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「児童養護施設にいる人はかわいそう」はもう違うーモデル・田中れいかさんが訴えること

集英社オンライン / 2022年8月4日 15時1分

先の国会で、来春「こども家庭庁」が発足することが決まった。また児童福祉法も改正され、児童養護施設や里親家庭で育つ若者の自立支援について、原則18歳までとなっていた年齢制限が撤廃されることも決まった。7歳から11年間児童養護施設で暮らし、「児童養護施設出身のモデル」として、さまざまな活動をしてきた田中れいかさんにインタビューした。

――今回の国会で児童福祉法が改正されて、「こども家庭庁」が創設されました。一連の流れをどう見ていましたか。

「ずっと現場で働いてきたり、問題を訴え続けてきたりした方たちのおかげかなと思っています。ただ今だけ話題になるのは切ない。私自身は児童養護施設とか社会的養護についてみなさんにもっと知ってもらいたいと活動をしてきたので、今は話題が上がって嬉しいんですが、それに満足したくはないという気持ちの方が強いです」


田中れいかさん。1995年生まれ。両親の離婚をきっかけに7歳から18歳まで、児童養護施設「福音寮」(世田谷区)で暮らす。現在はモデル業のかたわら、「社会的養護」の理解を広める活動をしている。活動の詳細については「田中れいか 公式ホームページ」

田中さんは昨年末、その体験を綴った『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)を出版。児童養護施設について理解を深めたり、「社会的養護(事情があって親元で暮らすのが難しい子どもたちを、国の公的責任で保護・養育し、その家庭について支援すること)」の大切さを訴えたりしている。

子どもたちが敏感に感じる「支援してあげる」視線

――田中さんは本を書いたり講演したりして、児童養護施設などについて認識を広める活動をされてきました。その中でいちばん理解されていないな、と感じたことはなんですか。

「それで言うともう本の帯(「かわそいそう」はもう古い!)に書いてある通りですね。施設にいる子はかわいそうだから、古着やランドセル、食べ物を寄付する、そういう先入観から寄付行動になっていると思う。それは、やっぱりちょっと違うかな、というのがあります」

――というと?

「支援してあげるって、支援する側、される側の上下関係を含んでいると思っていて、それを子どもたちは敏感に感じとっています。特に施設を出た子は、 やっぱりその関係性に違和感を持っているんですよ。『支援してあげる』っていう言葉にはしてないんですけど、行動とか言動で伝わってくるんです。それに対して、大人に幻滅しちゃうっていう子も少なからずいます」

――「かわいそう」という思い込みが、理解を妨げている、と。

「それともう1つ、『日本の子どもたちは大丈夫だろう』っていう思いが日本人にはあるのかなと思います。今ようやく、いじめとか、不登校とか、ヤングケアラーなどが認知されてきたと思います。けれども、やっぱり日本の子どもたちも辛い思いをしている。そういうことを大人が見逃してきた、見てこなかった結果が、今なので。児童養護施設も同じように、あんまり大人が目を配ってこなかったから、知られていないのかなって思ったりします」

田中さんが暮らしていた福音寮では、ボランティアの先生からピアノを習うことができた。ショパンのノクターンまで弾けるようになり、先生から「そこまで弾けるようになれば立派よ」と褒められたという

「100万円を貯金しなさい」と言われた高一の春

田中さんの本では、施設の担当者や中学の先生など、見守ってきた大人たちの存在も紹介されている。一方で、高校に進学した田中さんは施設の担当者から「これから3年間で100万円を貯金しなさい」といわれる。18歳で施設を出て、自分で生活していかなければならないからだ。そういう支援を打ち切られる若者のことを「ケアリーバー」という。

――ケアリーバーという言葉も、今回の児童福祉法改正で広まった言葉ですが、これについてはどうでしょうか。

「新しいラベリングをされたと私は思っています」

――どういうことですか。

「これまで児童養護施設の出身者みたいなカテゴライズをされてきたのが、ケアリーバーって呼ばれるようになっただけです。もちろんケアリーバーっていう言葉は まあ、キャッチーだし、なんかわかりやすいっていう部分もあるのかなと思うんですが、『また、くくられたよ』っていう気持ちに私はなっています。『ケアリーバー・田中れいかさん』って紹介されると、『うん?』って思います」

――自分で名乗っているわけじゃないですもんね。

「あ、そうですね(笑) でも、そういうカテゴライズの中の活動している『田中さん』になるので、なんかそれはまあ、活動家ならではの悩みかもしれませんが」

「私自身は、講演などで自分の生い立ちを通して、出自に関係なく、誰でも好きな自分になれるっていうことをお伝えしています。生い立ちに関わらず、なりたい自分になれるっていうことが本当なのに、いつまでもずっと生い立ちのことにくっつけられる。とくにメディアさんは好きですよね、ケアリーバーって言葉(笑)。でも今も施設にいる子たちは少なからず、『なんだこりゃ』と思っていると思いますよ(笑)」

