者は、こんなときだからこそ、日本に世界の資金が集まるチャンスとも言う。
投資をする人も、そうでない人も、世界経済の大転換期に入った今、是非読んでおきたい一冊である。

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