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大阪桐蔭、春夏Vの必要条件~甲子園「連覇」の戦略史~

集英社オンライン / 2022年8月18日 9時1分

今大会では大阪桐蔭が4年ぶりの春夏連覇を狙っているが、21世紀に入ってからこの偉業を成し遂げたのは、2010年の興南、そして2012年と2018年の大阪桐蔭の2校のみ。甲子園で春夏連覇をするためには何が必要なのだろうか? 感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解く。

大阪桐蔭が目指す春夏連覇の難しさ

甲子園大会の長い歴史のなかで、春夏連覇はわずか7校しか成し遂げたことがない偉業である。今大会は、3度目の春夏連覇を狙う大阪桐蔭がベスト8に進んでおり、偉業達成に注目が集まっている。

しかし、21世紀の高校野球で春夏連覇を達成したのは、2010年の興南と2012年・2018年の大阪桐蔭のみ。惜しいところで逃した学校ですら、2007年の常葉菊川(センバツ優勝、夏ベスト4)、2004年の済美(センバツ優勝、夏準優勝)の2校しかない。



2000年に圧倒的な打線で夏の甲子園を制覇した智弁和歌山でも、その年のセンバツでは準優勝だった(ちなみに2010年に夏の甲子園で準優勝、2011年のセンバツで優勝をした東海大相模は『夏春連覇』目前であった)。

この戦績を見るだけで、いかに春夏連覇が茨の道であるかがわかるだろう。本記事では春夏連覇に近かったのにもかかわらずそれを逃してしまった2校と、夏2連覇を果たした2004年から2005年の駒大苫小牧を分析し、高校野球における「連覇の条件」を考えていく。

圧倒的な強力打線と複数枚の投手陣で夏を制した智弁和歌山

まず取り上げるのは、強力打線を擁してその年の夏の甲子園を席巻した2000年の智弁和歌山だ。1997〜2002年の6年の間の智弁和歌山は、春夏合わせて優勝2回・準優勝2回・4強1回と圧倒的な強さを誇っていたが、1999年の夏は準決勝で敗退。

2000年のセンバツは切れ味鋭いスライダーで注目を集めた好投手、筑川利希也を擁する東海大相模に惜敗して優勝を逃したものの、夏はその悔しさを晴らし甲子園制覇を果たした。

智弁和歌山は世代問わず「強力打線」を擁する名門であり、西川遥輝(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)や林晃汰(現・広島カープ)といった好打者を輩出している。そのなかでも、2000年の打線は2番の堤野健太郎から6番の山野純平まで、一発がある選手が揃っていた。下記が2000年夏の智弁和歌山戦績と主要選手の成績である。

・智弁和歌山(2000年夏)大会戦績
決勝 :智弁和歌山 11-6 東海大浦安
準決勝 :智弁和歌山 7-5 光星学院
準々決勝:智弁和歌山 7-6 柳川
3回戦 :智弁和歌山 11-7 PL学園
2回戦 :智弁和歌山 7-6 中京大中京
1回戦 :智弁和歌山 14-4 新発田農



・打撃成績
4 小関武史 打率.310 0本塁打 3打点
6 堤野健太郎 打率.556 2本塁打 8打点
3 武内晋一 打率.538 2本塁打 6打点
8 池辺啓二 打率.414 1本塁打 9打点
2 後藤仁 打率.458 3本塁打 6打点
9 山野純平 打率.481 3本塁打 13打点
7 井口暢仁 打率.333 0本塁打 2打点
5 青山祐也 打率.174 0本塁打 2打点
1 中家聖人 打率.364 0本塁打 2打点
控え 北橋真 打率.421 0本塁打 3打点

チーム打率.413



・投手成績
山野純平 33回 12奪三振 防御率1.91
中家聖人 21回2/3 11奪三振 防御率5.40
松本晋昴 1回1/3 3奪三振 防御率0.00

チーム防御率3.89

智弁和歌山が優勝をする直近の大会では、1998年に春夏連覇を果たした横浜(エースは松坂大輔)や1999年に夏の甲子園を制覇した桐生第一(エースは正田樹)のように、1人の圧倒的エースを予選から甲子園まで投げさせる戦略が一般的だった。

さらにさかのぼると、1982年に「やまびこ打線」と呼ばれた強力打線を擁した池田高校も畠山準や水野雄仁といった好投手に頼る采配をしていたし、翌年その池田を破ったPL学園も1年生の桑田真澄が1人で投げ抜いていた。

しかし、2000年の智弁和歌山は20世紀の優勝校にしては珍しく、複数の投手の継投によって勝ち上がっていた(似たようなケースで1987年のPL学園は野村弘樹、橋本清、岩崎充宏の複数枚の投手を擁して優勝した)。

実際、この夏の智弁和歌山はエース級の投手が不在だった。センバツで柳川のエース香月良太に投げ勝ち、決勝でも先発を務めたサイドハンドの左腕投手・白野託也は登板がなく、エースナンバーを背負った松本は、調子が上がらず長いイニングを任せられる状況ではなかった。

