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「JK、インドで常識ぶっ壊される」インドの光と影を綴った女子高生の現在地

集英社オンライン / 2022年8月19日 12時1分

現役女子高生が、中3で移住したインドでの約3年を綴った話題書『JK、インドで常識ぶっ壊される』(河出書房新社)。インドでの数奇な出来事から貧困街の子どもたちとの交流まで、硬軟自在なエピソードをポップに、エモーショナルに、時にシビアに描く1冊は、幅広い世代から支持されている。2022年3月に高校を卒業した著者の熊谷はるかさんに書籍で伝えたかったこと、インドの日々を振り返って今、思うことについて聞いた。

JK視点で追体験する「インドの光と影」

――『JK、インドで常識ぶっ壊される』の発売後の反響をどう感じていますか?

本を出したこと自体、まだ現実味がないのですが、読んだ方から嬉しいお言葉をたくさんいただけてありがたいです。企画をしたときは主に同世代に向けた本を書こうと思っていたんですけど、実際は、上の世代の方にも読んでいただけたのが新鮮でした。



インドに住んでいたり、インドの学校に通っていたことがあるという方が、現地での生活を思い出してくださることもあるようで。いわゆる若者言葉も取り入れて書いたので、どこまで届くんだろうという気持ちがありましたが、世代にかかわらず、表現のひとつとして受け入れていただけたのが嬉しかったですね。

――学生による、学生のための出版コンペティション「出版甲子園」でのグランプリ獲得から、出版はどう決まったのでしょうか。

決勝大会で河出書房新社の担当編集・田中大介さんから声をかけていただいて、正式に出版が決まったのが2021年の5月です。その直後にインドから帰国して、年明けに始めた執筆も佳境に入るタイミングでした。

高校生のうちに出しておきたいという気持ちがあったので、年内にどうにか出そうと編集の田中さんと決めたんですが、引っ越しや日本の高校への転入、夏休み前のテスト、それに受験も執筆と重なって、去年の今頃の記憶があまりないです(笑)。

――若い世代が使う言葉は、積極的に盛り込んでいったんですか?

ブログやSNSのような感覚で読んでもらえて、本の世界に入って一緒にインドを体験してもらえる作りにしたかったので、同世代に馴染みのある言葉を使いました。タイトルにも「JK」と入れているし、そこはキャラとしても出していかなきゃという気持ちもあって(笑)。

同時にインドで感じたこともしっかり書きたいと思っていたので、実際に友達との会話やSNSで使う言葉と、私自身の思いを伝える言葉を組み合わせるバランスが難しかったですし、工夫したところでもあります。

焦ったり混乱したりわけわかんなくなったりしたときも、とりまググる。そんなスタンスで、感情が先走る前に客観的かつ冷静な視点からあくまで本質を確かめたい(という体裁でいる)我々ジェネレーショ~~ンZ☆ だが、気づけばネットの波に吞み込まれてしまうことも少なくない。

――伝える上で、ほかに意識したところや工夫したところはありましたか?

私がインドで経験したことや感じたことは、すべて明るいものでも、暗いものであったわけでもなくて。帯にも「インドの光と影」と入れていただきましたが、グレーゾーンも含めてそのどちらも表現しようと思いました。

インドは、訪れてみて好きになる人と嫌いになる人が分かれるとよく言われますが、それってきっとインドだけじゃなくて、日本でもどんな文化でも、ピンとくる部分と「どうなんだろう?」と感じる部分があると思うんです。

だから、ただ他の国で暮らしてビックリしたということではなくて、明るいものも暗いものも両方書くことで、読んだ人が、今いる場所について考える機会になったらいいなと思いました。

どこからともなくごちゃごちゃとしはじめた道路の様子は、まさに混沌ということばを体現していた。大勢の労働者が乗り込んだトラック。ヘルメットもなしに家族四人がまたがったバイク。緑と黄色のおもちゃのような見た目をした三輪の乗り物。ときどき見かける真っ黒の外車。

「インド」と「JK」のレッテルの間で

――3年のインド生活の中で、掲載するエピソードを選ぶのも大変だったのでは?

インドではほぼ毎日が劇的だったので、泣く泣くカットせざるをえなかったエピソードもありました。エピソードを選ぶ基準や書き方としては、本に没入してもらえる構成や、明るい部分と暗い部分がいきなりパキッと切り替わらないような自然な流れを意識しましたね。

私自身、本を読むことで何かを体験をした感覚を得られるのがすごく好きなので、そういう本を作りたいと思って、いろいろな作品を読み込んだりもしました。

――先日の矢萩多聞さんとの対談イベントで、遠藤周作さんの『深い河』からも影響を受けているとおっしゃっていました。

私が遠藤周作さんの名作を語るのもおこがましいんですが、バラバラな境遇に置かれている登場人物たちが、インドという河に流れ着き、それぞれの過去や死生・善悪などの価値観に思いを巡らせる作品という風に解釈しています。今回書くにあたって、私自身はどういうふうにインドという河を泳いだんだろうと考えました。

もともと大好きだった朝井リョウさんのエッセイも執筆中によく読みました。とにかく楽しく読める本なんですけど、私がインドで体験したどうしようもない滑稽さや珍妙さは、読者とその笑いを共有したかったので、そういう場面を書くときは私自身のテンションを上げるためにも朝井さんのエッセイに助けられましたね。ただ、絶妙に面白おかしく書くのには、相当の筆力が必要だということも思い知らされました。

