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近所に大量繁殖の“野良猫屋敷”。いざ立ち上がった「ノーにゃんこ ノーライフ」な漫画家

集英社オンライン / 2022年8月8日 15時1分

8月8日は「世界猫の日」である。漫画『ノーにゃんこノーライフ~僕らの地域ねこ計画~』は、猫と人の共生を目指す“地域猫”を題材にした物語だ。著者である斉藤倫さんは、漫画家の仕事の傍ら猫の保護活動も行っている無類の猫好き。そんな斉藤さんに、自身が経験した保護活動や作品に込めた思いについて話を聞いた。

近所の住宅でたくさんの野良猫が繁殖

――いつから「保護猫活動」をされているのですか?

斉藤倫(以下、同) 2011年の秋頃に本格的な保護活動を始めました。それ以前から、街にたくさんいる野良猫たちを見て、この子たちどうなっちゃうんだろう、どう関わっていったらいいんだろう、とずっと気になっていました。当時、保護猫活動をされている猫ボランティアの方のブログを興味深く読んでいて、野良猫との関わり方や保護の仕方、それまではよく知らなかった不妊・去勢手術やTNR(※)について学んでいました。



※野良猫の繁殖を防ぐため、捕獲器で捕まえ<Trap>、不妊・去勢手術を施し<Neuter>、元いた場所に戻す<Return>こと

当時、私は猫を3匹飼っていたのですが、次は保護猫を迎え入れたいと思っていたこともあり、その方から姉弟猫を迎え入れました。そこからさらに、猫の保護について相談したりアドバイスをもらったりするようになりました。

斉藤さんが迎え入れた姉弟猫のココ(雌12)とチカ(雄12)

ケンカするほど仲がいいココとチカ

保護猫活動の始まりは、野良猫が増えてしまっている近所のお屋敷での活動です。お屋敷の隣にあるコンビニにも猫がやって来ている状態で、私もそのコンビニに行くときに見掛けたり、家に通ってくれているアシスタントさんからも「今日はあの子がいた」という話を聞いたりしていて、野良猫がたくさんいるんじゃないかと心配になっていました。このまま放っておいたら大変なことになる、この子たちをなんとかしなくちゃと思い、先ほどのボランティアの方のご友人で、TNRの大ベテランである埼玉のボランティアさんに相談しました。

まず、そのお宅に住む高齢のご夫婦に、「このままどんどん猫が増えてはいけないから、不妊手術に協力させていただけませんか?」とお話ししました。すんなりご理解いただけたので、埼玉の方や近所の保護ボランティアさん、ときにはアシスタントさんにも加わってもらいながら捕獲作業を行いました。トラブルになってはいけないので、最寄りの交番やコンビニの店長さんにも捕獲作業の計画や日程を伝えてから実施。屋敷の敷地内や隣接する道路の脇などに10台ほどの捕獲器を設置しました。

野良猫の捕獲器。猫は病院で不妊・去勢手術をして、元にいた場所に戻す

保護猫活動を行う漫画家の斉藤倫さん 撮影/一ノ瀬 伸

約30匹の野良猫を捕獲

――実際に何匹くらい捕獲できたのですか?

事前に写真を撮ったりコンビニの店員さんに聞いたりしていたところ、確実に10匹以上はいると感じていました。1回目の捕獲で約10匹を捕獲。その後も5、6回ほど捕獲作業をして、合計30匹ほど捕獲しました。成猫はTNRして、子猫は保護して里親探しをしました。

不妊・去勢手術の月齢に満たない子猫は保護して里親を探した。現在は、里親の家で幸せに暮らしているという

――捕獲作業で気をつけたことはありますか?

捕獲器は長細いケージのようなもので、中にご飯を置いておき、猫が入って踏み台を踏むと自動的に扉が閉まる仕組みのものです。人間が近くにいると警戒されてしまうので、遠巻きに見守りながら行います。また、捕獲作業時には、野良猫をよく思ってない人からいちゃもんをつけられたり、捕獲器に入った猫を勝手に放されたり、悪質な場合は捕獲器ごと持っていかれてしまうこともあるそうです。そのため、なるべく2人以上でやるようにして、捕獲器からは目を離さないようにしています。ときには、夜中に仕掛けて朝まで待つこともありました。

――数十匹もの猫を不妊・去勢手術するとなると費用もけっこうかかると思いますが、補助金などはあるのでしょうか?

例えば、私の住む東京都町田市の場合、現在、指定病院で手術して申請すれば補助金が出ます。当時もあったかもしれませんが、そこまで頭が回らずに自費で行いました。野良猫の手術はやってくれないところもあるので、獣医探しも大変でしたね。

一般的な動物病院では、飼い猫も野良猫も手術費用は同じで1~2万円ほどかかりますが、野良猫の避妊・去勢手術に力を入れている病院は5000円~1万円以内でできます。最初は遠くの病院まで行っていましたが、近所にも同じくらいの費用でできる病院があることを知ってからは、そちらにお願いするようになりました。

斉藤さんが保護したむちょ(雄3)。TNRして1年半ほど外で世話したのちに迎え入れた猫

むちょは、斉藤さんの仕事を監視してくれているという

「いつでも手を差し伸べられるように」

――斉藤さんは現在、猫は何匹飼っていらっしゃるのですか?

6匹飼っています。2011年秋にお屋敷でTNRをした子も、1匹うちの子になっています。加えて、家の周りに住んでいて外でお世話をしている猫も4~5匹います。その中にも2011年にTNRをした子もいます。

私はもともと、幼いときから動物や昆虫などの小さい生き物が本当に大好きでした。子どもの頃は犬を飼っていて犬派だったんですが、大人になってから友人が飼っていた影響で猫好きに。20代で最初に猫を飼ってから、ずっと飼っています。

仲良しのちゃく(雄14)とおちび(雌12)

ちゃくは、14年前に斉藤さんの息子が公園で拾った猫。いつもくっついて寝ているそう

――保護猫活動を10年以上されてきて、猫に対する思いに変化はありましたか?

