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少年時代、駄菓子屋で売っていた「ソフトグライダー」は今も存在するのか?

集英社オンライン / 2022年8月17日 10時1分

子どもの社交場、駄菓子屋にあるのは、食べ物だけではない。そこには放課後の友達との時間を豊かにする、雑多で楽しいアイテムがおもちゃ箱のように集められていた。特に男子なら一度は遊んだであろうと思うのが、スチロール製の飛行機、ソフトグライダーだ。

ペラペラ飛行機の思い出

駄菓子屋で売られていたソフトグライダーは、平べったい長方形の袋にペラペラなスチロール製の翼と胴体が入っていて、説明するのもバカバカしいくらいの簡単な手順で組み立てられた。このペラペラな飛行機は、子どもの頃の私の相棒だった。

放課後、ある程度の数の友達が集まればだいたい、ボールを使った遊びに軍配が上がった。その決定は民主主義でもなんでもなく、体を動かすのが得意なガキ大将的な子によって下され、なぜかいつも反論は出なかった。



運動が苦手な私は、子ども心にも頭数合わせのポジションになるのがいたたまれず、ときにそっとフェードアウトして一人で飛行機を飛ばしに行った。

そんな"みそっかす"の相棒であったこの飛行機が、一度だけ私をヒーローにしてくれたことがあった。

母の友人の子どもに4姉妹がいた。ある日、4姉妹は我が家に預けられ、私が一緒に遊んで過ごすことになった。下は立って歩くのがやっとの子、上は私より少し上のお姉さん。その日全員に、駄菓子屋を営む母が与えたのがこの飛行機だった。

初めて見る飛行機に喜ぶ4姉妹と一緒に、私は飛行機を組み立て、原っぱに向かった。
4姉妹の前で私は、「こう飛ばすんだよ」と飛ばして見せたが、飛行機は勢いよく一回転してそのまま頭から墜落した。大事故だ。機体ではなく顔から火が出た。

しかし、そこですかさず一番上のお姉さんが「ヒデくん、スゴイねえ! 私たちもやってみようよ!」と私をフォローしてくれて、その後は飽きるまで飛行機を飛ばして遊んだ。

スクールカースト最底辺にいた自分の小学生時代、女子とあれだけ楽しく長く過ごせたのはあの日だけだったように記憶している。

この飛行機には、そんな懐かしくもあまり自慢にならない思い出がある。思い出話が長くなったが、40年の時を越え、近所の駄菓子屋で久しぶりにそれを見つけた。

40年ぶりに組み立ててみる

ツバメ玩具製作所の『ソフトグライダー』の袋を目にした瞬間、まるで街角で古い幼馴染みと再会した時みたいに「おおっ」とつい声を出してしまった。

今でも袋の表に描かれたクラッシックなイラストは健在で、裏面の注意書きが、ふりがな入りで書いてある親切ぶり。価格は当時50円くらいだったと思うが、現在は100円だ。そして何歳の子どもでもわかるように、組み立て方がイラストで描いてある。

袋の蓋を開けてテーブル上で逆さにしたら、安い折り詰め弁当の容器と似た素材の機体パーツ、そしてプラスチック製のプロペラ部品が転がり落ちた。これ以外に機体前にはめるオモリのクリップがあるが、それを袋の中に残したまま撮影したのに後で気づいた。

切り込みに沿って胴体に穴を開け、翼を差し込んでいく。プロペラは3つのパーツを組み合わせるだけ。パーツ同士を組むと、スカスカでもカタ過ぎもしない絶妙なサイズ感。撮影込みで、完成までの所要時間、約3分。

子どもでも失敗しないで組み立てられるのが嬉しい。完成した飛行機は軽い。そしてペラいが、この軽さとペラさが、この価格で実際に飛ばせる模型飛行機を実現したのだろう。

飛行機の名は「メッサーシュミット」であるらしい。メーカーのHPによれば、他の名前、デザインの飛行機が数種類ある。https://tubamegangu.com/

行きつけの駄菓子屋「BOWWOW316」の店長によれば「自分が知る限り、こうした飛行機のメーカーはこのツバメ玩具製作所だけ。昔から変わることなく、ソフトグライダーを作り続けている」とのこと。

現在、埼玉県戸田市にあるツバメ玩具製作所は、戦後間もなく組み立て式の木製グライダーの制作から始まり、以来70余年、ソフトグライダーを作り続けているそうだ。

ソフトグライダー、数十年ぶりの離陸

子どもの頃はそんな歴史あるメーカーの作品とは知らなかった飛行機を、40年ぶりに外で飛ばしてみることにする。撮影に協力してもらった最近の遊び友達M君(43)も、この製品を見せた瞬間、「おおっ」と声を出し、非常に懐かしがった。

何十年も飛ばしていなかったのに、飛ばし方は体が覚えている。胴体を水平な鉛筆持ちで握り、ダーツのようにふんわり投げるのだ。ほぼ無風の公園の中、メッサーシュミットはスイっと空に向かい、そして急にポトッと落ちた。

「あれ? 飛ばし方間違ってないか? こんなもんか?」とM君。試行錯誤してみたのだが、何度やっても飛距離は数メートル。結局、M君と"こんなもんだった"という結論にたどり着いた。

子どものおもちゃがそんなに遠くに飛ぶはずも、こんなに安く買えるはずもない。ソフトグライダーはあの頃の、少ない人数で遊ぶ手段であり、ボール遊びが苦手な私が一人の時間を過ごす相手であり、初めて会った姉妹たちとの壁を越えて飛んだコミュニケーションツール。それで十分なのだ。M君ともそんな話をして笑い合った。

数回飛ばしたところで、ソフトグライダーは羽に傷がついて変形した。そのときふっと気づいた。この飛行機、お菓子のように食べてなくなるわけでもないのに、家のなかに残っていた覚えがあまりない。そう長くはもたずに、放課後の数時間で壊れるか、なくしてしまうかしていたのではないだろうか。

ある日の放課後のホスト役を終えたら、記憶に残らないくらいに静かに消え、また、思い出した頃に呼び出されるモノだったのだろう。駄菓子と同じく、ソフトグライダーは私達の過去を彩っては消え、今また思い出と共にふわりと浮かんできてくれたのだ。

文・イラスト/柴山ヒデアキ 取材協力/BOWWOW316

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