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自己資金100億にフランチャイズも投入。地熱発電事業に夢を託すカリスマ事業者

集英社オンライン / 2022年8月1日 10時1分

全国で960店超を展開する「業務スーパー」の創業者である沼田昭二氏が、会社を息子にバトンタッチし、自己資金100億円を投入して、畑違いの地熱発電事業に乗り出した。第1号となる地熱発電所の稼働が再来年に迫った今、地熱発電事業に情熱をかける沼田氏に心の内を聞いてみた。

50ヵ国を500回以上訪れて知った日本の現状

TV番組の買い物企画では、欠かせない存在となった激安店の「業務スーパー」。順風満帆のはずの創業者が、なぜ縁もゆかりもないエネルギー業界に参入することになったのか?

それは、沼田氏が神戸物産(業務スーパーの運営母体)の社長だった間に、商売を通じて50カ国をのべ500回以上も訪れたことがきっかけだった。世界の各地に、日本では感じることのない社会情勢の不安定さを感じたという。



「今の東アジアの問題を見ても、化石燃料(原油、石炭、ガスなど)が日本に来なくなるリスクは高いです。日本のエネルギー自給率は低いですから、もしエネルギーが不足したら、何千万人の方が亡くなるかもしれません。そういう状況が絶対に来ないなんて誰も言い切れない状態です」

アメリカのエネルギー自給率は104.4%、中国は80.2%もあるが、日本はわずか12%(2019年・国際エネルギー機関調べ)だ。

「子供たちにそんな危険な未来を残せないでしょ。低くすぎるエネルギー自給率をこのまま放っておくわけにはいかないんですよ。願わくば、寿命のある間に大切な人を守るために、自分のできることを全部やりたい」と、エネルギー業界に参入した理由を語った。

「業務スーパー(株式会社 神戸物産)」の会長を辞め、現在「株式会社 町おこしエネルギー」で地熱発電事業に乗り出した沼田昭二社長兼会長

日本にある世界3位のエネルギー資源

ところで、純国産のエネルギー資源には太陽光、風力などの再生可能エネルギーに加え、メタンハイドレート(化石燃料の一種)などがある。それらの中から、なぜ沼田氏は地熱発電(火山付近の地下で高温に熱せられた蒸気や熱水を利用し発電する方法)を選んだのだろうか。

「資源がないと言われてきたんですが、日本は世界有数の火山国。実は地熱資源量は世界3位(アメリカ、インドネシアに次ぐ)です。言い方を変えればベスト3ですよ。なのに、地熱の発電能力は世界10位。まだまだ開発の余地があるわけです」

さらに利点はそれだけではなかった。「石油や石炭にしろ、火力発電というものは永久に燃料が必要ですが、地熱というのは地球がボイラーなので燃料代はゼロです。そして太陽光発電や風力発電と比較しても、24時間、安定的に電力を生み出せます」と良いこと尽くしだが、果たして、なんのデメリットもないのだろうか??

地熱発電からの撤退と上場会社の限界

多くのエネルギー企業が地熱発電に取り組まない理由は、初期費用の高さだった。調査にはじまり、高温の蒸気を地下から汲み上げるための井戸を掘る工事、そして発電所の建設と合計100億円は下らない。

実は、沼田氏は過去にその壁にぶち当たっていた。神戸物産では20年ほど前から地熱発電を含めた自然エネルギービジネスを行なっていたのだ。そして、メガソーラー(太陽光発電)、木質バイオマス(製材工場等残材、未利用間伐材を燃料とする発電)は、現在でも利益を出し続けているが、地熱発電だけは赤字で撤退となった。

「調査のための井戸を1本掘ると最低数億円でしょ。これがダメな場合は、損金を一括処理するためにお金をかけて、また井戸を埋めてしまうんですよ。そんなの、株主がいる上場会社だったら2本目は許可しないですよ」

沼田氏は上場会社の限界を感じた。そこで、自ら新会社「町おこしエネルギー」を立ち上げることにしたのだ。

従来のやり方を見直し、コストを削減へ!

