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的中率は4回に1回? 「線状降水帯予測」は災害被害軽減に貢献できるか

集英社オンライン / 2022年8月18日 11時1分

8月初め、東北地方や北陸地方など各地で線状降水帯が発生し、豪雨に襲われた。これが発生すると、大雨災害の危険度が急激に高まるため、気象庁は今年から「線状降水帯予測」をスタート。また、警戒レベルが見直され、新たに「レベル5」が設けられた。いざという時に逃げ遅れることのないよう、災害情報の見方を紹介する。

多すぎる気象情報の種類

暴風雨警報や大雨注意報などの気象情報は種類が多い。数えると「特別警報」が6種、「警報」が7種、「注意報」が16種もある。さらに「氾濫発生情報」や「警報級」という表現もあり、いざという時に自分はどうすべきかの判断を下すのが難しい。

そこで参考にしてほしいのが、土砂、洪水、浸水の3つの情報を整理して、いつ避難すべきかを教えてくれるサイト「キキクル」だ。気象庁のHP https://www.jma.go.jp/jma/index.htmlから「キキクル(危険度分布)」を選び、市町村別のマップから知りたい場所を選択すればすぐに情報が出てくる。


地図を拡大していくと、上図のような画面が出てくるので、その地域が避難すべきエリアかどうかが、地図の色を見るだけでわかる。今年6月から警戒レベル5を含む運用が始まったのだが、ここで個々のレベルの説明をしよう。

レベル5は黒で、「災害切迫」を表す。すでに災害が発生しているか、切迫している地域という意味だ。テレビなどでは「緊急安全確保」と伝えられ、「避難するタイミングを失し、避難すること自体が生命の危険を伴う」状況だ。

もしも逃げ遅れた場合は、洪水が心配される場所ならできるだけ高くへ移動すべきだ。二階建ての住宅なら二階へ。マンションやアパートなら、上層階へ。土砂災害の危険地域なら、崖から離れた部屋へ移動する。より安全な所へ移動して災害の終わるのを待つ、というのが緊急安全確保である。

警報レベルごとの災害発生の危険度。政府広報オンラインより

レベル4は紫色で、「危険」を表す。地元の自治体から危険な場所に対して「避難指示」が出される。かつては「避難勧告」という言葉も使われたが、今は避難指示に一本化された。

住民がとるべき行動は災害の種類によって異なる。土砂災害が想定される地域は地域外に出ることを求められているが、洪水や浸水被害では、安全な地域への避難か、屋内の浸水が及ばない階への移動となっている。

レベル3は赤色で、「警戒」である。災害の状況がこれから悪化すると考えられるタイミングで出される。高齢者など災害弱者は避難を始める。たいていの場合、風雨がそれほど強くない頃に出されるので、災害弱者にとっては避難しやすい。

6月から開始された「線状降水帯予測」

古い話で恐縮だが、私が新人記者のころは、先輩から「時間雨量30ミリ、24時間雨量100ミリを超えたら、どこかで災害が起きている可能性がある。警戒しろ」と言われたものだ。ただ、今の日本では、この雨量で被害が出ることはまずない。

とはいえ災害も進化していて、時間雨量が100ミリという猛烈な雨が珍しくなくなってきた。決して「昔より安全」とは言い切れない。むしろ宅地開発などで地形が大きく変わり、危険になっている場合もある。例えば昨年、静岡県熱海市では盛り土の崩壊で多数の死者が出た。あれは盛り土がなければ起きなかった災害だった。

今年から始まった線状降水帯の予測も、そうした極端な集中豪雨に対応するために設けられた。この予測は野心的だ。線状降水帯による大雨の正確な予測は難しいため、「的中率は4回に1回ぐらい」と気象庁自身が明かしている。

発表のタイミングは12時間前から6時間前、範囲は「東北地方」のように大まかな地域でしかない。そのせいか、気象庁は予報という言葉は使わずに予測とし、気象情報の中で言及する方針だ。

実際、スタートして最初の線状降水帯が7月5日に高知県で発生したが、残念ながら予測できなかった。また、その後の「7月15日夜から16日午前に山口県から九州で発生」という予測は空振りだった。

8月に入ってからは、北陸地方から東北地方の各地で線状降水帯が発生し、道路や鉄道、住宅などが大きな被害を受け、犠牲者も出た。この災害でも線状降水帯の発生後に、発表するのがやっとだった。

このように、スタートこそうまくいっていないが、人命にかかわる災害が起きやすい線状降水帯は、予測できれば災害軽減に貢献する。今は的中率が低くても、止めずに続けて研究し、精度を上げていってほしい。

スーパー台風の際の避難方法

東京都内で海抜ゼロメートル地帯が広がる江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は、大規模水害に備えて「広域避難計画」を作っている。

そこで想定されているのは中心気圧930ヘクトパスカル以下の台風だ。伊勢湾台風(1959年、死者4697人)は929ヘクトパスカルだったので、伊勢湾台風並みか、それ以上のいわゆるスーパー台風である。

そんな台風が来て高潮や洪水による大規模水害が発生すると、江東5区の居住人口のうち250万人が床上浸水となり、浸水の深さは最大約10メートルに達すると想定されている。安全な避難場所はほとんどない。

「江東5区大規模水害広域避難計画」では、雨量や荒川の水位、高潮警報の発表などによっては、逃げ遅れた住民に対して域内垂直避難指示(緊急)を出すことになっている。高層マンションが多い地区だが、上層階への垂直避難は「緊急」時の、いわば最後の選択肢としているのだ。

高層階であれば、避難せずに自室にいる方が安全に思えるが、逃げ遅れた緊急時以外に勧めないのはなぜか。少し説明しよう。

避難指示が出された地域の住民は通常、安全な別の場所へ避難する。これを「水平避難」と呼ぶ。しかし、避難が遅れた場合は、上層階へ逃げるしかない。水平避難に対してこちらを「垂直避難」という。戸建て住宅の場合は安全とは限らないが、高層マンションなら垂直避難すれば心配ないと考えるのが普通だ。

ところが江東5区は住民に対して「自宅にとどまった場合の生活環境イメージ」のイラストを示し、上層階への垂直避難について、こう注意している。「最悪の場合、2週間以上、建物から出ることができない」「食料、水は自分で確保しなければならない」「トイレやごみなどの問題もある」などなど。

何万人もの住民が浸水地域に取り残されれば、救助作業はとんでもない労力と時間を要し、全員を救助できない可能性もある。そのため、江東5区は住民に区外の安全な場所への避難を要請している。

自治体の枠を超えての避難であることから「広域避難」と呼ばれる。これは新しい防災の考え方である。

江東5区以外にも、大阪府や愛知県には海抜ゼロメートル地帯が広く分布しているので、住んでいる人たちはいざとなったら広域避難を考えてほしい。

米国では大型ハリケーンの上陸前に避難命令が出されたり、大統領が直接、国民に避難を呼びかけたりする姿が、しばしばニュースになる。

しかし、日本の場合、避難は個々人の判断であって命令ではない。首相が事前に避難を呼びかける姿を見た記憶もない。気象災害が甚大化し、過去に例のない災害が起きる昨今、災害情報だけでなく、国による発信方法も再考すべきだろう。

文/井上能行 写真/shutterstock

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