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「もうデジタルは飽きました」ーーガジェットマニア・ハイロックがアナログ回帰する理由

集英社オンライン / 2022年8月12日 15時1分

1990年代から2000年代初頭にかけ、「A BATHING APE」のグラフィックデザイナーとして、日本のストリートカルチャーをメインストリームから支えたハイロックさん。2014年、地元にアトリエを構え、現在は群馬県・前橋を本拠地としてデザインの仕事をしている。「モノ選びのプロ」として知られ、最新ガジェットに詳しかったハイロックさんは今、モノに対する嗜好が変わったと感じているそう。アトリエを紹介してもらいながら、在宅勤務環境の構築にも役立つ「モノ選びのポイント」について伺った

デジタルメモから、付箋&ペンに

––現在、ハイロックさんは群馬県の前橋にアトリエを構えていらっしゃるんですね。

ここはもともと、母親が喫茶店を営んでいた建物なんです。だから、スペースの半分は天井高が6mあったりして、普通の住居の造りではないんですよね。喫茶店がクローズしてから、何にも使われていないのがもったいなかったので、2014年にアトリエとして改装しました。



––だから大きなカウンターがあるんですね。

高校生の頃は、この喫茶店でアルバイトをしていたこともあったんです。自分のモノ集めの感性は喫茶店で養われたと思っています。だから、このアトリエには焙煎機や抽出マシーンなどコーヒー関係のグッズがたくさんあるし、「グラスはセット買いする」「業務用っぽいデザインが好き」といったところも、そこからきているのかなぁと。

地元・群馬にあるハイロックさんのアトリエ。もともと喫茶店だったスペースを活かし、まるで店舗のような雰囲気に

アトリエに置かれたジュークボックスは60年代のもので、内部の機械を修理し、自身の手でデザインを作り直している

––ハイロックさんといえば、デジタルデバイスなどのガジェットがお好きだというイメージがあります。

それが……今は全然興味ないんです。

––えっ! そうなんですか?

ガジェット関連の取材などもよく受けていたのであまり言わないようにしていたのですが、実はけっこう前から、アナログ回帰しているんですよ。もちろん情報は入れていますが、以前ほど、最新ガジェットは追っていません。

––以前はiPhoneと連動するカレンダーなど、最先端のデジタルアイテムを使われていましたが……。

メモに関しては、今はもう、「ポスト・イット」とペン。手書きするのが一番効率いい、という結論に至りました。

––まさにアナログ回帰。

たとえば今愛用しているDETAILのペンは、ペン立てに蓋が内蔵されていて、真上に引っ張るとすぐ書ける。斜めにして引っ張ると、蓋がついてペンを持ち歩ける、という仕組みになっています。

愛用のペンとペン立てのセット。生活雑貨の輸入・製造を行うDETAILの製品

––ペン立て自体が重くて安定していますね。「ポスト・イット」はどんなタイプのものでしょうか。

3Mの「ポスト・イット」です。5×5cmの、ネオンカラーの黄色を愛用しています。結局、このサイズが一番使いやすいんですよね。1回に書き込むべきことはこのサイズに十分収まる。もっと情報量が多いときは、何枚か書いて重ねていけばいいので。「ポスト・イット」は書いたものを、関連した場所に貼り付けられるのがいいですよね。スタッフに伝えたいことなら、スタッフの机の上に貼っておく。外出先で考えるべきことなら、スマホに貼り付ける。調べものだったら、パソコンに貼る。そんなふうに使っています。

行動を分析して、必要なモノを導き出す

––では、デジタルのメモは全然使ってないんでしょうか。

メモに関しては使わなくなりましたね。メモとスケジュールがリンクするといったシステムも、まず使い方を覚えなければいけないのが煩雑だし、スマホにデフォルトで入っているメモ機能も情報整理がしづらいですよね。「とにかく身軽になりたい、シンプルにしたい」と考えたら、「ポスト・イット」に行き着きました。

