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令和に光る昭和の魅力がZ世代に大人気! レトロ喫茶店を併設した東京都北区「十條湯」

集英社オンライン / 2022年8月6日 14時1分

昨今のサウナブームと共に、注目される機会が増えてきている銭湯。日本全国の銭湯を回ってきた銭湯愛好家の杉並バイブラー氏が「エモい」をテーマにとびきりおすすめの銭湯を紹介する。第一回は東京・北区にある十條湯。手掛けるのは、生粋の銭湯マニアである湊研雄さんと喫茶マニアのれいなさん。ふたりのマニアが生み出す新たな魅力とその想いに迫る。

北区十番にある『十條湯』。何がすごいって、『喫茶のみのご利用歓迎』という看板を掲げた、レトロなムード漂う本格的な喫茶…その名も、『喫茶深海』を併設していることだ。

おしゃれな壁画やド派手な天井画。異業種とのコラボで、落語会や、ヨガ教室などを開くなど、新しいスタイルの情報発信基地として再注目を集めている銭湯だが、本格的な喫茶店を持っているのは、唯一、ここだけ。地域のコミュティーの場として、若者の間で密かなブームになっている。



スーパー銭湯ブームに押され、ギリギリまで追い詰められたという『十條湯』が、一体どうやってその危機を乗り越えたのか!? ユニークな発想はどこから生まれたのか? 店長の湊研雄さんと、喫茶を担当する、れいなさんにお話を伺いながら、『十條湯』のエモさの秘密に迫る。

北区十番にある『十條湯』。JR十条駅から徒歩5分ほど

廃業の危機と、銭湯マニアとの出会い

十條湯は、JR十条北口を出て5分。駅前から伸びる十条銀座商店街の先にある。創業は、昭和23年。二代目社長、横山宗春さんに代替わりしたのをきっかっけに、昭和46年に建替え。当時、都内の銭湯数は2400件を超えており、ピーク時の昭和43年(2687件)から見ると、やや減少傾向にあったとはいえ、幅広い年代の人に愛される、憩いの場だった。

陽の光がよく入る、開放感のある脱衣所

ところが銭湯数は、年々右肩下がりで減少傾向、再改装した平成元年には2000件を割り込み、経営も徐々に悪化。社長と女将の体調不良も重なり、『十條湯』は、廃業の危機に追い込まれた。
そんな『十條湯』に、手を差し伸べたのが、お客として通っていた湊研雄さん。何を隠そう、この研雄さんは、“日本から銭湯を消さない”をモットーに、銭湯継業の集団『ゆとなみ社』を率いる湊三次郎氏の弟で、自らも、埼玉県川口市にある銭湯『喜楽湯』を経営していたという、生粋の銭湯マニアなのだ。

十條湯店長の湊研雄さんと、喫茶店の名前の由来にもなった女湯タイル絵

当初は、少しでも役に立てれば…という思いから、浴室などの清掃を手伝っていたが、いよいよ危ないという話を聞き、兄の三次郎さんと相談のうえ。2021年9月から、正式に出向社員として『十條湯』の経営に加わった。

立派なタイル絵が特徴の男湯浴室

浴室にはカニ型の排水溝

銭湯マニアが生み出す、先進的で独創的なアイデア

さぁ、どこから始めようか!? 頭の中に浮かんでくるさまざまなアイデアの中から、研雄さんがまず実行に移したのは20代、30代から注目度の高いサウナだ。サウナを充実させることで、『十條湯』の暖簾をくぐるお客さんに喜んでもらおうと考え、平日にさまざまなイベントを開催した。ペパーミントオイルをサウナの蒸発皿に導入したり、ヴィヒタ(白樺の枝葉をまとめたもの)をサウナ室に吊るし、香りも楽しんでもらえるようにするなど、これまでの銭湯にはなかった施策を展開していく。

男湯サウナ室。平日には日替わりでイベントが行われる

脱衣所の二階には、サウナ利用者専用の広々としたスペースが

創意工夫は、これだけでは終わらない。サウナとセットの水風呂にも注目。水質の良さを感じてもらうために「かけ流し」にすることで、肌なじみがいいという評判を得ることに成功。お客さんからも好評の設備のひとつとなった。

肌なじみがいいと評判のかけ流しの水風呂

銭湯マニアが口説き落としたもう一人のマニア

こうした努力が実り、徐々にではあるが、お客さんの数は増え始める。あと一歩…もうひとつ、何かが加われば…。と思うものの、なかなか、これ!というアイデアが浮かばない。そんなとき、目に飛び込んできたのが開店休業状態となっていた喫茶スペースだった。
同時に、研雄さんの頭に、銭湯と喫茶の組み合わせについて熱く語る、ひとりの女性の顔が浮かぶ。彼女と知り合ったのは埼玉の喜楽湯時代。銭湯の取材に訪れた、銭湯好きで、喫茶マニアのれいなさんだ。

