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『ゴールデンカムイ』最終巻ラストの真相…野田サトル1万字インタビュー#1

集英社オンライン / 2022年9月29日 12時1分

圧倒的な人気を博して連載終了した漫画『ゴールデンカムイ』。長期連載を終えた野田サトル氏に連載を終えた今の心境を語っていただいた。(全4回の第1回)

【注意】このインタビューは、漫画『ゴールデンカムイ』の完全なネタバレを含みます。ご了承いただける方はお読みください。

全力で駆け抜けた週刊連載を終えて…

――約8年間にわたる連載お疲れ様でした。最終回に呼応するように単行本も既刊全巻に大重版がかかり、最終巻の初版部数も急遽10万部増刷。累計部数も2300万部を超えたと伺っております。最終巻も発売されたことで『ゴールデンカムイ』の漫画に関するお仕事は、ひとまず終わられたと伺いました。ぜひ、今のお気持ちをお聞かせください。



今、おっしゃっていただいたことを伺って、多くの読者の皆さんが、この作品を肯定してくれているのが伝わってきました。
最新話を含む全話無料公開とか、最終回へのカウントダウンとか、実写化の告知とか、ゴールデンカムイ展とか、本当に全ての情報戦といいますか、担当(ヤングジャンプ編集主任・大熊八甲)さんとの作戦が上手くハマった感じも大きかったと思います。総じて、努力が報われたなと思いました。

――「日本漫画家協会賞」の大賞を獲って有終の美を飾られました。

漫画家協会賞は歴史のある賞ですし、トリを飾るという意味でも獲りたかったです。

野田サトル本人Twitterより

漫画家協会賞に限らず、各漫画賞受賞、TVアニメ、実写化のご企画のお話等をいただけたことは、読者さんや有識者の方々から評価を頂いた形だと思いますので嬉しいです。

――週刊連載を終えられ、現在、どのような生活をお過ごしでしょうか。

TVアニメ四期の設定や絵コンテのチェックも届きますし、実写版の脚本も次々と届きます。漫画やアニメと違って実写は実写の論法、脚本というのがあると思うんです。例えばですが、基本的に原作を尊重していただいていますが、主人公ではない様々なキャラが、モノローグで心情を伝えるという表現はアニメまでだと思うんですよね。
モノローグを削る代わりに、それらをセリフや映像に遠慮なく変換できるのは、原作者の僕しかいないと思うので、完全に作品から離れる生活は、現在も出来ていません。

感情として死んでほしくなかった

――大変そうですね。

連載中はゼーゼー言いながらも走るのを止められない心境でした。けれど、今は歩きながら前に進んでいる感じです。でも、気が抜けると絵もどんどん下手になってしまいますので、早めに次回作を始めなければと思っています。アイスホッケーの道具も更に買い集めていて、部屋にダンボールがどんどん積み重なっています。

『 ゴールデンカムイ』連載中に数年かけて探し出した源間兄の防具

――もう前作のアイスホッケー漫画『スピナマラダ!』の完全版の準備をし始めているんですね?

『スピナマラダ!』は野田サトルの初連載作品でもある

はい。『ゴールデンカムイ』の連載原稿が終わってすぐに苫小牧へ撮影に行ってきました。自然の景色が変わってしまうので春のうちに撮影したくて。ヘトヘトになるまで森の中を歩いてきました。まだTV アニメ四期や実写化等、『ゴールデンカムイ』の仕事はありますけど、心機一転ゼロからやり直さなくてはという感じです。

――では、『ゴールデンカムイ』本編を振り返って、最終巻のお話をお聞きしたいのですが、個人的に牛山さんが亡くなったのは非常に衝撃的でした。野田先生は公式ファンブックの質問で、「殺すのをためらったキャラはいない」と答えていらっしゃいました。牛山さんもそうなのでしょうか。

実は唯一、退場させるかどうか悩みました。感情として死んでほしくなかった。
でも結果、最高の自分で死ねたのだから良かったのだと思います。俳優のリバー・フェニックスは若く最も美しいときに薬物中毒で亡くなっているのですが、生前、「死体置き場の中の一番カッコいい死体でありたい」と言っていたそうです。
作品作りの観点から言いますと、アシㇼパにとって愛すべき人物を次々と殺すことで、「この金塊争奪戦を自分が終わらせなければ」とアシㇼパに決断させる。
つまり金塊をなかったことにするという選択ですね。
その選択を読者さんにとっても説得力のある選択にするには、読者、そして作者の僕も愛するキャラたちを殺していくしかなかった。

アイヌ文化を現代に残した甚大な努力

――ということは、残り半分の金塊を放棄しようというのは、かなり以前から決まっていたことなのでしょうか?

