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圧倒的に不利な状況でも、周囲を味方につける「アンダードッグ効果」とは【心理学博士に聞く】

集英社オンライン / 2022年8月23日 16時1分

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも注目を集めた源義経は、現代にいたるまで悲劇の英雄として種々に物語化されている。心理学博士の堀越勝さんは「義経は世間から『判官びいき』という、弱者や敗者への心理的反応によって語り継がれています。それを心理学では『アンダードッグ効果』と呼びますが、この夏の高校野球大会で準優勝した下関国際高校の活躍も同様です」と話す。はたしてその効果とは?

「負け犬」と違って「アンダードッグ」はポジティブな意味

――英語の「アンダードッグ」は日本語では「かませ犬」「負け犬」と訳されます。ネガティブな意味にとらえられますが、これが「判官びいき」に通じるとは、どういう解釈なのですか。

日本語の「かませ犬」は、”一見強そうに見えるけれど、負ける目的で用意された犬”のことです。負け犬は”どうせ負ける””自分なんて駄目だ”と自己完結して、戦う前に負けている犬です。



どちらも結果として負けるので、ネガティブな意味でとらえられます。しかし、アンダードッグはこれらとは少しニュアンスが異なり、勝てそうになくても、逆境を跳ね返そうとがんばる人や状況を示すので、ポジティブな意味合いになります。

「アンダードッグ効果」とは、負けそうな状況の中でも、一生懸命に勝とうと努力する姿を周囲が認め、共感する人や応援してくれる人が増えてくる様子をいいます。

源義経は兄・頼朝のために必死で働いて功績をあげるも、やがて対立し、最終的に自害に追いやられました。判官職にあって鎌倉幕府の設立に貢献しながらも、非業の死を遂げた義経に世間は同情し、そこから立場が弱い者に肩入れすることを「判官びいき」というようになりました。

不遇な状況や、勝てそうにない立場に置かれながらも、そこでがんばる人の熱い姿を見ていると、応援したくなることがあるでしょう。当の本人も、そうした周囲の反応が刺激となってさらにがんばることができる。これは心理学ではエビデンスをもって説明される人間の心の反応です。

源義経(1159-1189)の肖像


――今年(2022年)の夏の甲子園では、大会前は無名の存在だった下関国際高校が強豪校を次々と撃破し、決勝に進出。戦うごとに共感を集めていきましたね。

スポーツで強豪チームと弱小チームが対戦する、将棋で大人と子どもが勝負するなどで接戦になった場合、弱小チームや子どものほうを応援する心理が働きます。

この場合、弱小チームも子どもも、結末としてはたいてい負けてしまい、トップドッグ(勝ち犬、勝者)にはなれません。それでも、人はその奮闘努力のプロセスに物語を読み取って心を動かされ、勝ち負けを見る以上の感動を胸に、期待を持ってその後も応援していくわけです。

「アンダードッグ効果」が最初に言われたのは19世紀のアメリカでの選挙で、形勢不利なほうに同情票が集まる現象を称したと伝わっています。死亡した議員の家族が立候補する「弔い選挙」では、当選することが多いのもアンダードッグ効果だといわれます。

今夏の甲子園ではダークホース的存在ながら、大阪桐蔭、近江と優勝候補を次々と撃破し、戦うごとに共感を集めた下関国際高校のナイン(写真/共同通信社)

自分の考えや行動に正義はあるか

――ビジネスシーンで不利な状況のとき、アンダードッグ効果をもたらすにはどうすればいいですか。

会社内でプロジェクトの企画案を上司と部下で競っている場合、まず部下には勝ち目がないと予想されます。ただ、部下の普段の真面目な姿勢や、プロジェクトに対する熱意、努力が周囲に伝わると、そのときには負けたとしても、応援団を獲得することができるでしょう。やがて上司もその応援団に入ってくれるかもしれません。

大手企業と中小メーカーや下町工場が、クライアントに企画提案で競合する場合でも同じことが言えるでしょう。

――アンダードッグ効果を活用する具体策はありますか。

アンダードッグは「勝てそうにない」状況にあることが前提なので、自ら目指すものではありません。「不利な状況に置かれても、一生懸命に取り組んできた結果、いつしか支持が集まっていた」という結果がアンダードッグ効果です。自然に人を引き寄せることになるのです。

その効果は狙って得られるものではありません。むしろ、狙うと逆効果です。判官びいきをしてくれそうだった人々に見放されたり、敵に回られたりするかもしれません。

もちろん、ただ「負けそうだ」「不利だ」というだけでは誰も応援してくれません。対戦の過程で「周囲の人に熱意や奮闘ぶりが伝わること」「ひたむきで情熱があること」。そこがポイントです。

――そうした不利な局面では、どのようなことを心がけるべきでしょうか。

まずは自分とその状況を俯瞰(ふかん)する、置かれている状況の全体像を見つめてみましょう。不利であっても考えや行動に正義を持ち、なんとか乗り越えようという姿勢を持てているかどうか。苦しい局面でも、その姿勢を持つことが重要です。トライ&エラーを実践するうちに、「打たれ強さ」が身についてくるでしょう。

自分の考えや行動を紙に書き出す

――不利な状況に直面したとき、自らの状況を俯瞰するのは難しいと思います。実践のコツはありますか。

心理学上の具体策として「自分の考えや行動、発言を紙に書き出す」という方法があります。箇条書きでも、文章でも思いつくまま、書きやすい方法でいいのです。何度書き直してもかまいません。

「①できごと」「②自分の反応、つまり気持ちや感情、イメージ、行動など」「③結果」に分けて書いてみてください。

そして、声を出して読んでみましょう。いつも陥る悪循環や、つい取ってしまう行動、考え方のくせに気づくことがあるかもしれません。

できれば書き出したことを、よく話を聞いてくれて、批判せず、安全だと感じる第三者に見てもらい、助言をもらうといいでしょう。そういう人が見つからない場合は、カウンセラーなど心理学の専門家を探せることが理想です。

意識的に自分を俯瞰する、モニターすることをくり返すと、やがて自分の状況を客観視するスキルが身についていきます。

また、周囲のがんばっている人、情熱を持って何かに取り組んでいる人に注目してみましょう。その人の何が魅力的なのか、その人のもとにはなぜ人が集まるのか、どのような人たちに助けや賛同を得ているのかなどが見えてきて、参考になります。

アンダードッグ効果は、一見不利に見えても自分の行動次第では有利に転じる場合もある、形勢がどうであっても努力と奮闘で、応援が得られる場合もあるということです。そのプロセスに正義があるか、結果的に誰かが感動を覚えてくれるか。形勢不利な場面でのヒントになるのではないでしょうか。


構成・文 藤原 椋/ユンブル

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