投手の大黒柱がいない状況で、智弁和歌山は野手だった山野を投手としてマウンドに上げた。夏に向けて生まれたこの起用法は「2人の投手を上手く継投しながら圧倒的な打力で勝つ」という現代の高校野球に近い戦略だった。言うならば2000年の智弁和歌山は、これまでの高校野球のセオリーを覆したのである。

その戦略は名門校をも圧倒する。2回戦の中京大中京との乱打戦を制すと、3回戦のPL学園戦でも、19安打・4本塁打で打ち勝った。とくに、19安打のうち9安打が長打であり、強豪相手に打撃力の違いを見せた。

準々決勝の柳川戦は1対0でリードを守り切ったセンバツでの戦いとは打って変わり、序盤からリードを許す展開に。しかし8回裏に柳川のエース香月の親指のマメが潰れるというアクシデントの隙をつき、武内と山野のホームランで追いつくと、延長11回に後藤のサヨナラ打で勝利した。

準決勝の光星学院戦もリードを許す展開だったが、この試合も打線が2番手根市寛貴を攻略し終盤の逆転劇で勝利。

2度の逆転劇によって勝ち上がった決勝で戦ったのは、東海大浦安。そのエースの浜名翔は準決勝まで35回2/3を投げて防御率は2.02と驚異的なピッチングをみせており、どのチームも彼の決め球シュートを打ちあぐねていた。

智弁和歌山打線はその浜名から6回表までに5点を奪うも、東海大浦安打線も智弁和歌山の中家から5得点、そして6回裏に山野から勝ち越しの6点目を奪う。しかし、智弁和歌山は劣勢に立たされていながらも焦りはなかった。

8回表に疲れが見え始めた浜名に対して、5つの長短打で一挙5得点を奪い逆転優勝。準々決勝から決勝まですべて逆転勝利で夏の甲子園を制覇した。

智弁和歌山は、この大会で多くの記録を塗り替えた。6試合連続2桁安打は大会タイ記録。さらに、合計100安打・11本塁打・チーム打率.413(2001年に日大三が更新、2004年に駒大苫小牧がさらに更新)・157塁打は歴代最高記録だった。

ちなみに合計34失点も新記録である。失点をしても相手より打って得点するチームのスタイルは、この大会から20年以上経った後も語り継がれるように、智弁和歌山は「豪打」や「強力打線」のイメージを作り上げた。

そして20世紀のチームでありながら、継投によって甲子園を勝ち上がる21世紀型の高校野球のスタイルに最も近いチームでもあった。

強力打線で21世紀初の春夏連覇まであと一歩だった2004年済美

次に見るのは、2004年の済美だ。この年の済美は、センバツで強力な打撃力によって勝ち上がり、悲願の初優勝を果たした。大会前の下馬評でも前年夏準優勝の東北と並び、優勝候補として挙げられていた。

下記が、2004年夏の甲子園の戦績と、主要選手の成績である。

・済美(2004年夏)大会戦績
決勝 :済美 10-13 駒大苫小牧
準決勝 :済美 5-2 千葉経大付
準々決勝:済美 2-1 中京大中京
3回戦 :済美 6-0 岩国
2回戦 :済美 11-8 秋田商



・打撃成績
8 甘井謙吾 打率.450 1本塁打 3打点
9 小松紘之 打率.476 1本塁打 7打点
3 水本武 打率.267 0本塁打 2打点
7 鵜久森淳志 打率.556 3本塁打 8打点
2 西田佳弘 打率.526 0本塁打 6打点
4 野間源生 打率.100 0本塁打 2打点
5 田坂僚馬 打率.400 0本塁打 4打点
6 新立和也 打率.313 0本塁打 1打点
1 福井優也 打率.467 0本塁打 1打点

チーム打率.390




・投手成績
福井優也 42回1/3 21奪三振 防御率4.04
藤村昌弘 1回2/3 1奪三振 防御率0.00

チーム防御率3.89

この成績を見ても鵜久森や甘井、小松、西田を中心とした強力打線で勝ち進んでいたことがわかる。

初戦からその打力は全国の舞台で発揮される。まず2回戦の秋田商との試合では、大会注目の好投手・佐藤剛士を相手に11得点を叩き出す。

この試合での済美は、2年生エース福井が乱調で8失点(自責点6)を喫したものの、高校通算47本の強打者鵜久森が1ホーマー3打点と4番らしい打撃をしてエースの不調をカバーした。

鵜久森はさらに岩国戦でもホームランを放ち、福井の完封勝利に貢献。逆に準々決勝は福井の力投により1失点に抑え、投手戦をサヨナラで制する。準決勝では再び鵜久森が大会通算3本塁打目を放ち、春夏連覇の目前まで導いた。しかし、この時には既に福井は疲労困憊していた。

決勝は済美と同じく強力打線を擁する駒大苫小牧との対決。両チーム合わせて23得点の乱打線を、福井から13点を奪った駒大苫小牧が制した。このような試合展開になったのは、福井が投げすぎたことが影響している。