––大のデジタルガジェット好きだったハイロックさんがアナログ回帰したのには、何か理由があったのですか。

テクノロジーの進展がiPhone以降、少々鈍化していますよね。ガジェット類もスマートフォン以上に革新的な製品が出てきていないじゃないですか。IoT製品なども新鮮味が薄れて、僕にとって同じことの繰り返しに見えてきたんです。

以前は近未来的なものがカッコよくて、最先端のアイテムをたくさん収集していました。ITで今までできなかったことができるようになること、それ自体にワクワクしていて。「より新しいものが欲しい」と未来に向かって夢中で走っていたような感覚だったんですよ。

それが群馬に戻ってきたあたりから、もっと自然に触れたり、日常の時間を大事にしたりということのほうがおもしろくなってきて。今は、むしろ過去のもの、アナログなものに心が惹かれるようになりました。

––このデスクも、少しレトロな雰囲気ですね。

これ、カッターマットを天板に敷いているんです。子どもの頃、勉強机とかでよく使ってましたよね。

デスクの天板のサイズに合わせてデザインされた巨大なカッターマット

––言われてみれば! このザラッとした質感、懐かしいです。

自分の世代特有かも知れないけれど、カッターマットを使ってモノづくりをしている人って、手先が器用なイメージありません? 僕の師匠であるNIGOさんも使ってたんですよね。

––工作心が刺激されますね。

これはオリジナルで30枚作って20枚販売したんですよ。そうしたら、すぐに売り切れて。やっぱり机全体をカッターマットにしたいという欲求を持っている人は一定数いるとわかりました(笑)。クリスマスシーズンにはこのマットの白、黒、透明バージョンを販売する予定です。ペン立てもカッターマットも、自分の普段の行動から導き出したモノ選びなので、愛用しています。

グラフィックデザイナーとして各方面で活躍するハイロックさん。地元・群馬のセレクトショップに勤めていた際にNIGOさんのことを知り、日本のストリートカルチャーを牽引する「A BATHING APE」の門を叩く。十数年、グラフィックデザイナーとして働いた後、2011年に独立。2014年に群馬にアトリエを構え、「HIROCK DESIGN OFFICE」として全国の企業や店舗、ブランドの価値を創出するデザインワークを生業としている。その傍ら自身の情報サイト「HIVISION」を運営。雑誌やWEBマガジンでの連載をはじめ、グッドデザインアイテムやガジェットを紹介している。著書に『I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由』

––「行動から導き出したモノ選び」というと?

僕は、デザイン性だけでモノを選んでいるわけではありません。デスクを覆うカッターマットを思いついたきっかけは、イチイチしまったり出したりするのが面倒だったから。じゃあ敷きっぱなしにすればいい、敷きっぱなしで使いやすいのは机の天板にピッタリのサイズだ、という考え方をしました。

先ほどのペンは、普段からアイデアをメモする機会が多かったから。アイデアってすごく儚いものですよね。頭に浮かんだ瞬間にメモしないと消えてしまう。思いついたときにすぐ書くために、机の上にペンを設置する環境をつくろう。そう考えて、このタイプのペン立てが一番いいと判断しました。

効率化やアイデア出しの秘訣

––あそこに置いてあるのは、おもちゃでしょうか?

最近、子どもの頃に好きだったおもちゃを買い直すのが個人的なブームで。たとえば、金色のものは「ゴールドライタン」といって、僕が子どもの頃大人気だったアニメのキャラクターの立体化なんです。2回くらい復刻されているのですが、僕が持っているのは80年代当時のオリジナル。

「ゴールドライタン」の超合金5体のほか、往年のプロレス選手のフィギュアや「ペプシマン」のチャームなど、ハイロックさんが昨今収集しているおもちゃ類

––手足をたたむと本当にライターの形になるんですね!

