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映像化は本を売るための最大のプロモーション。『アキラとあきら』池井戸潤

集英社オンライン / 2022年8月25日 15時1分

竹内涼真と横浜流星が出演する映画『アキラとあきら』(2022)は、対照的な人生を歩んできた2人の男の宿命を描いたヒューマンドラマ。これまでにも多くの作品が映像化されてきた人気作家・池井戸潤は、完成した映画をどう見たのか。映像と原作者の関係に迫る。

原作と読者をリスペクトした、等身大の映像化を

「映像化は、本を売るための最大のプロモーション。これに勝るものはないので、できればやってもらいたいと、ほとんどの作家が思っているでしょうね」

作家にとって映像化の意味を問うと、池井戸潤氏はストレートにそう答えた。過去に出版した作品も含めてその多くがドラマ化、映画化されており、出版界だけでなく映像界からももっとも新作を求められている池井戸氏だが、「ただし……」と、言葉を続ける。



「欲を言えば、できるだけいい映像化を目指していただきたいというのが正直なところです。僕の思ういい映像作品とは、原作やそれを読んだ読者のことを大事にしていると感じられるもの。僕の作品は銀行や会社など仕事の現場を舞台にしたものが多く、読者の多くも現役で仕事をしていたりビジネス経験があったりする。だから、そうした場面のディテールが甘く矛盾が生じていたり、こんなことはあり得ないというご都合主義の作りになっていたりすると、がっかりされてしまうんです。逆に、リアリティを大切にした質の高い映像になっていれば、納得度は高いと思います」

その点からも、まもなく公開される映画『アキラとあきら』(8月26日公開)は、原作者も頷ける出来だったようだ。小さな町工場を営む地方の家に生まれ、幼い頃に倒産を経験した山崎瑛(やまざきあきら・竹内)と、伝統ある海運会社の創業家の長男として期待を一身に背負って育った階堂彬(かいどうあきら・横浜)。同じ名を持つ2人の青年が、それぞれの理由から銀行員という職業を選び、切磋琢磨する青春の日々を描いた同作は、ほぼ全編、彼らの職場を舞台に物語が展開する。生きたビジネス用語が飛び交う中で自然な所作を求められる、ハードルの高い撮影への挑戦が、見事に結実していたという。

映画『アキラとあきら』
©2022「アキラとあきら」製作委員

「まず、シナリオがとてもよく練られていましたね。長い原作をうまく構成していて無駄な台詞がひとつもなく、さらにそれらが有機的に結びつき、高い次元で融合していた。とくに心配していたのが、主人公2人が最初に火花を散らす新入行員研修でのプレゼンテーションの場面。銀行業務にまつわる監修がきっちりなされていて、竹内さん、横浜さんをはじめとした俳優陣も、難しい台詞ややりとりをスムーズにこなしていました。

そして、ビジネスシーンを描いた作品としての完成度の高さに加えて、小説を書くときに大切にしている、人間を誇張なく誠実に描く姿勢がごく自然に実践されていたこと。結果、実にヒューマンな青春物語に仕上がっていたことがうれしかったです。青春ものや恋愛映画を得意とされる三木孝浩監督のお仕事は、今回はじめて拝見しましたが、台詞や心情を大切にした映像は、まさにあるべき姿だと。起用を提案したプロデューサーが話していた、“恋愛を撮れる人は人間を撮れる”という言葉に嘘はなかったと、あらためて感じ入りました」

俳優の演技と演出が、物語をさらに掘り下げる

ところで、作品が映像化される際、原作者はいったいどのようにプロセスに関与するのだろう? 池井戸氏に尋ねると、「作家によってそれぞれ、やり方はあると思いますが……」と前置きした上で、自身のポリシーを語った。

「僕は、基本的には映像化に許可を出してからは製作側にすべてお任せで、極力口出しはしないようにしています。頼まれて脚本に目を通すことはありますが……いや、相当口も出すかな(笑)。やはり、先ほども述べたようなビジネスシーンが穴だらけだったり、どうにもならない矛盾があったりするとそのままでは撮影が難しいですし、作家という職業柄、構成はやっぱり気になるし……。とにかく、原作があるにも関わらず、それとはかけ離れたものを作られたりすると困ってしまいますから」

