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「新型コロナ5類引き下げ」で得をするのは誰? 賛成派、反対派の主張を整理して見えてきた真実

集英社オンライン / 2022年8月9日 16時1分

岸田文雄首相は7月31日、新型コロナウイルスについて、感染症法上の扱いを、現行の厳しい感染対策が行われる「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類相当」に引き下げる検討を進める考えを示した。これにより「保健所や医療機関の負担を軽減」でき、さらに「経済を回せる」というのだが、はたして本当か? その真偽を検証する。

5類引き下げで何が起こるのか

新型コロナウイルスを感染症法の2類から5類に引き下げるべきという議論が再び活発化している。この議論は昨年から始まり、感染者数が増えて医療体制が逼迫する度に解決策として注目を集めてきた。

賛成派は、5類に引き下げることで「濃厚接触者特定・就業制限などの措置が不要になり、保健所・医療機関の負担を軽減でき、本当に医療が必要な人に治療を提供できる」とし、さらに「風邪やインフルエンザと同じように無症状者・軽症者は通常通りの日常生活を送れば経済を回せる。良いことずくめだ」と主張している。



一方、反対派は「治療方法が確立されていない現状のままで5類に引き下げれば、医療費が国民負担となって受診控えが起きる上、感染者が市中にあふれて更なる感染爆発を招く。結果的に壊滅的な医療崩壊を引き起こす」と警鐘を鳴らす。

この議論は、専門家の間でも意見が真っ二つに割れており、一般人としては判断が難しい状況だが、一体どちらが正しいのか? 本記事では、5類引き下げによって何が起こるのかを賛成派・反対派双方の主張に基づいて整理し、本当に恩恵を受けるのは誰なのか検証していく。

まず、新型コロナウイルスを5類に引き下げると何が変わるのだろうか。感染症法で規定されている内容としては主に3点ある。


① 医療費が自己負担になる
② 濃厚接触者特定が不要になる
③ 就業制限や入院勧告がなくなる



現状の2類だと医療費は全額公費負担だが、5類になれば風邪やインフルエンザと同様に一部は自己負担になる。ちなみにインフルエンザの薬は2千円前後だが、新型コロナウイルスの薬は2万円以上(注射なども含めると約10万円になることも)と、10倍以上の差がある。

上記①~③に加えて、④早期治療が可能になると主張する専門家も少なくない。その理由としては「2類の受診は指定医療機関(発熱外来 等)に限られるが、5類ならば一般の病院やクリニックでも受診できるため、風邪やインフルエンザと同様に近所のかかりつけ医で早期に治療を受けられる」ことをあげている。

また、5類引き下げの賛成派は全般的に「新型コロナウイルスは風邪やインフルエンザと同じ扱いで問題ない」という考えに基づいており、その根拠として以下2点の意見もよく目にする。

⑤ワクチンを接種すれば感染・重症化しにくい
⑥オミクロン株以降は重症化しにくい

5類引き下げのメリット・デメリット

これらを踏まえて、5類引き下げによるメリット・デメリットを整理すると、主なメリットは2つある。

・無症状者や軽症者は出勤できるので経済を回すことができる
・濃厚接触者特定、就業制限、入院勧告の対応をしてきた保健所や医療機関の負担が減り、医療崩壊を防げるので、医療を受ける権利を国民に保障できる

その一方、デメリットも2つある。

・国民負担となった医療費が家計を圧迫し、富裕層以外は受診を控える恐れがある
・受診控え、無症状者・軽症者の出勤・登校によって感染者が市中にあふれて感染爆発を招く


これらを整理し、図解すると、以下のようになる。

不思議なことに、同じ前提に立っているはずが、賛成派は「国民の命を守り、経済も立て直せる」、反対派は「国民の命を犠牲に経済を無理に回す」と、その最終的な主張は真っ向から対立しているのだ。

