『みんなのヴァカンス』(2020)が公開中のギヨーム・ブラックは、劇場デビュー作『女っ気なし』(2011)で夏のリゾート地での出会いと別れを繊細に描き、注目を集めた。ヌーヴェルヴァーグの一角を担ったエリック・ロメールも、幾度となく海辺のヴァカンスの人間模様を見つめてきた。そう、フランスが舞台となる映画には、ヴァカンスを描いた名作がいっぱい。そして、ヴァカンスはたんなる休暇ではなく、ときに自分自身を見つめ直す時間にもなる。外国人監督が捉えるとさらに際立つ美しい風景も必見の映画で、フランスでのヴァカンス気分を味わって。
見れば瞬時に心はフランス! 麗しのヴァカンス映画5選
集英社オンライン / 2022年8月20日 10時1分
蒸し暑い日々にうんざりしている人、必見! 見るだけで爽やかな風が心に吹くような、珠玉のヴァカンス映画5作を紹介する。
ヴァカンス気分を味わえる名作たち
『ボンジュール、アン』Paris Can Wait 上映時間:1時間32分/アメリカ・イギリス
アメリカ人映画プロデューサーの妻アン(ダイアン・レイン)が、夫の仕事仲間であるフランス人ジャック(アルノー・ヴィアール)とカンヌ映画祭からパリに向かう帰路で、人生の喜びを再発見していく。
7時間のドライブのはずが、食通で博識のジャンの提案で寄り道ばかりの旅に。高級店の美味しそうな料理をはじめ、サント・ヴィクトワールやサント=マドレーヌ大聖堂などの名所旧跡がふんだんに登場。
それだけでも素敵だが、アンが心躍る瞬間を撮ったスナップ写真がまたおしゃれ。なにしろ、監督はフランシス・フォード・コッポラの妻エレノア。全編に溢れる趣味の良さは、一流を知り尽くしている彼女ならでは。スナップ写真のセンスは、近頃の旅の楽しみであるインスタ映えの参考にしたくなるはず。
『スイミング・プール』(2003)Swimming Pool 上映時間:1時間42分/イギリス・フランス
Album/アフロ
新作に気が乗らないイギリス人ミステリー作家サラ(シャーロット・ランプリング)が、出版社の社長ジョン(チャールズ・ダンス)の勧めで彼の南仏リュベロンの別荘へ。シーズンオフで気候も穏やか、木漏れ日や葉擦れの音が心地よい地で気難し屋のサラの筆も進むなか、ジョンの奔放な娘ジュリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が現れる。
プール付きの別荘での優雅な執筆活動は、まさに近頃話題のワーケーション。穏やかな時間を掻き乱すジュリーさえも、サラに新作のアイディアを与えてくれる。
シャーロット・ランプリングとリュディヴィーヌ・サニエという、フランソワ・オゾン監督の2人のミューズのリゾートファッションの違いもお楽しみ。お気に入りカフェのスタッフのお薦めスポットとして、隣のラコスト村にあるサド侯爵の城も登場する。
『プロヴァンス物語 マルセルの夏』(1990)La gloire de mon pere 上映時間:1時間51分/フランス
Everett Collection/アフロ
フランスの国民的作家マルセル・パニョルの自伝的小説の映画化。19世紀末、9歳になったマルセイユの少年マルセル(ジュリアン・シアマーカ)は、叔父夫婦と共同で借りた南仏オーバーニュの別荘で家族揃って夏休みを過ごす。
父と叔父の猟にこっそりついて行ったり、地元の少年と友情を育んだり。ささやかな冒険もある夏の日々は、父親を“全能の存在”として愛し尊敬するマルセルの素直さとあいまって、子ども時代の幸せな記憶を鮮やかに甦らせてくれる。
別荘があるのは、プロヴァンスの空にそびえる広大な岩地ガルラバン山塊のふもと。オーバーニュで生まれたマルセルの誇らしさ溢れるナレーションとともにガルラバンが映し出される冒頭から、その勇壮さに心奪われてしまう。
『緑の光線』(1985)Le rayon vert 上映時間:1時間34分/フランス
Photofest/アフロ
友人とのギリシャ行きをドタキャンされたデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)のこじらせヴァカンス。ひとり旅も団体旅行も嫌という彼女は、友人カップルに同行したり、山へ出向いたりと迷走し、3か所目に訪れた海辺のリゾート地ビアリッツで、太陽が水平線に沈む一瞬にだけ見える「緑の光線」の話を耳にする。
聖母の岩やそこに繋がるギュスターヴ・エッフェル設計の鉄橋といった名所はあくまでもさりげなく映し出され、デルフィーヌと友人たちの会話で恋や人生の機微を浮き彫りにするあたりが、エリック・ロメールならでは。
こじらせ女子デルフィーヌの嘆きがじれったければじれったいほど、自分や他人の心が読めるようになるという言い伝えがある“緑の光線”へのロマンが募る。
『プロヴァンスの贈りもの』(2006)A Good Year 上映時間:1時間58分/アメリカ
Everett Collection/アフロ
『南仏プロヴァンスの12か月』で知られるピーター・メイルの小説をもとに、旧知の仲のリドリー・スコット監督が映画化。
ロンドンの凄腕ブローカーのマックス(ラッセル・クロウ)は、ワイン醸造家である叔父の遺産相続手続きのために20数年ぶりにプロヴァンスへ。少年時代に毎年夏休みを過ごしていた屋敷と葡萄畑をすぐに売り払うつもりだったが、シャトーでの日々が、金儲けしか頭になかった人生を見つめ直させる。
スコット監督作は映像の美しさには定評があるが、自身もプロヴァンス暮らしを愛するだけあって、陽光溢れるプロヴァンスの美しさは格別! ひとつひとつの風景に憧れをかき立てられて、かの地で美味しいワインを楽しみたくなる。
文/杉谷伸子
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