――実際、18歳で自立した生活は大変でしたか。

「18歳からは1人暮らしと学校とバイトの両立で大変でした。友だちと一緒にいても、友だちのアルバイト代は遊びとか、アーティストのライブ行くお金になるのに、自分は全部生活費になる。短大生活は楽しかったけれども、そういうお金の使い道の違いを感じたときや、仕送りをもらっている友だちを見て、『私は(仕送りが)ないな』とか、ちょっとしたところで傷ついていました。友だちとの間に壁を作ったり、1人で行動するっていう道を選んだり。自分と友だちとは違う、そもそも施設にいなければ、そもそもこんな親に生まれてなければ、こんな思いをしなくて済んだっていう……結構自分の生い立ちを責めていましたね」

――それが『自分がなりたいものになる』という風に考え方が変わったのは、なにがきっかけですか。

「20歳のときだったかな。私が暮らしていた施設には、自立支援コーディネーターっていう専門職の方がいて、その先生から『せたがや若者フェアスタートっていう支援事業が始まるから、れいかも受けてみない?』って言われたんですよ。当時その事業で支援を受けた人は、毎月必ず地域の方と交流する食事会に出席しなきゃいけないっていう 行政的なルールがあったんです。最初はイヤイヤ食事会に行っていたんですけど、その中でご年配の方や、大学生のボランティア、おばちゃんとか、30代から40代ぐらいのおじさん、おばさんと夜ご飯を食べながら話をする機会があったんですよ」

「たわいもない会話なんですよ。なんかこれといった言葉があったわけじゃないんですけど、みんなそれぞれ大変で、それでも頑張って生きているっていうのを、会話の中から知ることができました。それで『自分は生い立ちを悔やんで、被害者意識というか一種の悲劇のヒロイン的に自分のことを思っていたけど、みんなも大変で、それでも頑張って生きている』っわかったんです。そこから、じゃあ、これから自分の過去は変えられないけど、明日からどんな自分になりたいか考えていこうっていう思考になって、そこから変わっていったっていうのがあります」

積み重ねる対話の中にこそ、未来がある

――そういう話をされたときの中高生の反応はどうですか。

「やっぱり中高生だと大人みたいにその場でリアクションをくれる子は多くはないです。でもあとで、instagramのDMで『れいかさんの話を聞いて、自分も夢を諦めなくていいんだって思いました』とかコメントくれる子がいるので、その場ではそっけなくても、ちゃんと何か持ち帰ってくれているんだなっていうのはあるかなと思います。ずっとつながっていて、進路の連絡をくれるとすごく嬉しいです」

――田中さんのようにモデルを目指す子もいますか。

「多いかもしれないですね。私もまだ勉強中なので断定するのは難しいのですが、自分自身の経験でいうと、小さなときから施設にいると、親が自分に寄り添ってくれた時期をなくしている場合が多い。そうすると、自分自身が誰かに認められた経験、何をしても守ってもらえる経験とか、そういう体験がなくなっちゃう。それがないまま大きくなっていくと、誰かに認めてもらいたい、見てもらいたいっていう、まあ、わかりやすく言うと承認欲求が大きくなっていくということがあるのかなと。私も今振り返るとそうなんですが(笑)、モデルという仕事を通して誰かに見てほしかったり、認めてもらいたかったりしたかったんだと思います。多分他の子もそういう思いが根底にあるのかもと思ったりしています」

――自分の体験を通して、話すことで話したり書いたりすることで、理解を広めていく活動されていますが、その中で思うことはありますか。

「もっとこうしたらいいんじゃないって会話が積み重なっていく人が増えたらいいなと、この先の未来として思っています」

「インタビューやイベントとかに出ると、当事者の言っていることが答えだみたいな雰囲気がすごくあります。でも、私の発言とか経験が全てじゃないですし、正解でもない。なのにあたかも私以外の当事者も同じみたいな理解をして終わっちゃう。それはなんかちょっと違うかな。もうちょっと突っ込んだ話だとか、会話の回数が増えたらいいな」

――なぜ、会話が積み重なることが必要なんでしょうか。

「他の当事者の子たちのためにもです。そうすることでもっと双方の会話とか、理解ができる社会になっていくと思います。児童養護施設や社会的養護について社会の理解が進む風土を作っていく中で、そこに会話がないと、風土って醸成されないと思うんですよ。でも今の段階で私が何か言ったら、『はい、わかりました』とか『質問ありません』とかよくあるので……相手の意見や感想も聞きたいのに、会話が一方通行で悲しいなと。理解したいって思っているのに、 その次の1歩がまた踏み込みにくいのかなと思ったりする。相手の方がもつと深く理解したいとか、疑問があっても、まだ遠慮があって、一歩踏み込めないのかもしれません。たなかその分、学生さんとか、話していてすごくどうでもいい質問とかも来るので(笑)、それぐらいフラットな感じがいい。私以外の当事者でも非当事者でも、お互いが意見を交換できる関係が増えたらいいな」

取材・文/神田憲行 撮影/菊地健志 撮影協力/福音寮

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