外を歩いている猫を見る目は変わりましたね。昔は、「かわいいな」って撫でたり触ったりできれば嬉しくて。何となく、この子たちはどこで暮らしているんだろう、どういう生活をしているんだろう、と思ってもそれっきりという感じでした。今は、野良猫を見るとかわいいよりも心配が先に来ちゃいますね。不妊・去勢手術をされた印である耳カットがあるとせめて安心できますね。とにかく、「安全にたくましく生きていけよ!」と思うようになりました。もし、ケガをしていたり、瀕死の子に出会ったらいつでも手を差し伸べてあげられるように、心の準備はしていますね。

おちびは大人になっても子猫のよう

2011年に野良猫が繁殖した屋敷周辺にいたハナ(雌11)とチャト(雄)。斉藤さんが7年間、外で世話していたがチャトが行方不明に……

チャトが行方不明になった後、1匹になってしまったため保護したハナ。超甘えっ子だそう

漫画のキャラクターのモデルとなった女性

――漫画『ノーにゃんこ ノーライフ』では、自宅の庭でたくさん増えてしまった野良猫たちに餌をやるおばあさんの様子が描かれています。こういったエピソードは、斉藤さんの実際の保護活動での経験が元になっているのでしょうか?

経験したので描けたというのはありますね。漫画に登場するキャラクターは、モデルがいるものもあればそうでないものもあります。漫画に出てくる猫屋敷のおばあちゃんは、手術に反対で説得が大変な様子で描かれていますが、実際に私がTNRをしたお屋敷のご夫婦は協力的な方でした。

保護ボランティアのマキのモデルにもなった方はいます。町田市で活動している猫ボランティアの方で、何度か取材させていただきました。あと、猫好きな小学生の絢は、モデルがいるわけではありませんが、地域猫の活動をされている方のセミナーで聞いた「地域の子どもが大人と猫をつなげる役目を果たしたときがあった」というお話を参考にしました。

その他にも、千代田区と連携しながら地域猫の保護活動などを行っている「ちよだニャンとなる会」さんにも取材をして、保護活動や行政とボランティアとの関わりについてお話を聞きました。

斉藤さんが仕事をしていると集まってくる猫たち

――漫画を通して特に伝えたかったメッセージはありますか?

猫の保護活動に関わっている人たちを応援したいという気持ちが大きかったので、そういった人たちの活動や思いを描きたいと思っていました。もう一つ描きたかったテーマは、主人公の蒼と彼を巡る人間ドラマです。愛猫のちいこを亡くし、引きこもって社会から離れてしまっていた蒼が、野良猫をきっかけに地域や保護ボランティアとの関わりが広がり、自分の居場所を見つけていく。そんな再生・復活の物語です。

私は、地域猫のことを説明する「地域猫の学習本」のような話ではなく、猫に興味がない人でも楽しんでもらえる人間ドラマを主軸に描きたいと思っていました。もちろん、猫のボランティアや猫に関わる人たちにはぜひ読んでいただきたいですし、私もとりあえず猫好きの人にはこの本をおすすめしています。猫に関心がない人にも手に取ってもらって、保護猫活動やボランティアについて関心を持ってもらえたら嬉しいですね。また、他にもずっとあたためている猫の漫画のアイデアがあるので、いつか描けたらいいなぁと思っています。

取材・文/堤 美佳子
写真提供/斉藤 倫

ノーにゃんこ ノーライフ 1
〜僕らの地域ねこ計画〜

斉藤 倫

2017年8月25日発売

715円(税込)

B6判/192ページ

ISBN:

978-4-8342-3260-8

長年連れ添った愛猫・ちいこを失った藤間蒼。悲しみのあまり、世間との関わりを絶ってひとり部屋に引きこもる蒼の前に、数匹の野良猫が姿を現す。欠けてしまった心の傷を癒すように、部屋を出て猫たちに近づく蒼だが…。猫は今まさに町の住人たちによって捕獲されようとしていて──!?

ノーにゃんこ ノーライフ 2
〜僕らの地域ねこ計画〜

斉藤 倫

2019年1月25日発売

825円(税込)

B6判/192ページ

ISBN:

978-4-8342-3276-9

“地域猫”──猫を亡くしたショックから引きこもりがちだった藤間蒼は耳慣れない猫の保護活動に身を置くことになる。行動力があり全身全霊で猫のために尽くす三島マキに触発され、一緒に活動するうちに猫好きな小学生の絢や、多数の猫に餌やりを続ける伊豆田、野良猫問題に頭をなやませる町内会の面々と出会うのだった。様々な考え方の違いと異なる立場の人間たちに触れ、少しずつ自ら活動する一歩を踏み出し始めた蒼は…!?

ノーにゃんこ ノーライフ 3
〜僕らの地域ねこ計画〜

斉藤 倫

2020年12月24日発売

858円(税込)

B6判/192ページ

ISBN:

978-4-8342-3297-4

猫屋敷のおばあちゃん・伊豆田の協力をやっと得て、本格的に動き出した野良猫の去勢・避妊手術。そんな時、何者かによる毒餌事件が起こり、関係のない小さい子どもや犬まで危険にさらされることに…。猫のために奔走するマキや町の人たちと繋がりだした藤間蒼の再起をかける決断は? 果たして、人と猫の共存を目指す“地域猫活動”はこの町で実現するのか……!? 完結巻!!

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