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「うつ患者の再発率ゼロ」の心療内科医に聞いた、メンタルの整え方

集英社オンライン / 2022年8月19日 14時1分

大阪・枚方市に、全国から患者が集まる「職域メンタルヘルス専門」のクリニックがある。ここでは精神科や心療内科でよく処方される「抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬」を使わず、5年後の再発率はゼロだという。院長の亀廣聡先生に、職場や仕事が原因で起きるメンタルヘルス不調を薬に頼らず改善し、仕事上の悩み・落ち込みと上手に付き合っていくコツを聞いてみた。

こころの病は「治るもの」

「『こころの病は治らない・治らなくても当たり前』と言われることがありますが、それは世間の一般相場。私どものクリニックでは薬に頼らず、メンタルヘルス不調に陥って働けなくなった患者さんの復職支援をしてきました。たとえ、こころの病になり、また薬を飲み続けているのに長年改善されなかったとしても、あきらめる必要はありません」



こう話す亀廣聡先生は、働く人のメンタルヘルス不調の治療に特化した「ボーボット・メディカル・クリニック」で院長を勤め、『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずうつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)の著者でもある。同クリニックでは主に休職中の人を対象に、週6日のリワーク(復職)プログラムを実施している。

抗うつ薬などを処方しない治療法で、ビジネスパーソンのこころの病と向き合ってきた(ボーボット・メディカル・クリニック提供)

遠方から数時間かけて通ったり、地方から来てマンスリーマンションを借りて滞在しながら通う人も多いそう。クリニックのある関西エリアへ住民票を移し、現地で仕事を探し、再就職をしてサポートを希望する人もいるほど、患者からの信頼は厚い。

そもそも「抗うつ薬は効かない」病気が大半

同クリニックではこれまでに約2000人の患者を治療し、5年後の再発率ゼロを達成。2017年に行われた厚生労働省の研究班の調査によれば、従業員数1000名以上の企業でうつ病で休職した人のうち、5年以内に再発して再休職した人の割合は47.1%というデータが出ている。比較すると驚異的な数字だ。

「精神科や心療内科を受診してメンタル不調を相談すると多くの場合、抗うつ薬や抗不安薬を処方されます。ですが、当クリニックを受診する患者さんの約3分の2は、これまでに他のクリニックを受診していて、処方された抗うつ薬を長期間飲んでも治らなかった方や、休職後に一旦は復職したものの、ふたたび再発して休職された方です。

開業から来年で10年目になりますが、うつ病(大うつ病)と診断して抗うつ薬を処方したのは2名だけ。そのほかは、双極2型障害、発達障害が要因の適応障害などの気分障害がほとんどであり、その多くは抗うつ薬では治らない『うつ病以外のメンタルヘルス不調』でした。

抗うつ薬を飲んでもこころの病が改善されなかったり再発してしまったりする方が多いのは、そもそも抗うつ薬で治る『うつ病(大うつ病)』ではなかったからだと私は考えています。

精神科では主観による診断が主ですから、その診断が本当に合っているのかは実はわからないんです。初診時での診断と最終的な確定診断が異なることもしばしば。私は、自分の診断と治療が本当に正しかったのかを知りたいので、患者さんが再発することなく働き続けることができているかどうか、数年後まで経過を追っています」

会社や上司のせいにしても意味がない

職場の人間関係やノルマなどのプレッシャー、苦手な業務を任されたことなどが原因で気分が沈みがちになったり、会社へ行くことがしんどくなってしまうビジネスパーソンも決して少なくない。

亀廣先生のクリニックでは、メンタルの調子を崩して働けなくなっている患者さんのためを思って、あえて厳しい言葉をかけることも多いという。

患者さんへのアドバイスが長時間に及ぶことも珍しくないという(ボーボット・メディカル・クリニック提供)

「患者さんの話を聞いて『大変でしたね』『それは会社や上司が悪い』と話を合わせ、薬を処方するのは簡単です。ご本人としても、『会社のせい』『あの上司のせい』という気持ちに同調してもらうと一瞬救われるかもしれません。ですが、それが事実だとしても、自分自身が変わらなければ根本的な問題は解決しないと私は考えています。