2004年の福井は甲子園で春夏合わせて1,062球(春558球・夏505球)を投げており、疲労が溜まっていることは誰の目にも明らかであった。しかし、福井が投げすぎたことによるもっとも大きな問題は、福井以外に長いイニングを投げられる2番手投手を育てることができなかったことだ。

歴代記録を塗り替えた駒大苫小牧の強力打線

2004年の夏の駒大苫小牧は、済美と同等の打力を持ち合わせているうえ、投手陣には岩田聖司と鈴木康仁の両左腕にくわえ、翌年エースを担う松橋拓也、登板機会がなかった吉岡俊輔を含め4人の投手がいた。

下記が駒大苫小牧の2004年夏の主要選手の成績である。

・駒大苫小牧(2004年夏)大会戦績
決勝 :駒大苫小牧 13-10 済美
準決勝 :駒大苫小牧 10-8 東海大甲府
準々決勝:駒大苫小牧 6-1 横浜
3回戦 :駒大苫小牧 7-6 日大三
2回戦 :駒大苫小牧 7-3 佐世保実



・駒大苫小牧(2004年、夏)打撃成績
8 桑原佳之 打率.231 0本塁打 1打点
9 沢井義志 打率.478 1本塁打 6打点
4 林裕也 打率.556 1本塁打 8打点
7 原田勝也 打率.231 0本塁打 2打点
2 糸屋義典 打率.700 1本塁打 7打点
6 佐々木孝介 打率.429 0本塁打 7打点
3 桑島優 打率.556 0本塁打 2打点
1 岩田聖 打率.125 0本塁打 0打点
5 五十嵐大 打率.421 0本塁打 4打点
控え 鈴木康仁 打率.455 0本塁打 2打点

チーム打率.448(歴代1位)



・投手成績
岩田聖 21回2/3 25奪三振 防御率4.98
鈴木康仁 20回2/3 23奪三振 防御率5.66
松橋拓也 2回2/3 4奪三振 防御率10.13

チーム防御率5.60

打撃陣は全員の打率が3割以上ではないが、4割以上の打率を記録した選手が7人いた。くわえて、全試合で2桁安打を記録しており、チーム打率(.448)は歴代最高記録である。

打線の中心にいた糸屋は、歴代最高となる大会通算打率7割はもちろんのこと、決勝戦であわよくばサイクルヒットを達成する勢いの活躍を見せた。この打力が目立っていた中で、失策もわずかに1。

岩田・鈴木の両左腕を中心とした投手陣は、成績だけで見ると防御率は5点台と高いが、どちらかが完投した試合は1試合もない。そのため、両投手が打たれても長いイニングを任せることができた。

戦績を見ると、3回戦で日大三に打ち勝ち、準々決勝の横浜戦では大会屈指の好投手と呼ばれた涌井秀章(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)を攻略するなど、全国の名門を倒して勝ち上がった。このあたりから、メディアや甲子園の観客を味方につけていたのではないだろうか。

両チームともに2桁安打を記録した日大三戦での駒大苫小牧は攻撃に派手さはなかったものの、着実に得点を積み重ねた。一方の日大三は、守備のミスによって駒大苫小牧に点を与えてしまったうえに、打ち負ける結果となった。

準々決勝の横浜戦は、序盤から涌井を攻略。特に、当時2年生の林は先制ホームランを放ち、結果的にサイクルヒットも記録した。駒大苫小牧はこの試合でも18安打を記録しており、なかでもエースの涌井からは14安打を放った。先発の岩田も7回1失点の好投。優勝候補の横浜を下した。

準決勝の東海大甲府戦では、2年生の松橋が先発。東海大甲府もエースの佐野恵太ではなく、控えの岩倉亮が先発したため、序盤から乱打戦の展開だった。ただ駒大苫小牧はこの試合でも、いつもどおりの攻撃を見せる。ホームランはなかったものの、長短打と固い守備で試合を優位に進めて10得点を挙げ、勝利した。

駒大苫小牧は済美と比較して岩田・鈴木を中心とした複数枚の投手陣で勝ち上がってきたために、タフな乱打戦になればなるほど投手陣が粘りを発揮した。しかも、基本的なバントミスや守備のミスが少ないうえに、逆転できる打力もある。

まさに高校野球における「勝つための野球」が出来るチームであった。2004年の甲子園に出場した世代は、プロになれた選手が1人もいなかったものの、チームスポーツとして勝利に徹する完成された集団であったことは間違いないだろう。
済美の春夏連覇の夢を破った駒大苫小牧は、この翌年に林と五十嵐を中心とした固い守備陣と松橋・田中将大の2枚を揃えた投手陣を揃えて、夏の甲子園2連覇を達成することになる。

逆に2005年の済美は、再び福井1人を中心に任せた結果、2回戦で姿を消した。たらればにはなるが、もし済美にイニングが稼げる2番手投手がいれば、2004年に春夏連覇を達成していたかもしれない。

この3校の比較からわかるように21世紀の高校野球において連覇を果たすためには、強力な打線と1人のエースがいるだけでは不十分であり、複数の投手を運用しながら勝ち上がる「継投戦略」が重要になってきたのである。


文/ゴジキ 写真/shutterstock

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