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久保建英がレアル・ソシエダで活躍するにはチュレトンを食べればいい?

集英社オンライン / 2022年8月11日 12時1分

日本代表MF・久保建英(21歳)がスペインの名門、レアル・ソシエダに移籍したことで、再び注目を集めるバスク地方。当地はスペインの中でも、言語や文化に独自性を持つ異色な存在で、スポーツも日常生活と密接に結びついている。バスクを理解する上で欠かせない伝統的競技と、ソウルフードを紹介する。

悪魔がバスク美女を落とせなかった理由

日本代表MF久保建英(21歳)がスペイン、レアル・ソシエダに移籍した。

レアル・ソシエダはスペインの北にあるバスクの名門クラブで、80年代までは”純血主義”を誇っていた。バスク人、もしくはバスク出身の選手しかプレーできなかったのである。今も生え抜き選手が多く、地元色が強いクラブと言えるだろう。



久保はバスクで愛されるのだろうか?

1970年代まで、バスクはスペインの軍事独裁体制の中で様々な弾圧を受けてきた。政治的にはテロ組織集団ETA(バスクの祖国と自由)が闘争を繰り広げるなど、物騒な時代もあったが、その中で独自の言語や文化を構築してきた。

そこでサッカーはバスクの民族アイデンティを主張できる貴重なツールだったと言える。レアル・ソシエダ、アスレティック・ビルバオの二強は特にバスクを象徴し、覇権を競った。

バスク人は古くは山岳地帯に盤踞(ばんきょ)し、ローマ帝国やイスラム勢力にも抵抗を続け、文化的に侵略されることは久しくなかった。スペインのあるイベリア半島では一番、長身大柄な民族でフィジカル的に優れ、実直で不屈な戦士を生み出してきた。いつもは温厚なのだが、闘争心や独立心は旺盛だった。

民族的に独自性を保ってきたという点で、スペイン国内でも異色な存在である。そもそも、バスク語はスペイン語などのラテン語系統とは文法的に真逆で、何のかかわりもない。悪魔がバスク人美女をたぶらかそうとして、7年かかっても言葉が通じないため、渋々諦めたという言い伝えは有名である。

また、スポーツ精神が日々の生活と結びついており、地域伝統スポーツの多くは、従事してきた仕事に起源がある。丸太斧切り、石持ち上げ競技は建築業、ボート競技は漁業、芝生刈り競争は農業、牛乳瓶走は畜産業。バスク人はスポーツとさえ認識せず、そうやって日常的に競い合い、楽しんできたのだ。

バスクの源流は怪力自慢にあり

コロナ禍の少し前、筆者はバスクの港町の一つ、サラウスから山奥深くに入った小屋を訪ねた。

「あそこは怪力たちの住処。彼らこそ、バスクの鑑で源流を知ることができる」

との面白そうな話を聞いたからだ。

その日、空は晴れ渡って地上に近かった。放牧された羊や牛たちが悠然と草を食んでいた。獣の鳴き声が響いてのどかだった。

山の中腹、その小屋は立っていて、一室は饐えた匂いがした。石持ち上げ競技で、三代にわたって続くイセタ一家の住処だという。室内には様々な重量のストーンが整然と積まれ、一家の選手ポスターも貼ってあった。

石持ち上げとは、基本的に対戦形式で行われる競技である。単純に重さを競う場合、300㎏以上の石を持ち上げる。また、100㎏以上の違った形の石で、持ち上げ方を変えながら、回数などを競う。男性的なスポーツに思えるが、女性部門のチャンピオンもいる。

その日、60代には見えない祖父は鍛え上げた巨体で、必死に練習する孫を見つめ、大きな声で励ましていた。

「オソンド!」

バスク語で「いいぞ」という意味である。二人は掛け声以外、余計なことは話さず、黙々と石を持ち上げた。軽々と担ぐが、なんと数十キロの石である。

途中からは祖父の息子で、少年の父がトレーニングに加わった。現役のチャンピオンだけに、二人以上の迫力があり、中世の戦士のようだった。腕や首や胸に筋力が隆起。上半身だけでなく、下半身も太い。話を聞くと、一瞬のパワーだけでなく持久力も必要で、何キロも山を駆けてトレーニングを積んでいるのだという。

「日本では怪力男と紹介されたよ」

イセタ一家の祖父はそう明かした。世界的に話題になって1990年代には香川県のお祭りに興行で参加したという。
「石持ち上げという競技、大人の選手は1分間で100キロ以上の石を20回は上げるから、『すごい力持ちですね』と言われたよ。うれしいんだが、本当は少し違う。

もちろん力を鍛えているが、力だけでは勝てない。9歳の孫も片手で30キロの石を連続で持ち上げられる。相当な力持ちの大人も、片手では上げられない。持ち上げるにはテクニックが重要なんだ」

石持ち上げの大会賞金は2000ユーロ程度(約26万円)。世界最高のサッカー選手、リオネル・メッシは年俸60億円以上だから、世界的プロスポーツと比較すれば日給にも及ばない。しかし賭けの対象になっているだけに、勝つと選手への配分も大きく、その収入もあるという。

野性的なバスクステーキ

トレーニングを積む小屋の周囲は、一家が経営する牧場だった。まさに、生活と競技が一体になっていた。近くには彼らがオーナーの立派なレストラン施設もあった。

キッチンに招待されると、男性の料理人が大きな骨付き肉を前に、はつらつと腕を振るっていた。レストランの名物は、チュレトンだという。チュレタがステーキの意なので、チュレトンはでっかいステーキが直訳になるか。バスクステーキとも言われる。

牛肉の骨付きリブロース、熟成させた塊に塩を振りかけ、炭火で30分ほど豪快に丁寧に焼く。炭火自体も地元で作った木材だからか相性が良く、外はカリっと香ばしく、中はジュワっと肉汁が溢れる。

あとは肉食獣になった気分で、ナイフとフォークを使って激しく肉をほおばる。赤い血が滴るミディアムレアがお勧めで、まるで生命を託されたような気分になり、身体中に力が漲るのを感じるのだ。

まさにバスクを感じさせる野性的な料理で、イセタ一家のレストランでも一番の人気メニューだ。

バスク人は大柄でエネルギッシュである。ここ一番では力を振り絞れる者が尊ばれる。しかし強い男は優しく穏やかであるべきで、力なきものを認めないが、力ばかりを誇る男も認めない。

「僕らは肉の恵みに感謝している」

ナイフを手にしたレストランの料理人は、そう言って胸を張った。バスク人の血肉を作るチュレトンには、剛毅な彼ららしさが溢れていた。生命の気骨。その味わいは深かった。

久保がレアル・ソシエダで活躍を遂げるには、まずはチュレトンを食べることから始めるべきかもしれない。

取材・文/小宮良之

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