しかし、映像ならではの“マジック”を感じたこともある、と池井戸氏。紙に書かれた言葉が俳優の身体を通って出た瞬間に生まれる新鮮な感動に、何度か目を見開かされた。

「脚本上ではベタで陳腐に見えた台詞が、俳優さんが実際に演技して言葉で発したときにものすごい威力を発揮し、“ああ、これはありだな”と思えたこともありましたね。演じる俳優と演出する監督のセンスによるところが大きいかもしれません。作家の中でのキャラクターは、もちろん大切な存在ではありますが、外見や表情などの具体的な像はけっこうぼんやりしていたりするんです。でも、映像ではいきなりその姿で出てくるわけでしょう? 俳優の方々の演技によってそれらが明らかになり、物語世界がさらに掘り下げられることもありますね」

主演を含め、俳優のキャスティングについては、「あまり詳しくないこともあって、口出しはしません」と池井戸氏。しかし、この人が演じたらいいのでは? と密かに考えていた俳優が実際にキャスティングされ、驚いたこともあったという。

貧しく幼い幼少時代を過ごした山崎瑛を演じたのは竹内涼真
©2022「アキラとあきら」製作委員

老舗の海運会社、東海郵船の御曹司・階堂彬を演じた横浜流星
©2022「アキラとあきら」製作委員

階堂彬の叔父を演じた児嶋一哉(左)とユースケ・サンタマリア
©2022「アキラとあきら」製作委員

「誰のことかは想像にお任せしますが、あの一致には本当にびっくりしました。『アキラとあきら』に主演してくださった竹内涼真さんは、『下町ロケット』『陸王』(ともにTBS)に続いて僕の作品は3度目になりますが、場面ごとに山崎として細やかな感情表現をされていて、ああ、本当にいい俳優になられたんだなと。横浜さんははじめてでしたが、やや屈折した映画オリジナルの階堂のキャラクターをきちんと作って演じてくださった。2人ともそれぞれ適役でしたし、ドラマに続いて階堂の父を演じてくれた石丸幹二さん、僕が個人的に気に入っている階堂家のダメな叔父の晋と崇(ユースケ・サンタマリア、児嶋一哉)も含めて、すべてのキャストの方々が誠実に演じてくださったのも印象に残っています。台詞と芝居の力で2時間8分を見せた、素晴らしい力技でした」

執筆中、つい頭をよぎる「撮るの難しいかな……」

逆に、映像から受けた印象が、小説のインスピレーションを呼び起こしたり、執筆に影響を及ぼしたりはしないのだろうか?

「そうですね……たとえば今、箱根駅伝を題材にした小説を連載しているんですが(「週刊文春」連載『俺たちの箱根駅伝』)、これも映像化されたらいいな、という考えがよぎることもありますね。そうすると、レース当日に大雪が降るとか、冷たい雨に打たれて予想外の事態が起こるとか、小説ではおおいにありうるシチュエーションですが、アイデアのリストから外してしまおうかと思ったりする。“雨が降ると撮影、大変だろうなぁ”とか(笑)。台風、大地震、噴火なんかもそう。原作者の温情?というか、逆にそんな自然災害が起こらなくてはならない理由もないといえばないんですよね。だったら、あえてそこでハードルを上げずに、あらゆる意味でもう少し汎用性の高い場面設定のほうがふさわしいんじゃないかと」

原作者と映像チームの水面下の駆け引きもまた、新しいクリエーションのきっかけに。池井戸氏の楽しげな笑みからも、まだまだ新しい名場面の種が眠っていそうな予感がする。

「そうですね。まずは小説を楽しみに待って読んでいただけると、作家としてはありがたいです」

取材・文/大谷道子 撮影/石田壮一

『アキラとあきら』(2022)上映時間:2時間8分/日本


父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛〈アキラ〉。大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬〈あきら〉。運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社した2人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に〈現実〉という壁が立ちはだかる。〈アキラ〉は自分の信念を貫いた結果、左遷され、〈あきら〉も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。そして持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、〈アキラ〉と〈あきら〉の運命は再び交差する ‒‒‒‒。

配給:東宝
8月26日より全国公開
公式サイト:https://akira-to-akira-movie.toho.co.jp/
©2022「アキラとあきら」製作委員

池井戸 潤 いけいど じゅん
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞、2020年に野間出版文化賞を受賞。『半沢直樹』をはじめ数々の作品がドラマ化され人気を博し、映画化された作品に『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』がある。映画『アキラとあきら』は8/26(金)全国公開。また10/9(日)22時からWOWOW連続ドラマWで『シャイロックの子供たち』が放送開始。23年には、同じ原作をもとに別プロダクションが手がけた映画の公開が決定している。

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