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水10ドラマ「テッパチ!」ー炎上リスクまで包含した体育会系ドラマの描き方

集英社オンライン / 2022年8月17日 16時1分

町田啓太が主演を務めるフジテレビ系水曜22時ドラマ『テッパチ!』。炎上リスクを避けながらも描きたいテーマを描く、現代の体育会系ドラマ制作の在り方について考察する。

主人公・国生宙(町田啓太)が、八女教官(北村一輝)の誘いによって自衛隊訓練生として奮闘する日々を描く『テッパチ!』。佐野勇斗、佐藤寛太、白石麻衣など邦ドラマ界の期待を背負う若手役者が集った。

”テッパチ”とは、自衛隊員が使用する鉄帽、ヘルメット全般を指す呼称。

8月10日に終了した第一部では、訓練生たちそれぞれが抱える悩みに向き合いながら、国を守る自衛隊員として成長していく過程を描いており、その内容は心を揺らすものがあった。一方で、必要性に疑問を覚える恋愛シーンや、炎上スレスレのエピソードに冷や汗を感じる面も。しかし、賛否両論が持ち上がるのは、ドラマとして負の側面ばかりではない。



本稿では、炎上リスクを盛り込みながらも描きたいテーマを描く、制作陣の意図を考察する。

“罵声に1時間耐える”訓練の炎上リスクポイント

今回は、宙と同じく自衛隊候補生として入寮した武藤(一ノ瀬颯)にフィーチャーした3話の終盤、トラウマを払拭するための”訓練”として描かれたシーンを例に挙げたい。

武藤は入寮してからも寡黙で感情表現が乏しく、同班の仲間とも交流を避けていた。その背景には、家庭環境に恵まれず父親からネグレクト/暴力を受けており、極限状態まで追い込まれたときに父親を刺し殺そうとしてしまった過去があった。

実際には、未遂で終わったものの、その事件をきっかけに父親は逮捕され、自身は養護施設へ預けられることになった武藤。大きな心理的負担を抱えた武藤にとって、積極的に他人とのコミュニケーションをとるのは難しいことだったのだ。

そんな武藤は、訓練が続くある日、パワハラ紛いの大声で指導を繰り返す上官に刺激され、暴れ出してしまう。上官の姿が父親と重なり、自分でもコントロールが効かなくなってしまったのだ。このままでは仲間に迷惑をかけると気に病んだ彼は、秘密裏に逃げ出そうとしたところを宙に発見される。

そこで武藤の口から、過去に父親を本気で刺し殺そうとしたが返り討ちに遭ったこと、まだ自衛隊員になるため頑張りたいと思っている本心を聞いた宙。その後、同班の仲間を集めて武藤を囲み、“罵声に1時間耐える”訓練を決行した。

一見して炎上リスクまみれの演出に思えるこの訓練シーン。「安易に真似をしないよう注意書きが必要では?」と声が上がるのは当然だ。しかし、1話からこのドラマを見守ってきた視聴者からは、武藤のトラウマや仲間たちの愛情を踏まえた、好意的な反応が多かった。

実際のところ、その後の仲間のフォロー、この訓練方法しかなかった理由にまで丁寧に言及したことで、ドラマとしての深みを増す結果となったと筆者はみている。

SNSによってすぐにドラマに対する評価が伝播する現代において、炎上リスクを考慮しながらもおもしろいドラマを描くことに成功した例とも言えるのではないか。

炎上を避けられた6つの理由

3話の訓練シーンが炎上を免れたのには、以下の理由がある。

1. 宙が訓練を考えたきっかけや理由が、武藤を心から思いやるものだった
2. 当初仲間たちは「そんなことをする理由がない」と訓練を断った
3. 武藤本人が、自身の成長のためにこの訓練方法を望んだ
4. 大事がないよう見張る役回りのキャラがいた
5. 訓練終了後、仲間全員から謝罪や労いの言葉があった
6. 宙本人から「この方法しか思いつかなかった」との言葉があった

該当のシーンでは、複数人で一人を取り囲み、代わるがわる暴言を投げつけている。センセーショナルであり、一見しただけでは意図を図りかねるとともに、誤解を生みやすい場面だ。

しかし、前述したように、このシーンによって不利益が生まれないような工夫がされていることがわかる。万が一にも現実で模倣されないよう、ドラマにとってこの演出が不可欠であると示しているのだ。

炎上リスクは至るところにある。あくまでドラマだから、物語だから、では通用しない時代だ。

リアルさや、ある意味での品性まで求められるようになったエンタメ業界において、炎上リスクさえも織り込みながらおもしろいドラマをつくる姿勢は、今後も必須となってくるだろう。

“おもしろいドラマを描くため”にあえて織り込む炎上リスク

本記事で取り上げた『テッパチ!』には、数々の若手男性役者が出演する側面からか、はたまたこのドラマの性質上の問題か、3話の訓練シーン以外にもヒヤッとさせられる場面があった。

たとえば、白石麻衣演じる桜間冬美自衛官と、宙との恋愛模様である。

男性が多く出演するなかで、紅一点とも言える冬美の存在には目を惹かれる。少々メタ的な見方になってしまうが、一人くらい女性キャラクターを入れておかなければ、恋愛に関する場面は描きにくい。そういった意味でも、彼女の存在はこのドラマに動きを与えている。

しかし、冬美と宙が互いに距離を近づけるエピソードがあまりにも唐突だと、視聴者としては疑問を感じざるを得ない。

冬美が車とぶつかりそうになり宙が助けるシーン、ならびに階段上から足を滑らせ転落する冬美を宙が助けるシーンなど、筆者のまわりでは「必要性に欠ける」といった声も聞かれる。

恋愛ドラマではない作品における恋愛描写には、ことさらに注意が必要かもしれない。「視聴者をキュンとさせよう」という狙いがあからさまな描写は、白けさせる結果となってしまうからだ。また、男性同士の友情や成長に重きを置いたドラマにおいて、恋愛描写はノイズとなる恐れもある。

くわえて、1〜2話ではサービスとしか言えないシャワーシーン&筋トレシーンの挿入も目立った。こちらも、好意的に受け取れる範囲を超えてしまうと、ドラマにとってのノイズとなってしまいかねない。

これらの”炎上リスク”は、何も『テッパチ!』に限ったことではない。いわゆるコンプライアンスを気にしすぎると、平坦でつまらないドラマになってしまうだろう。リスクを織り込んだうえで、どんなドラマが作れるか。受け手のリテラシーはもちろんのこと、作り手の覚悟も試される時代がきている。

文/北村有

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