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自分と相手をリスペクトすることがセックスの肝。スウェーデンの性教育から学ぶ

集英社オンライン / 2022年8月24日 11時1分

性や身体について学ぶことは決して恥ずかしいことではなく、自分や他人を思いやるために必要な学びだという見解が広がっている。大人にこそ知ってもらいたい性教育やセックスについての話がある。スウェーデン発の性教育本『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』を翻訳し、YouTuberとしても活動する、みっつんさんに自身の経験や海外の状況とともに、性教育についてめぐらせる思いを聞いた。

違和感を否定しないで!

「多様性」や「自分らしさ」を祝福するムードの中で、「性教育」の前提の知識を学んでおきたい、という人が増えている。本屋には「ジェンダー」や「フェムテック」とタイトルのついた書籍がずらりと並び、YouTubeで指原莉乃やSHELLYといった著名人が生理について率直に語る動画も増えてきた。それでもまだ、“性教育後進国”とよばれる日本での学びは圧倒的に足りていない。



身体について語ること、知ることは「恥ずかしい」とされてきたが、正しい知識を身につけることが意志のある妊娠・出産、性感染症予防、性暴力の根絶など私たちのウェルビーイングのために必要ではないだろうか。

最近では「包括的性教育」という言葉も使われるようになってきた。ユネスコが2009年に発表した性教育に関する指針の日本語訳で、人間の体と発達だけでなく、ジェンダー平等や性の多様性、性的同意など「人権尊重」を基盤とした性教育を指す。

つまり、リスペクトが基本だということ。それは、スウェーデンで出版され、世界16か国で翻訳されている性教育本『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』でも、1ページ目に大きく書かれている。

どうしたらお互いに気持ちいいセックスができるかを、よく男の子たちによく聞かれるんだ。それに対してぼくは、リスペクト、つまり相手を尊重する気持ちがいいセックスと愛の基本だ、と答えている(『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』より)

「そういう家庭もあるんだよ」

スウェーデンはジェンダーに関する研究において先進的な国であり、学校で性教育を学ぶことが必修化されて50年以上の歴史がある。小中学生から包括的性教育を受けているため、「知識を持った大人が多いと思います」とスウェーデンに暮らすみっつんさんは答える。

『RESPECT〜』を翻訳し、YouTubeで「ふたりぱぱ FutariPapa」として同性パートナーと息子くんとの暮らしをシェアしているみっつんさん、息子くんは6歳を迎えた幼稚園生だが、幼児教育に関わる先生たちからも同じことを感じるという。

「4歳の頃だったと思います。幼稚園で『赤ちゃんはママから生まれてくる』と習ったようで、友だちから『ふたりぱぱだと、どこから生まれてきたの?』と息子が聞かれたことがありました。息子は『わからない』と正直に答えたそうで、僕たちのことや代理母出産について話すべきタイミングがきた!と思い、話をしました。

パパ同士では子どもを産めないこと、協力してくれる人を見つけたこと、息子くんを産んでくれた人はアメリカに住んでいること、妊娠中から僕たちと頻繁にやりとりしながら君を授かってくれたこと……妊娠中を記録したアルバムをめくりながら、ゆっくり説明したら、彼なりに理解してくれました。

後日、幼稚園で友だちに『僕を産んでくれた人はアメリカにいるから、僕にはパパが2人いる』と話してくれたようです。それを聞いてくれていた先生たちも、『そういう家庭もあるんだよ』と優しくサポートしてくださったようで。幼稚園や先生側に、僕たちの家庭のことを特別視されたことは一度もありませんし、要望を伝えたこともありません。幼児教育に関わる先生も知識があるので、安心して任せられます。」

YouTube『ふたりぱぱ FutariPapa』より

子ども相手でも対話が一番

小学校から高等学校(特別支援校を含む)、成人教育まで性教育が必須分野であるスウェーデンでは、さらなる関心の高まりやネットの普及をかんがみて、それまでは「セックス・共生(sex och samlevnad)」と呼ばれていた分野の学習指導要領が、「性のありよう、性的同意と人間関係(sexualitet, samtycke och relationer)」にするという政府が方針を打ち立てたという。性的同意の文化を構築し、セクハラ文化を当たり前にしない姿勢があらわれ、時代に即した変化が感じられる。

「幼稚園教諭をしている友人がいるのですが、最近では中性名詞を使用することも増えてきたと聞きます。英語ではHe / Sheの代わりにTheyを使うように、スウェーデン語ではhan / honの代わりに男性にも女性にも使える名詞として『hen』が用いられています。2012年ごろから普及している言葉で、ある幼稚園を取材したテレビ番組を見ていたら、子どもから『henと呼んでほしい』と求めていました。

大人は選択肢こそ与えどもすべてを決めるのではなく、子どもにもあらゆる選択権がある。女の子として生まれてきたけれど、何となく違和感があって、「こう呼ばれたい」と思うことって子どもの頃からありますよね。そうした違和感を否定しないで、心地のいい呼び名をアドバイスしたり、リクエストに応えられたりする環境が整っていることは素晴らしいと思いました」

子どもの意思を確認すること。それは、みっつんさん自身が大切にしている性教育のベースだという。

「本人が心地よく生きられる状態を大切にするためには、子ども相手でも対話が一番。幼稚園教諭をしている友人に『性教育ってどうしたらいいのかな?』と相談したら、『教えようとしなくていい』とアドバイスをもらったことがありました。

大人が子どもに教えるという構造が当たり前じゃないですか。でも大人同士なら同じ土俵に立って、1人の人間として対峙して相手の気持ちや考えを聞くことから始めますよね。でも子どもにはそうしてなかったと気づき、ハッとしました。