こういうギミックが好きなんですよね。やっぱり、自分の子どもの頃夢中になったものに、人生の判断基準やアイデアのヒントが隠れていると思うんです。

当時好きだったものって、建前などは関係なく、心から好きなもの。大人になってから、子どもの頃に好きだったおもちゃを手にしたり、映画やアニメを見返したりすると、自分はどうしてこれが好きなのか、何に惹かれていたのかが分析できるんです。ルーツを辿るというか。デザインの仕事には、まさにこれが活きるんですよね。クライアントに提案をするときのアイデアのヒントにもなります。

––一見仕事に関係ないおもちゃも、仕事環境の一部なんですね。

そうなんです。僕は自宅にほとんどモノを置いていないんですけど、仕事場にはあえておもちゃや雑貨などたくさん置いています。アイデアを生み出すために。

––アウトプットを最大に引き出せる空間を作っている、と。

はい。スタッフが働くスペースも、それを考えて設計しています。たとえば、常に時間を意識してほしいので至るところに時計を置いていますし、同時にリラックスもしてほしいのでテトラポッド型のアロマストーン、それと一輪挿しをデスクに置いています。スタッフが使うデスクもオリジナルでデザインしたんです。

あとは、デスクライトとAppleの純正モニターが基本のセット。今は4Kディスプレイもだいぶ値段が下がって、ハイスペックな製品が安く購入できるんですけど、やっぱりApple製品に比べると質感が物足りないんですよね。目に入る風景に1%でも残念なものが交じると、デザイナーにとっては結構なノイズになってしまう。だから、すべてAppleのモニターで揃えました。

スタッフのワークスペースは天井高6m。奥の壁に貼ってあるのは、ハイロックさんがNIGOさんと知り合うきっかけとなった30年前のイベント「LAST ORGY 2」のポスター

––電源タップやケーブルも、スタイリッシュにまとめてありますね。

これらもデザイン性を考えて選んでいます。仕事をしているときに何が目に入るか、というのは重要視しているんです。どこを見てもグリーンが目に入るように配置する、とか。仕事中にふと植物の緑が目に入ると気が楽になるんですよね。

今は自宅で仕事をする方も増えていると思うので、自分が普段どういう行動を取っているかで購入するモノを判断し、目に入ったときに気分が上がったり、心地よいと感じたりするアイテムを選ぶと、効率化やアウトプットの最大化につながるのではないかと思います。

最新ガジェットを追っていないとはいえ、仕事上パソコンやバッテリーは必要。最近のヒットは、Amazonで入手したzepanのモバイルバッテリー。コンセントとケーブルが内蔵されており、蓄電量がディスプレイに表示されるのが便利

夏場の蚊対策にもこだわりがあるハイロックさん。この「VAPE 未来」はWi-Fiルーターのようなデザインで、部屋のどこに置いてもマッチ。コンセント直刺しの「アースノーマット コードレス」はライトのようなスタイリッシュなデザインだ

LEGOの「ブロックカレンダー」を使って、1年の残り日数を表示。遊び心のあるデザインがかわいく、残り日数を示すことで気を引き締める効果もあるとのこと

2006年から2007年にかけて販売されていた、Apple製のアンプ内蔵オーディオスピーカー「iPod Hi-Fi」。上部にiPodを挿すアダプタがあるが、ハイロックさんはそこにBluetoothのレシーバーを接続し、ワイヤレススピーカーとして活用している

カウンター内の壁に掛けられている3つのスピーカーの絵。これは実は、Visual Sonicの「Artwork Speaker」というBluetoothスピーカー。こちらはハイロックさんがスピーカーとアンプの柄をデザインした特別なモデル

アロマ製品の開発をする「@aroma」のアロマディフューザー。プロダクトデザイナー・柴田文江さんが手掛けたこの「orb」は、ガラス製のフラスコとセメント素材の台座を組み合わせている

スタンディングで仕事をするときに重宝するパソコンスタンドは、30種類ほど試した上で良いものを選んでいるハイロックさん。現在は終売となってしまったAmazonベーシックのスタンド(左)と、TITIROBAのスタンドが特に使いやすくデザイン性も高いとのこと

デスクライトには、Dysonの「Lightcycle」をセット。ハイロックさんいわく「井戸から水を汲むような」上下スライドの機構がお気に入りとのこと。アプリ経由で、「作業用」「学習用」といったように照明を調節できる

「スタックケースはあえて統一しないようにしている」というハイロックさん。それでもトーンを合わせることで、スペース全体に統一感を出している

文/崎谷実穂 撮影/山田秀隆

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