はい。初期から絶対に変更がない事柄として決まっていました。物語の最後は「現実と同じ状態に着地するべきだ」と担当編集の大熊さんとは初期から話し合っていました。
アイヌの権利書と金塊によって、「土地が返還された」とか、「北海道にアイヌの自治区が出来た」とか、「残り半分の金塊が有効活用されて、アイヌとしての権利を現実よりも少しでも獲得していた」などという結末には、すべきではないと考えました。
そう描いてしまえば、「アイヌに努力が足りなかったから、現実ではこのような歴史にならなかったのだ」という間違ったメッセージを伝えてしまうと思ったからです。
原作の最終回がそうであったように、現代にアイヌ文化がいまだに残っている背景には多くの人たちの努力がありました。
「アシㇼパがその助けになっていたかもしれないね」という落とし所が正解だったと信じています。

だから、今もアシㇼパが守った北海道の国立公園には野生動物の繁殖地があって、カムイが残っていることでアイヌの文化が残される手助けの一つになったというオチにしたんです。

――確かに、古代文明のいくつかは森林資源の枯渇で滅んだという説もありますからね。

はい。すでにエゾオオカミやエゾカワウソは絶滅したといわれています。ラッコだって昔はたくさんいた。エトピリカも絶滅寸前です。

公園による保護がなければ、儀礼のなかで最高位に位置づけられる「イオマンテ」(アイヌの宗教的儀礼)で送るシマフクロウやエゾヒグマも絶滅していたかもしれない。
アシㇼパの手に入れた権利書が、カムイたちの絶滅を現代まで食い止めたのかもしれないというのが、この作品に出来る最善の落とし所だと信じています。

文献に書かれたアイヌ差別の証言

――最終回の現在に続いていくアイヌの描写は、単行本の描き下ろしによって、連載時よりかなり詳細に描かれています。描き下ろしされた、あの膨大な資料群は野田先生が集めたものですか?

はい。僕の持っているアイヌ関連の資料の一部ですね。著者としては、砂沢クラさんとかアイヌ語監修の中川裕先生やアイヌ初の国会議員になった萱野茂氏などなど……。
例えば、砂沢クラさんの自伝はアシㇼパと同じくらいの年齢のときのものなので、当時のリアルなアイヌの様子を知ることが出来ます。
家族で山に獲物を取りに行ったり、動物の脳みそに塩をかけて食べて暮らした話ですとか、口元に入れる入れ墨を嫌がったりだとか。
ちなみに、クラさんは「アイヌ」への差別について、著書でこう書かれています。
「『アイヌ』と意地悪をする人はどういうわけか、教育も受けられず、下働きをさせられている人たちばかりで、字も書けない人だった。学校の先生や医者、営林業や炭鉱業の人間など教育の受けた人たちは少しも威張らずアイヌを本当の日本人と尊敬し、大事にしてくれた。」
結局、自分より下の相手を見つけたい弱い心が、差別を作るのでしょうね。

――他に注目すべき資料は?

そうですね、どれも注目すべきではありますが、例えば『マキリ研究会通信』。

「マキリ」とはアイヌ民族が日常生活の中で使う小刀のこと

博物館や個人蔵のマキリを研究している方たちの本で、僕は著者の一人である戸部千春先生と交流させていただいています。和人ですがアイヌの彫刻文様に対して、ものすごい知識を持たれている方です。
小さな文様の断片の一つ一つに、「こういう意味がある」等、記録されているわけです。
流石にそこまで作中では描ききれなかったので、参考文献リストには収録されていませんが、本当に貴重な研究成果を残していただいたと思います。博物館にマキリを見に行くのが楽しくなります。

©野田サトル/集英社

#2へつづく

#2 『ゴールデンカムイ』を描いた信念につながる1通の手紙(9月30日12時公開予定)
#3 ファンが最も気になる『ゴールデンカムイ』マル秘ランキングを発表(10月1日12時公開予定)
#4 「連載が始まる頃には貯金も底をついて…」(10月2日12時公開予定)

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