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死者の書、美少女ミイラ…。貸し切り可能な渋谷の美術館に、歴史を揺るがすお宝が!

集英社オンライン / 2022年8月9日 10時1分

タワーレコードやPARCOなどシンボリックな建物がひしめく東京・渋谷の中心地に、22,000円で貸し切り可能な美術館が存在する。ここには、実際に史実を揺るがした希少な古代エジプトの遺物や美術品など超貴重なものがさらりと展示され、考えられないほど間近で鑑賞することができるのだ。今回はファウンダーの菊川匡氏の話とともに、美術館の全貌に迫る。

渋谷のど真ん中で出会える古代エジプト

『古代エジプト美術館』があるのは、渋谷の街中に位置する何の変哲もないマンションの一室。けれど、一歩足を踏み入れると外観からは想像もできない世界が広がり、「なぜ、こんなところに!?」という驚きが次々と押し寄せてくる。古代エジプトの歴史に明るくない人でも、ただならぬ美術館であることは一瞬にして感じ取れるだろう。



日本初の古代エジプト専門美術館として、オープンしたのが2009年。館内には、ファウンダーの菊川匡氏が所蔵する1000点以上ものコレクションから、常時100点余りを展示。滅多にお目にかかれない世界的にも貴重な美術品、日本ではここにしかない遺物などが所狭しと並んでいる。

中には、ニューヨークの「メトロポリタン美術館」に貸し出されたことがある美術品も!

そもそも、なぜ渋谷という場所を選んだのか。菊川氏は「渋谷はおもしろいこと、新しいことが生まれてきた街で、文化的な一面もある。新しいスタイルの美術館を作るには、ふさわしい街だと思いました」と話す。

そして、海外にある体験型の美術館をヒントに、テーマパークのような造りを実現。単に鑑賞するだけでなく、それぞれが違った雰囲気を持つ5つのギャラリーを、ときに懐中電灯片手に探検するように巡るのが、この美術館ならではの楽しみ方だ。

美術館を貸し切る「プレミアムプラン」とは?

そして、もうひとつ特別な楽しみ方がある。それは2時間(土日の10:00~12:00、または19:00~21:00)、美術館をまるごと貸し切る「プレミアムプラン」だ。一人占めするのも、カップルや家族で過ごすのも、仲間と贅沢な時間を共有するのも自由。令和の時代に、渋谷の真ん中で、どっぷり古代エジプトに浸れるなど、誰が想像しただろう。

「過去には、お母さんがエジプトの歴史や美術が好きだからと、地方からいらして親孝行のひとつとして貸し切られた方がいました。カップルや家族で利用される方、古代エジプトに興味のある仲間でオフ会を開く方もいれば、企業の取締役会の懇親会会場として使われたこともあります」と菊川氏。

美術館の貸し切りと聞くとハードルが高く感じるが、22,000円という良心的な設定。食事のケータリング、菊川氏や考古化学者などから解説を聞ける“ギャラリートーク”をオプションでリクエストすることも可能だ。今の時期なら家族で貸し切って、子供の夏休みの自由研究の題材にするのもいいかもしれない。

遺物ひとつひとつに物語が。事前にHPの「予習」を読めば理解が深まる。ちなみに…スタッフおすすめの初心者向け書籍は『古代エジプト解剖図鑑』(近藤二郎著)

イギリスで過ごした少年時代、コインを発掘!?

気になるのは、これだけの美術品を有している菊川氏は、一体何者なのかということ。歴史好きな父親と、世界史の教師だった母親に育てられたこともあり、幼いころから歴史や遺跡に親しんでいたという。小学3年生からはロンドンに住み、大英博物館やヨーロッパ各地の遺跡巡りに足を運んでいた。

当時居住していた地域には、年に一度サーカスがやってきたそうで、「友だちが持っていた金属探知機で、来場者が落としたコインを探して遊んでいました。考えてみると、そのころから“発掘”していたんですよね」と笑う。そして、帰国の道すがら寄ったエジプトで、現地の遺跡や美術品との出会いが待っていた。ギザのピラミッドや、ツタンカーメンの黄金の棺に心を奪われ、中高生のころはエジプトにまつわる展覧会によく行ったそうだ。

展覧会を見る側から、見てもらう側へ

けれど、大学では応用物理を専攻し、就職先は金融関係と、一転、エジプトとは縁のない生活をしていたという。そんな中、縄文土器や弥生式土器を入手し、ある日、勾玉が買えると訪れた古美術店でエジプトの美術品にひと目ぼれ。

「少年時代、金属探知機で遊びながらも実感していたんですよ。どんなに探しても、コインですら簡単には見つからないものだって。探索する大変さを知っていたからこそ、発掘されたものに惹かれる部分はあったと思います」

ファウンダーの菊川匡氏。この8月には、念願だった現地・エジプトへの発掘調査へ行く予定

手に入れたものが、どんな時代のもので、どんな目的で使われていたのか。その背景を分析する“バックグラウンドスタディー”に楽しさを覚え、どんどんと古代エジプトの沼にハマっていった。そんな中、一度金融業界を離れた際、遺物の分析で出会った教授の勧めで化学を学ぶことに。1年間、教授のもとに通って学会発表や論文と格闘ののち博士課程後期に入学し、その後は再び金融の仕事をしながら博士号を取得した。