面倒だし、時間はかかるけれど、一方的に知識を押し付けても子どもは関心を持たないと思うんですよね。息子くんが自分の出生のルーツに興味を持ってくれたことがきっかけで代理母出産について話したように、子どもが関心を持ったタイミングを“チャンス”だと思って話す。先ほどお話しした新しい学習指導要領の中にも、子ども個人の必要に応じて教える、と書かれています。すべての子どもが同じ歳だからと言って同じ興味や悩みを持つわけではないですからね。


わからないことがあれば、一緒に考えたり調べたりすればいいとわかってから、なるべく子どもの話を聞くようにしています。忙しいと子どもに構えないこともあるけれど、話を聞こうとする大人の姿を見て、子どもも同じように成長すると思っています」

正直に、そして、恥ずかしがらないで

声かけで意識していることについて聞くと、みっつんさんはこう答えた。

「感情を絶対に否定しないようにしています。喜怒哀楽はあって当たり前だから、『今はどんな気持ち?』と聞いて『悲しい』と言われたらその感情を認めること。だけど、悲しみや怒りを相手に伝える努力をフォローするようにしています。

あと、気持ちを押しつけないこと。まずは相手の気持ちに寄り添って、共感して、そこで何かを求められた時に自分が教えられる事があるといいなと思います。大人は子どもより経験値はあるから、『自分はこう思う』というスタンスで会話するようにしています」

みっつんさんが性教育に関心を向けることになった大きなきっかけは、初出演の舞台『愛ってなに?』だった。

1970年代の西ドイツで初上演された青少年向けの性教育の芝居を演じたことで、セックスだけではなく、性自認やアイデンティティを含めた“セクシャリティ”について、臆せず話す大切さを実感したと言う。稽古中、ドイツ出身の演出家ペーター・ゲスナーに何度もこう言われた。「正直に。そして、恥ずかしがらないで!」それは、みっつんさんが性教育を伝えるときのスタンスになった。

YouTube『ふたりぱぱ FutariPapa』より

「演じる側が恥ずかしがっていると、受け取る側も恥ずかしいテーマだと認識してしまう。大切な話をしているのだから堂々とすべき。伝える側が感情を植え付けないようにするのが大事だと教わって、それは普段の生活や本の翻訳でも活きたと思います。この前、サファリパークで『この子はフィッタ(女性器の俗語)があるから、女の子だね』って息子が言ったんです。

YouTube『ふたりぱぱ FutariPapa』より

教えてないからびっくりしたけれど、そこで大人が恥ずかしがったり、『言わない!』と否定したりするのは違う。状況に応じて真面目に話すことで、性の話が内緒話ではなくなるのかなと思います」

政治参加しないと何も変わらない

みっつんさんが翻訳した『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』の表紙や日本語版タイトルは、編集者と何度も話し合って決めたもの。全裸の男の子が、鏡に向かって立つ後ろ姿が描かれ、はっきりと“セックス”という言葉がタイトルに入っている。

「『内容はいいけれど表紙やタイトルが手に取りにくい』という感想をいただきました。帯で下半身を隠すパターンも考えたのですが、仕掛けとしておもしろくても、隠せば隠すほどタブー感が増して、“いやらしい話”のままになってしまうと思うんです。これだけ大切な話をしているのだから、恥ずかしいことではないと堂々と伝えたい。


たった一度のセックスで成功や失敗が決まるわけじゃありませんが、たくさん考えたり経験したり、正しい知識を身につけることで、自分と他人を傷つけないようにできる。その方法をこの本は教えてくれるはずです」

本書では、セックスに限らず、ジェンダー・アイデンティティを考えるパートや、女の子とのセックス/男の子とのセックスという両方のパートを設けて、多様な性のあり方を肯定する。著者のインティ・シャベス・ペレス氏はスウェーデンの性教育者としてテレビなどでも活躍。法制度の改定に伴い、改訂版を出すなど時代の変化にも対応している。

こうした一冊がスウェーデンから届いたことを喜びながら、まだまだたくさんの課題が残る日本において、みっつんさんは「政治参加」の重要性を最後に話してくれた。

「スウェーデンは1970年代からジェンダーやLGBTQ+の権利をめぐる運動があり、フェミニズムと共闘してその問題意識を広めたことで意識が高まりました。日本でも運動や考える機会が度々ありますが、政治参加というのは社会が変わる一つの大きなきっかけです。

たとえば日本でも若い世代は8-9割が同性婚に賛成しているそうですが、その若者世代の投票率が30%では結局意見が通りませんよね。そうなると、票にならない若者の意見なんて政治家は聞かなくなるのですから。


しかし、国会は過半数を取った方が全部勝手に決めていい場所ではなく、さまざまな意見を持った国民の代表が議論する場所。オバマ大統領が就任演説時に、支持者以外の声も聞いていきたいと言ったように、大多数の意見と自分の意見が違っても、それは決して小さくも弱くもないと気づいて投票に行って欲しいんです。

議員も含め、お互いに傾聴できると社会がもっと豊かになりますよね。そのために自分にできることを少しずつでもやっていくと、また社会が前進するのではないかと思います」

取材・文/羽佐田瑶子 インタビュー撮影/高木陽春

『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』(現代書館)

インティ・シャベス・ペレス (著), 重見大介 (監修), ボブa.k.aえんちゃん (イラスト), みっつん (翻訳)

2021年12月10日

1980円(税込)

単行本(ソフトカバー) 240ページ

ISBN:

978-4-7684-5911-9

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