仮に患者さんが勤める職場に問題があったとしてもそれはそれとして、『あなたの問題はここですよ』と患者さんに伝え、直面化を促しながらご本人自身を変えていくという意識を持ってもらうようにしています。もちろん言いっぱなしではなく、解決策も時間をかけて伝えています。

患者さんにとっては、日常生活や考え方の癖なども含め、一度すべて見直してもらわなければいけないので大変だとは思います。薬に頼らないでこころの病を治すことは可能ですが、決して簡単なことではない。『患者さんご自身の覚悟』が欠かせないんです」

こころの不調を改善する「生活習慣のパターン化」

職場や仕事のことが原因で気分がふさぎがち、仕事がつらいと感じる…。いわゆる「病みやすい」人は、本人の「ものごとの考え方・捉え方の癖」によるところもあると亀廣先生は考える。亀廣先生のクリニックでも、グループワーク等を通じて指導を行っている。

一方で、こころの不調を改善する方法としてすぐに取り入れられるものに「生活習慣のパターン化」があるという。具体的な方法を教えてもらった。

1.朝の過ごし方

「太陽光が生体リズムを司る『視交叉上核』という部位を刺激します。すると、夜間に盛んになっていたメラトニン産生(※細胞で物質が合成・生成されること)が減速します。そして生体時計をリセットします。

ですので、毎日同じ時刻に起きるようにして、起床後は1時間以内に30分程度朝日を浴びましょう。太陽光にはブルーライトが多く含まれていますので、脳を覚醒させる働きもあります。

日中の太陽光を浴びることは、体内でセロトニンと呼ばれる気分安定作用のある物質の産生に役立ちます。セロトニンの量が増すと、睡眠にとって重要な役割を果たすメラトニンの産生も増えます。

日光浴といっても外に出て直接太陽光に当たらなくても構いません。光が射し込む窓際で朝食を摂る、新聞を読んで過ごすといった程度で大丈夫です」

2.夕方以降の過ごし方

「起床後15時間前後からメラトニンという睡眠に関係するホルモンが分泌されます。セロトニンから作られるメラトニンには抗酸化作用があります。睡眠中にお肌のコンデイションを整えてくれるのはこのメラトニンの働きです。

この働きを正常化させるために、夕方はできるだけ夕陽を見る習慣をつくりましょう。夕陽に含まれる波長の長い赤やオレンジ色の光はメラトニンを30パーセントも多く分泌させます。そしてメラトニンが睡眠中に成長ホルモンの分泌を促進して疲労を取り、翌日のパフォーマンスにつながります。

夕方以降にブルーライトを放つパソコンやスマートフォンを使うと、メラトニンの産生が進まず、しかも脳の興奮状態がつづくことになってしまうので、なるべく控えるのが理想。

ただ、夜まで働くビジネスパーソンにとっては現実的でないかもしれませんので、たとえばリモートワークが可能な人は、夕方からはブルーライトカット効果のあるオレンジ色のサングラスをかけて仕事をすることをおすすめします。

メガネ屋さんなどに売られているもので問題ありません。(遮光レンズCCPのLYかYLかOYが適切)。寝る前までつけたままで過ごすとなお良いです」

3.睡眠の取り方

「基本的に睡眠をしっかり取ることが大事ですが、眠れないからといって睡眠薬に頼ったり、寝酒をしたりするのは絶対にやめるべきです。

なかなか寝付けなかったり、明け方に目覚めたりする生活が続くと体内時計がずれていき、『概日リズム障害』になってしまうことがあります。概日リズム障害を放置すると、うつなどの気分障害につながってしまうリスクがあると言われています。

日中のカフェイン摂取(コーヒー、エナジードリンクなど)が睡眠に影響を与えることも多いので、夜になかなか眠れないという人は、カフェインをどの程度摂っているか振り返ってみましょう。朝一杯のコーヒー程度にとどめ、摂取量を減らすことをおすすめします」

4.食事の摂り方

「セロトニンと呼ばれる脳内神経伝達物質があります。これには気分安定作用があり、ストレス耐性を高める働きがあります。セロトニンの産生が減ると攻撃的になったり、不安やうつの原因となります。女性ホルモン分泌減少と関係があるのではないかと言われています。