「夢を実現できるのは、ここしかない!!」と、口説き落としたのが、『十條湯』復活への最後の1ピース、『喫茶深海』のはじまりだった。

『喫茶深海』を担当するれいなさん

コンセプトは居心地が良く、インパクトのある空間。浴室から喫茶へと広がる至福の空間を作り上げることができれば、収益アップは間違いない。飲食未経験だったれいなさんは、老舗喫茶店で修行をしながら、メニューへのこだわりや、ドリップ方式などを女将さんから教わり、喫茶スペースの変革に向けて動き出した。

浴室内にはれいなさん作成の喫茶紹介が並ぶ

でも、だけど、しかし……。夢の実現まで、あと一歩…改装費用の調達を目指していた矢先、新型コロナウィルスの流行によって、すべての計画が吹き飛んでしまった。
緊急事態宣言の発令により、企画は制限を受け、サウナの利用も禁止に。喫茶の改装どころか、銭湯そのものの存続にも赤信号が灯る。

諦めるのか? 一旦、立ち止まるのか? それとも、前に突き進むのか?
スタッフ全員で何度も話し合いを重ね、出した結論は「クラウドファンディングで不足の資金を調達する」という、銭湯としては、異例かつ、前代未聞となる試みだった。

結果は、常連さんをはじめ日本全国の銭湯ファン、喫茶店マニアの方々の熱い思いに助けられ、開始からわずか3日で目標金額を達成。最終的には、目標金額の170%もの金額が集まった。

筆者も下足札への彫刻リターンを選択し、クラウドファンディング支援者に

クラウドファンディングで募った鏡広告には、近隣商店も名を連ねる

想い出を引き継いでいく

クラウドファンディングを経て、喫茶スペースは『喫茶深海』に名前を変えて再出発。メニューは、サンドイッチなど昔ながらの喫茶店フードや、本格的なドリップコーヒーに加え、深海ゼリー、ピンクやブルーの色鮮やかなクリームソーダなど、ビジュアルにもこだわった逸品がずらり。

喫茶のみの利用も可能。コインランドリーなどのちょっとした待ち時間にもどうぞ

右:改装以前からあった昔ながらの「クリームソーダ」
左:新たに開発した看板メニューの一つである「深海ゼリー」

内装にもこだわり、新しいのに、どこか懐かしさを感じさせてくれる落ち着いた空間となっているが、中でも目を惹くのが、武蔵小山の喫茶店・珈琲太郎から譲り受けたという椅子である。「SNSでそのことを発信したら、珈琲太郎の元常連だったという方が、お店に来てくださって。モノを引き継ぐということは、想い出の引き継ぎにもなるんですよね」。そう話すれいなさんの顔にも、笑みが溢れる。

一口にエモいと言っても、世の中には、人の心には、さまざまなエモがある。十條湯が体現しているエモさとは、想い出の引き継ぎが体現されたものなのかもしれない。

喫茶深海では、暗めの店内と譲り受けた家具が落ち着く雰囲気を演出する

ふたりのマニアが生み出した銭湯の新しいカタチ

時代とともに、銭湯はスーパー銭湯に、喫茶店はカフェに置き換わりつつある今の状況に、研雄さんは、危機を感じているという。「嬉しいことに、十條湯には、地元だけではなく、いろんなところからお客さんが来てくれています。その方たちが、商店街で買い物をしてくださると、十条商店街も盛り上がる。そうやって、地域のお店と一緒に、盛り上がっていけたら」と話す研雄さんの横で、「廃業する喫茶店を継業していきたい」と、熱く夢を語る、れいなさん。

2人からは、地域の発展に貢献しつつ、銭湯・喫茶店という人々の拠り所を絶対に絶やさない――という、強い意志を感じた。

2人のマニアによるシナジーが生み出した銭湯の新しい形は、今や中高年世代だけでなく、Z世代からの高い関心を集めている。十條湯は今日も人々の生活に寄り添う。

第二回 国連のスーパーエリートが下町銭湯へとコンバート!? 東京都・墨田区の人情銭湯「電気湯」(8月7日15時公開予定)
第三回 新宿の洋風銭湯!? 住宅街に佇む、ノスタルジックな東京・新宿区「三の輪湯」の魅力(8月8日14時公開予定)

撮影・取材・文/杉並バイブラー

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