希望的観測に基づく根拠の崩壊

なぜ、ここまで主張が食い違うのか? その答えは、メリット・デメリットの前提である①〜⑥に立ち返ることで見えてくる。

デメリットの主な前提である①〜③(医療費の自己負担化、濃厚接触者特定が不要、就業制限や入院勧告がなし)は感染症法で規定されており、事実に基づく根拠といえる。従って、5類に引き下げれば、2つのデメリット(医療費の家計圧迫による受診控え、感染者の市中蔓延による感染爆発)は確実に現実のものとなる。

一方、メリットの主な前提となっている④〜⑥は、希望的観測に大きく依存している。

たしかに「④早期治療が可能になる」については、5類引き下げによって指定医療機関以外(一般の病院やクリニック)でも受診できるようになることは事実だ。

しかし、有効な治療方法が確立しておらず、比較的小規模な施設が多いクリニック等では新型コロナウイルス感染症の患者と、それ以外の患者の動線を分けることは物理的に困難である。わざわざ高いリスクを背負い、場合によっては動線確保のための設備投資までして新形コロナウイルス感染症患者を受け入れる一般病院やクリニックが現れることは考えにくい。

つまり、5類に引き下げれば早期治療が実現するというのは、絵に描いた餅である。

さらに、「⑤ワクチンを接種すれば感染・重症化しにくい」「⑥オミクロン株以降は重症化しにくい」は2022年8月現在の日本において、ワクチン接種者であっても感染例が後を絶たず、重症者・死者ともに過去最悪の数字を更新している状況が示す通り、必ずしも正しいとは言い切れない。

そもそも、これらは「新型コロナウイルスは風邪やインフルエンザと同じ扱いで問題ない」という極端な考え方に基づいているが、後遺症の問題も含めて、その大前提こそが完全に間違っているのではないか。

風邪やインフルエンザで、わずか1年間に4回もワクチン接種を求められることが今まであっただろうか? 答えはNoだ。

これらの事実が示す通り、少なくとも現時点において「新型コロナウイルスは風邪やインフルエンザと同等」とはいえない。希望的観測に依存していた④〜⑥が誤りと考えらえる以上、それらを大前提とするメリット「保健所や医療機関の負担が減り、医療崩壊を防げるので、医療を受ける権利を国民に保障できる」は成り立たない。

それどころか感染・重症化のリスクは高いままで濃厚接触者特定、就業制限、入院勧告はなくなってしまうのだから、更なる感染爆発に繋がって、保健所・医療機関の負担は軽減するどころか逆に増大するだろう。そして、皮肉なことにそのような状況でも無症状者・軽症者は出勤・登校できるので、国民は自らの命を削って無理やりに経済活動をする羽目になる。

「保健所や医療機関の負担を軽減しなければ」という理念自体は極めて正しいが、その解決策としてできることは他にも多々ある。保健所の人員を強化する、1ヶ所で集中的に治療できる野戦病院を整備する、紙やFAXに頼ったアナログ業務を改める……などなど。

そうした日本以外の国では当たり前に行われている施策は実行せず、5類引き下げで全て解決するかのように誘導するのはいかがなものか。

5類引き下げで得をするのは誰か

ここまで説明した内容を改めて図解すると、以下のようになる。

ほとんどのメリットが消えた中、デメリットだけは全て残る。富裕層を除く国民の立場から見ると、医療費を払えなければ受診すらできず、高い感染リスクに晒されながら働かざるを得ない。日本はまさに地獄絵図のような惨状になるだろう。

一方、政府の立場から見ると、医療費は負担せずに、経済を回すために国民をことが動かすことができる。また、企業の立場から見ても、経営者が社員の命より業績を優先する考え方であれば、5類引き下げは企業活動継続の免罪符となるだろう。

つまり、5類引き下げによって恩恵を受けるのは政府や企業で、その犠牲となるのは国民や最前線で治療にあたる医療従事者たちなのだ。5類引き下げを声高に叫ぶ政治家・有識者たちは、これによって恩恵を受ける政府や企業の代弁者に過ぎない。騙されてはいけない。

文/犬飼淳

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