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「どんな場所でも、本当のことを表現したい」―『グッバイ・クルエル・ワールド』で西島秀俊が演じた「人間の業」

集英社オンライン / 2022年9月2日 12時1分

一夜限りの強盗団が、ヤクザの資金洗浄現場へと向かう場面から始まる映画『グッバイ・クルエル・ワールド』。人生に詰んだ人々の血生臭い感情を描いた本作は大森立嗣監督の真骨頂である。強盗団のひとりで、分け前で生活を立て直そうとする安西を演じたのが、西島秀俊。テレビドラマから大作映画まで、エンタメ界を駆け巡る彼を突き動かすものとは?

破滅へと向かう人間の業を表現したい

――今回『グッバイ・クルエル・ワールド』のオファーを受けた理由は?

大森監督の作品はずっと観ていて、俳優さんたちがほかの作品とは何か違う生々しい演技をされているので、ぜひ自分も参加したいと思っていました。プロデューサーの甲斐(真樹)さんや、脚本の高田(亮)さんとご一緒したかったのも大きな理由のひとつです。


――西島さんは、今回の安西という人物をどう解釈して役作りをしたのでしょうか。

安西は、真っ当であろうとするけども、自分の中にある業のためにどうしてもそうはいかなくて。過去を断ち切って真っ当に生きようと思っても、自分の過去に追いつかれてしまう。大森監督からは、自分のことだけを考えているわけではなく、いろんなものを背負っている人物ということは言われましたね。

――安西は、妻子との生活を立て直そうとする人のよさもあり、でも破滅に向かってしまうんだろうという不穏さを感じました。彼の秘めた破滅性はどう表現されたのでしょうか?

たとえば街の人たちに疎外されるときも、周りが悪いように見えても、結局は本人の中にある性質によって破滅に向かってしまう。そういう彼の中にある業をしっかり表現したいと思いました。

ただ、昔はそれでも生きていけてたような人たちが、現代では居場所がなく生きられなくなっていることもこの作品の側面のひとつだと思っていて、そこも大事にしました。この映画は群像劇で全員が主役ですけど、世代の違う登場人物たちが、それぞれ世の中での居場所をなくしてああいう行動に出る、そういうお話だと思います。

大森監督は俳優が演じ始める前に撮る

――大森監督の作品をご覧になって感じていた俳優さんたちの生々しい演技というのは、実際に大森監督の演出を受けて、どう生まれているのかわかりましたか?

たとえば、「怒っているとか、怯えている表現はこうだ」って現場に持ってきた場合は、徹底的に「違う」と言われます。思い込みは、すごく排除する。そして、俳優が確信するちょっと前の、怒っているのか、楽しんでるのか、悲しんでるのかとか、登場人物も演じる側もわかっていない、もやっとしたものを掬い取ろうとしているのは、すごく感じましたね。俳優が演技をしたり確信を持ったりする前に「もう、本番に行こう」っていうことはよくありました。

――言葉にできない感情や揺らぎも含めて、撮るということですね。

そうですね。初日に、みんなで強盗をした後、車に乗っているときのそれぞれの寄りの表情を撮ったんです。斎藤工くんがそのとき監督から、「なんにも考えずに、ただぼんやりと前を見ててくれ」と言われたのが印象的だったと言っていましたけど、僕もそうでした。

それぞれが強盗を終えて、「やった」という達成感を持って演技をしようと思っているときに、「全然、違う。ただ、ぼんやり前を見てて」と。達成感なのか、ここから何かが始まる予感なのか、ただ単に疲れ果てて呆けているのかわからない、そこを撮るという演出ですね。

もっとキャラクターをわかりやすく撮る道もあったと思います。たとえば、工くんの役が、楽しくひたすら暴力を振るう人物だったらわかりやすいけど、実際はもっと人間的で、極限では、怯えて普通の人間に戻ったりもする。

玉城(ティナ)さんと宮沢(氷魚)さんが演じた若いふたりも、役と演じる人が混ざっているような感じが面白くて。今回の現場は、大森監督が、自分が確信を持つ前の演技を求めているということを、敏感に理解できる人たちが集まっていたと思います。みんながそれを楽しんでいましたね。

僕の場合は、何かを背負えば背負うほどうまくいく

――群像劇の中での、西島さんが演じる安西のポジションはというと?