セロトニンはトリプトファンと呼ばれる必須アミノ酸より合成されるのですが、このトリプトファンは体内で作られません。逆にいうとセロトニン分泌のためにはトリプトファンが多く含まれる食事と運動が必要です。

『食事(トリプトファン)+食物繊維+運動』はセロトニンを増やし、結果夕方以降から明け方までのメラトニン生成を促し、睡眠の質を高めます。

野菜や食物繊維中心の食生活にして、発酵食品(例: ヨーグルト、チーズ、納豆、味噌、ぬか漬け、キムチなど)をできれば毎日2種類摂りましょう。腸が整うと脳が整い、脳が整えばメンタルが整います。

あとは、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれる青魚(例:サバ、サンマ、イワシ、アジなど)を、できれば月に15食以上は摂ること。オメガ3脂肪酸には、前述した体内時計を整えてくれる効果があります。

朝に豆腐などの具沢山のお味噌汁とご飯、卵焼きに焼き魚といった伝統的な和食の朝食を食べることでトリプトファンとオメガ3脂肪酸を摂取することができます」

5.運動

「基本的に、毎日運動しましょう。運動といっても、短時間のウォーキングや散歩で十分です。1日15分程度でも良いので、歩く習慣をつけること。歩くときは、大股でかかとから着地し、一定のリズムでコツコツ歩く。朝日も浴びられる朝の散歩はより効率的です」

亀廣先生にお聞きした食事と運動のポイントは以下の通りだ。

・食事:豆腐、味噌、納豆、チーズ、ヨーグルト、玄米、卵、クルミなど
・運動:朝方のウォーキングや軽いダンスなどリズミカルな運動

いずれも特別難しいことではなく、生活のなかで実践しやすいものばかり。しかし、継続・定着させていこうと思えば、自らを律する姿勢や日々の心掛けが欠かせない。

「日々の生活をご紹介したような一定のパターンにすることで、メンタルヘルス不調になるリスクを減らしたり、こころの状態を調えていくことができます。本気でご自身のメンタルを改善したいのであれば、一時的ではなく、毎日ずっと続けていくことが何より大事です」

漢方薬という選択肢

「メンタルの調子が悪いが、できれば抗うつ薬には頼りたくない」という人は、医師に相談して漢方薬を処方してもらう方法も選択肢としてある。実際に亀廣先生のクリニックでも、積極的に漢方薬の処方を行っている。

「漢方薬は精神科や心療内科のみならず、内科や婦人科、小児科などでも処方可能で、保険適用の対象です。いわゆる一般的な薬の場合、頭痛にはこの薬、耳鳴りにはこの薬など、1つの薬の守備範囲はとても狭いものです。一方、漢方薬がベースとしている東洋医学では『心身一如』という考えがあり、一種類で一人ひとり違う心身のさまざまな症状・不調に作用するのが特徴です。

私のクリニックでは、初診の患者さんには時間をかけて漢方診察をし、その人に合った漢方薬を処方していますが、漢方薬は忙しい臨床現場では広く用いられていないというのが現状です。ひとつの方法として、漢方にくわしい医療機関を検索できるサイトなどを活用してみるのもいいかもしれません」

メンタル不調は自分を変えるきっかけにも

仕事でメンタルが落ち込んだとき、その状態からなかなか回復できないときは、自分自身の生活習慣や、ものごとへの捉え方を見直す良いきっかけにもなると亀廣先生は考えている。

「自分の生活習慣やマインドが変わり、健やかなメンタルを手に入れることができれば、これから長く働いていくうえで得をするのは自分自身ですよね。

精神科医は、オズの魔法使いに出てくる『オズ』のようなものと私は考えています。患者さんがもともと持っている力に気づかせてあげたり、それを引き出したりするのが本来の仕事。患者さんを見ていると、本当はすごい能力を持っているのにそこに気づいていない方も本当に多いんです。もっとご自身の力を信じて、大変でも自分と向き合って行動していくことが、こころの病の治癒や再発を防ぐことにつながるのではないでしょうか」

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