さっき、カレーを持ってキッチンへ去っていった使用人が、また戻ってきた。彼の手は大皿を包んでいる。ま、だ、あ、る、の…………。
ぴえん超えてぱおん超えて真顔。どーんとテーブルのど真ん中に置かれた大皿の上のケーキを、わたしはただ見つめるしかなかった。

――対談イベントで、レッテルというテーマについてもお話されていました。インドに行く前は、インドをステレオタイプに当てはめている自分がいたけれど、インドで、名前と顔を持つ1人1人と触れて語り合うことで得たものが大きかったと。

自分と遠いものは、どうしてもわかりやすいイメージを持って関係ないのが人間の本質だと思います。私はそれまで関係ないと思っていたインドに実際に住んでみて初めて、想像と実像の齟齬について考える機会になりました。

タイトルでうたっている「JK(女子高生)」のステレオタイプについても考えましたね。無名の書き手である自分は、JKという切り口なしでは本は出せなかったですし、そこに興味を持って読んでくださる方もいると思います。

でも、インドに住んでいようと日本で生活していようと、JKとして向き合う問題もあれば、年齢に関係なく個人として向き合う問題もあるはずで。書く上では、JK「らしさ」は大事にしつつも、それだけでない部分も伝えようと意識しました。

日本にいても異文化交流はできる

――はるかさんがもし日本で高校生活を過ごしていたらと考えると、インドで3年を暮らして書籍を出した今とは、まったく違う今がありそうですね。

こういう稀有な体験がなければ本は出せなかったので、インドが本を書かせてくれたと今は思います。この経験は書き残しておかなきゃという気持ちもありましたし、言語化は、自分の考えを整理してモヤモヤを晴らす作業でもありました。経験を言葉、さらに物語に落とし込むことで、前後のつながりがわかったり、新たに見えた面もたくさんあって。

たとえばインドの貧困問題は、当時は違和感があっても、言葉にはできていなかったんです。誰かに伝えようとしたときに初めて、周りの人たちはどう考えているんだろうとか、自分が貧困のさなかにいる人たちに対して抱いた思いはどこから来たものなのか、深く考えさせられました。もちろんすべてが明解になったわけではありませんが。

プリクラ撮れないタピオカ飲めないディズニー行けないと嘆く自分。対し、今日をなんとか生き延びて、明日のために一銭でもほしいこの物乞いの子ども。
ガラスたった一枚を隔てた向こう側にいるあの子は、ブルーライトに白々と照らされる外国人の横顔を見て、なにを思うのだろう。

――インドでの3年間は、はるかさんの将来に対するビジョンにも影響を与えましたか?

インドでの経験を通して、自分はまだ知らないことが多すぎると気付いて、逆にわからなくなってしまった部分もあります。それが本として形になってからもやりたいことが確実にわかったわけではなく、すごく迷っています。そうして悩んだり迷ったりする時間があるのは恵まれたことだと思えば思うほど。

これからもいろいろな人たちと出会い、コミュニケーションをとることで、自分の手の届く範囲でひとつひとつ、探していくしかないのかなと思います。

――知らないことが多いとわかったのは、世界の広さを感じることでもあったと思うのですが、海外の大学への進学を決めたのも、それが大きかったですか?

外に出たいという気持ちだけがあったわけではなくて、異文化間の翻訳によって、新しい視点や俯瞰する視点など、得られるものがあると実感したのが大きかったです。本を書くことも、自分の経験を言語に翻訳する作業だったので。これからも、文化の行き来を通して、将来や自分の置かれたコミュニティへの視点を深められるんじゃないかなと思っています。

でも異文化との交流って、違う国や地域の人との間だけではなく、誰とでもできる気がするんです。

似た環境で育った人でも、深く話してみると違う視点を持っていたりして、それも異文化と言えるかもしれない。日本でインドのことを考えるときも、まったく違う話題について日本で人と話しているときにも、日々新たな発見や出会いはあります。

コミュニケーションを通じて、つながることも、違いを認識することもできて、それもひとつの翻訳だと思いますね。

1冊の本で世界の見え方が変わる

――現時点で興味のあることや、気になっていることは何ですか?

本を書いて、本を出した後もこういうインタビューで話す機会がありますし、この本について他の方に書いていただくこともある中で、書くこと、書かれることについて考えるようになりました。誰かについて書くことに伴う影響の大きさや、経験を言葉にする必要性、モラルだったり……語ることと語られること、その上での伝え方については、いろんなコンテクストで考えますね。

――本でしか伝えられないものや、本で伝える意義は、どういうことだと思いますか?

本って、紙の上の文字を追っているだけなのに、そこには大きな世界が広がっていて、小さな1冊の本を読み終えただけで世界が違う色に見えることがあって。言葉が持つ力も大きいし、同じものを読んでもとらえ方が人それぞれ違う、その自由度も本の魅力だと思います。

同じ経験でも、今の時代なら動画やSNSという発信方法もあり、やり方によっては効果的に伝えられる人もいるはずですが、じっくり時間をかけて突き詰めていきたいと思っていたので、私には、本という形が一番合っていたのかなと思いますね。

取材・文/川辺美希 撮影/竹花聖美

『JK、インドで常識ぶっ壊される』(河出書房新社)

熊谷はるか

2021年12月24日

1540円(税込)

単行本(ソフトカバー)‎ 224ページ

ISBN:

978-4-309-03016-6

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