安西という人物は、ほかの役よりもちょっと共感力が強いです。主人公たちはみんな、全然、違うんですよ。世代も違うし、それぞれ違う絶望があるんですけど、安西は、「いや、おんなじだろう」っていうのがどこかにある。殺し合うんだけど、殺したくないっていう気持ちが明確にあるんですよね。でもほかの人たちはそうではなくて、特に、若いふたりからは完全に拒否されます(笑)。

――西島さんが、登場人物の中で「一番共感できる」「自分に近い」と思う人は誰ですか?

え、この中でですか(笑)。相当、難しいですね……まぁでも、安西かなぁ。理由はうまく説明できないですけど……僕は20代や30代の頃から、自分がこれをやりたいということだけで、やっていたわけではないんですよね。

観客の方が楽しめることとか、どういう人が観るんだろうと考えて、そこへ向けて演技をする部分が大きくて。周りの人も増えていく中で、その人たちのことも考えていって……身ひとつで自由にいるわけではないというのは、安西に通じるところもあると思います。

玉城さんとか工くん、宮沢さんの役は、暴力だったり、ある衝動だったり、自分のやりたいことに向かっているわけで。でも安西の場合は、過去から逃げている。そして、過去に追いつかれる。それと自分が似てるっていうのはちょっと違う気がするけど(笑)。

自分の中にある衝動のままに、ということではないと思っていて。僕はそれが面白いと思ってるし、それがうまくいっているので、自分には向いてるのかな。いろんなものを背負えば背負うほど楽しいし、結果が出るのかなという気がしています。

――そのやり方で破滅に向かわないという点では、安西とは違うということですね。

そうですね(笑)。

どんな仕事も必ず「本当のこと」を入れたい

――大森監督が映画製作発表時のコメントで、西島さんに自分を超えていこうとする気配を感じたとおっしゃっていましたが、表現者として突破したと感じた瞬間はありましたか?

監督がそう感じてくれたのは嬉しいですけど、あったのかな……でも、自分の想像を超えたところに行きたいっていう気持ちは、どの現場でもありますね。完成した映画を観て自分がこういうシーンになるだろうなと思ったものと全然違うものになっていたときはすごく嬉しいです。

――西島さんは、今作のような突き抜けた表現に満ちた映画の世界と、連続ドラマのような、あえて言うとさわやかな世界を華麗に行き来されている稀有な存在だと思いますが、西島さんが演者として考える、映画とドラマの魅力は何ですか?

観てくださる方がどんな方たちで、どういうふうに観てるのかっていうのは、毎回、想像しながら作品に向かっています。仕事から帰ってきて家でテレビをつけて観るドラマと、決まった時間や場所で観る映画では楽しみ方も違うし、バイオレンス色の強いエンターテインメントと、テレビドラマっていうのも全然違うものですし。

でも、どんなにさわやかなドラマにも、生きる中での葛藤や、本当のことというのは絶対に見つけて入れたいと思っています。今回のようなジャンル映画に近い作品でも、バイオレンスでもスタイリッシュでもない、カッコ悪いかもしれないけど、生々しくて人間らしいものは入れたくて。どこに行っても1個は必ず、本当のことを入れてやるっていう気持ちはありますね。

――ドラマに映画に、バラエティへの出演にとたくさんお仕事をされていますが、今、西島さんを表現へと突き動かしているものは何でしょうか?

僕自身、仕事がない頃に、映画に救われてきたんですよね。毎日とにかく映画館に行って、何本も映画を観て、何かをやったという実感を得て、感動して。映画で世界の人たちの考え方や文化を知った時間が、今、思うとすごく豊かでした。戻れるものなら戻りたいぐらいです(笑)。

もうダメじゃないかっていうときも映画に救われたことがあったので、特に若い人たちにそういう経験をしてもらえる作品を目指してやっていきたいとはいつも思っていますね。

――最後に、西島さんが好きなバイオレンス・アクション映画を教えてください。

僕は、『男たちの挽歌』です。この間も「これはちょっと気合い入れなきゃ」って思って、1と2を観直しました。

――いいですね。気合いが入るんですね!

はい。観ると気合いが入ります(笑)。

取材・文/川辺美希 撮影/井上たろう
ヘアメイク/亀田雅 スタイリスト/カワサキタカフミ


『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022) 上映時間:2時間7分/日本
9月9日(金)より全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
ⓒ 2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会

公式サイト
https://happinet-phantom.com/gcw

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