『古代エジプト美術館』をオープンしたのも、博士論文の研究をしていたころだという。
「以前は、展覧会に行かせてもらう側でしたが、これだけ多くのものが集まったんだから、今度は自分が人に見てもらう施設を作る番だな、と。そんな思いが、美術館創立のきっかけでした」

日本の古美術店でも、意外と簡単にエジプトの遺物は手に入る

古代エジプトの美術品や遺物は、「意外にも、日本の古美術店に普通に売っているんですよ。私も当初は、“え、こんなのものが売っているんだ”と驚きました」と菊川氏は言う。

「今もそうですが、売っていることを知る人も、実際に買う人も日本だと多くはないんです。とくに僕が興味を持ち始めたころはバブル崩壊後で、売り物はあるけれど買い手があまりいなかった時代。だから、“エジプトのものが買いたい”と言うと意外とすぐ手に入って、気づけば多くの美術品が手元に集まっていました」

もちろん、地理的にエジプトに近いヨーロッパやアメリカのほうが流通する数は多いが、日本にも昔から状態のよいものや貴重なものが入ってきていたそうだ。

「日本では学者の方が自分の研究のために手に入れたもの、昔の画家などが自分の芸術のこやしのために買われたものがよく残っています。また、日本の美術館は、いい焼き物やガラスが豊富だと思います」

『古代エジプト美術館』にも価値が高く、状態のよい焼き物やガラス製品が多く展示されている。特筆すべきは、それらが手で触れられそうなほど超至近距離で見られること。世界中を探しても、これほど美術品に近づける美術館はそうそう見つからないだろう。

「玄室 ギャラリー」の入口にある宝箱に懐中電灯を当てると美しいガラスや石の装飾品が!

ツタンカーメン、スコーピオンキングなどの、世界に数個、日本ではここだけのお宝が!

渋谷という立地、貸し切りの贅沢な体験も本美術館ならではの魅力だが、なんといってもコレクションの質が素晴らしい。菊川氏が個人的に好きだという、ツタンカーメンの時代(第18王朝の末期)のものも多く揃っている。

まず、入口の「エントランスギャラリー」を抜けると、発掘を支援したイギリスの貴族の部屋をイメージした「パトロン ギャラリー」へ。ここにある「蠍のパレット」は、非常に珍しいもののひとつ。古代の人々は男女問わず化粧を施しており、ラメなどを挽くためにこういったパレットを使っていた。けれど、スコーピオンキングの遺物はなかなかなく、かつ、これほど大きいものは滅多にお目にかかれないそうだ。

王様の儀式用のものと推測されるパレット「蠍のパレット」。スコーピオンキングのものであることを証明する“蠍”の刻印が

また、高官のイニという人物が、ペピ王の命を受けてレバノンに遠征したことが記述された「イニの碑文」も歴史的資料として貴重。古王国時代のレバノン遠征の記述は世界に2点しか発見されておらず、うち1点の上部がこちらに展示されている。ちなみに、下部は東京国立博物館に所蔵されているという。

レバノン遠征に書かれたもう1点のレリーフはエジプトに。雑誌に掲載された際、イニの研究をしている人から問合せがきたそう

史実を揺るがした、歴史的記念碑

ツタンカーメン王墓を発見したハワード・カーターの旧蔵品も見られる「発掘小屋 ギャラリー」は、2022年12月18日まで開催している『ファラオ展2022!』のメインスペース。もっとも強大で絶対的な支配者であった、ファラオ23人が遺した遺物を惜しみなく公開している。特筆すべきは、「トトメス4世のメダムド・ステラ」と呼ばれる石碑。反乱を平定した際の記念碑で、本美術館所蔵の碑文によって史実が明らかになった。まさに、“歴史を揺るがした”遺物なのだ。

展示横の解説文には、新たな史事が判明した碑文の翻訳も書かれている

ほかにも、日本ではここでしか見られないツタンカーメンの指輪や、ホルエムヘブ王の使用痕が見られる杖、世界最古と予想される3千年以上前の風刺画、誰もが知るクレオパトラ7世のコインなどがずらりと並ぶ。

そして、「神殿 ギャラリー」には、その名の通り“神殿の柱”が鎮座。これは、王様の名前が入った柱の一番上の部分だという。プライベートハンドにある神殿の柱は、世界でこのひとつだけと言われている価値ある美術品だ。

さらに美術館の奥に位置する「玄室 ギャラリー」では死者がよみがえることを願い、生き返るまでの物語を著した状態のよい木棺や、“美少女ミイラ”、死者の書、棺に入れられる装飾品などが見られる。真っ暗なギャラリーを懐中電灯で照らすと、壁に謎の扉があることに気づくだろう。見つけた者だけが、その中に眠るお宝を知ることができるのだ。

正面だけでなく、さまざまな角度から鑑賞できるのも本美術館の魅力。立派な木棺の下には鏡が敷かれ、裏側も見ることができる

挙げればキリがない美術品や遺物たちに囲まれ、この夏、歴史ロマンに浸ってみるのもいいのではないだろうか。

取材・文/宮浦彰子 撮影/立松尚積

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