新しい会社を立ち上げた沼田氏は、2度目の挑戦ではコスト削減に力を入れた。

「発電所を作るためには、まず山奥まで5億円とか10億円とかかけて道を直さないといけないことが分かりました。そのコストを回避するために、キャタピラーで自走するオリジナルの掘削機を開発しました。これで道路を整備しなくても作業ができるようになったんです。同時に、掘削用のやぐらを組む工程も省略できたので、1本2億円とも言われる掘削費用を6,000万円程度まで抑えることに成功しました」

無駄な費用を削るために「本当に必要なものは自分たちで作る」。これは「業務スーパー」で沼田氏が実践してきた考え方だという。

発電所を作っている熊本県阿蘇郡小国町

発電だけではなく、地域が抱える問題も解消

地熱発電に限った話ではないが、発電事業を行なう上で問題になりがちなのが地域との連携だ。環境破壊や事故への不安などから、地元の理解を得られないことが多い。

「大手は現地法人を作らない。全部本社で吸い上げるだけです。しかもコンサルタント会社に丸投げで、その中身は情報提供と地元説明会のサポートに留まり、地域が抱える問題をぜんぜん解決しない」と沼田氏は憤る。

その一方で「私どもは必ず現地法人を作って、現地に固定資産税とか法人税を入れ、それから現地雇用するんです。小国(今回、発電所を作っている熊本県阿蘇郡小国町)でも、10数名雇用して発電所の設計・建設から、熱水利用の養殖や農業などに従事していただいています。地域の方はここで学校を卒業しても働くところがないという問題を抱えていますから、こうした心配りをすれば大きな反対に合うことなく理解してもらえるんです」

そうした姿勢もあって、「町おこしエネルギー」は、すでに全国30カ所の許可を取った。

「業務スーパー(株式会社 神戸物産)」の会長を辞め、現在「株式会社 町おこしエネルギー」で地熱発電事業に乗り出した沼田昭二社長兼会長

エネルギー業界でも、まさかのフランチャイズ方式

第1号となる地熱発電所が再来年、稼働する。その後の目標はなんと「1年に1基」の発電所を作ることだ。このハイペースを実現するために、フランチャイズをエネルギー業界に持ち込むことにした。フランチャイズのオーナーは企業で、発電所建設と電気の販売を行う。

「地熱発電のリスクの99%は地下(調査・掘削)にあるんです。私どもが地下のリスクを引き受けることで、企業が地熱発電に参入しやすいようにしました。目標を達成するには『パワー×スピード』が必要で、『スピード』はフランチャイズで生まれます。私どもは販売店はやりません。だから『パワー』のほうに集中できるんです」。これも「業務スーパー」での経験があったからこそ、生まれた柔軟な発想だ。

地熱発電事業はビジネスチャンスなのか??

老婆心ながら、地熱発電が軌道に乗れば「これでまたガッポリ稼げますね! そんなにお金をためてどうするの?」とネットが騒ぎ出しそうな気もする……

「確かに地熱発電事業にはビジネスチャンスもあるんですよ。でも、私ももう68歳でしょ。お金が倍になっても2倍のご飯食べられるわけじゃない。幸いにもお金には困らない立場なので、次世代の子供のために、エネルギー自給率の向上をなんとしても達成したい」と笑顔で語った。

さらに「会社は大きくなってしまうと会長室に鎮座しとるだけなんで、あんま楽しくないですね。楽しいのは今ですよ。『業務スーパー』も初期はそうでしたが、やっぱり興すときが一番です」と少年のように目を輝かす。

元手10万円で布団カバーの行商からスタートして、庶民の味方である「業務スーパー」を上場企業にまでした沼田氏が、今度は子供たちのために、発電事業で夢を叶える日はそこまで来ている。

取材・文/加藤康一

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