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「論破王」ひろゆきが、実は論破以上に得意としていること

集英社オンライン / 2022年8月23日 18時1分

ビジネスパーソンも、そうでない人も「いまのトレンドを知りたい」「話題になっている本を読みたい」という欲望は持っているはず。そんな人たちのために、著述家・書評家の永田希さんが昨今の「バズワード」を解説しながら、話題書を紹介する。今回はYouTubeやAbemaTVなどを中心に人気を博している「ひろゆき」について。

「ひろゆきブーム」を象徴する2冊の対談本

「ひろゆき」とは、1999年に開設された日本最大級の匿名掲示板の創設者であり、現在は英語圏で最大規模の匿名掲示板の管理人でもある西村博之氏の愛称です。「それってあなたの感想ですよね」などの発言で「論破王」としてYouTubeからテレビまで幅広いメディアで人気を集めています。



そんなひろゆきが今年、2ヵ月連続で対談本を刊行しました。1冊目は、元日本マイクロソフト社長の成毛眞との共著『考えて生きる 合理性と好奇心を併せもつ』(集英社)。

もう1冊が、実業家・経済学者であり、かつて小泉内閣の経済財政政策担当大臣などを歴任した竹中平蔵との『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか』(集英社)です。

ひろゆきという存在は、人をくったような態度でメディアを賑わせ、賛否両論を巻き起こすことで知られています。しかし、このふたつの対談本を読むと、その飄々とした顔の裏側に「社会の仕組みを変えたい」と考えている側面があることがうかがえます。

『考えて生きる 合理性と好奇心を併せもつ』集英社 880円(税込)

成毛との対談でひろゆきは、議論の仕方や読書について親しく語っています。ただ、投資や人間関係の作り方を語る場面では、ひろゆきと成毛それぞれの「一筋縄ではいかない」クセのある人物像が伺えます。

成毛といえば、1980年代に日本マイクロソフトの社長だった人物。1980年代は、インターネットどころかパソコンすら普及していなかった時代。誰もがスマホを持ち、SNSを利用するのが当たり前になった現代のような社会が到来するなんて誰も想像していませんでした。

一方のひろゆきは、1990年代に自身が二十代前半で立ち上げた掲示板が国内最大規模に発展、それ以前には存在しなかったコミュニケーション空間を現出させた張本人。成毛とひろゆきには、「常人が知ることのない世界」をそれぞれに眺めてきたという共通点があるのです。

その共通性ゆえか、ひろゆきと成毛の対談はなごやかな雰囲気で進行します。それぞれに自己中心的に、ときに傲慢に「本当かな?」と思わせるような放言も交えつつ、「未来の日本のエネルギー問題」などのスケールの大きいテーマについても議論していきます。

ここでは相手を論破することよりも、状況の改善を阻害するボトルネックを見つけて解決する方法を見つける方が本当は得意だというひろゆきの「論破王」とは別の、もうひとつの顔を見ることができるはずです。

ひろゆきのベーシック・インカムの構想

終始一貫して親しげに語らう成毛との対談とは逆に、ピリつく場面があるのが竹中平蔵との対談。ひろゆきは、いきなり竹中の資産や金銭感覚を挑発的に揶揄し、竹中が「印象操作だ」と語気を強くしながら反論します。

『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』集英社 1430円(税込)

しかし前半でのこのハラハラするやりとりによって、ふたりの隔壁が崩れたのか、後半ではひろゆきも竹中も賛同しているベーシック・インカムの構想について語り合い、日本の未来を支える経済基盤を構想します。

ひろゆきは「口喧嘩(ディベート)が得意な皮肉屋」というイメージを持たれがちです。そんなひろゆきが、「日本の未来」という大きな問題について、元閣僚で経済の専門家でもある竹中にプレゼンをし、批判を仰いでいるのです。他ではなかなか見られない本書の読みどころでしょう。

対談本では言及されていませんが、ひろゆきは東京都の団地地域で幼少期から少年期を過ごしています。都内とはいえ、ひろゆきが住んでいた場所は当時、生活保護家庭が多く、その時の経験がベーシック・インカム支持に繋がっているとも考えられます。

ベーシック・インカムは世界的に見ても導入例がほぼ存在せず、これから長い目で議論を積み重ねていく必要のあるテーマです。ベーシック・インカムに関心があって、もっと骨太な議論を読みたいと思っているけれどまだ手を出せていない、という読者に、本書は良い入門になるのかもしれません。

ひろゆき、成毛、竹中の3人は、強烈なキャラクターと極端な物言いがひとり歩きをしてしまう印象があります。ただ、彼らのバックグラウンドや価値観が今の世の中に大きな影響を与えていることは確かです。その是非は別途、検証の必要はあるでしょうが、彼らの価値観を知ることは「現代」を知ることと言えるはずです。

ひろゆきのルーツ「匿名掲示板」の現在地

『ゴーイングダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』ユリア・エブナー 西川美樹 訳 木澤佐登志 解説 左右社 2530円(税込)

現在、「論破王」としてメディアの討論番組で活躍するひろゆきですが、その最初期の成功は「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」という匿名掲示板の創設でした。

「意見を言ったり議論を戦わせるときには、名前と顔を晒すべきだ」という現在も根強い考え方に逆らうように、名前を伏せて、もちろん顔も素性も伏せて書き込みをすることができる場所をインターネット上に作り出したのです。

この掲示板が誹謗中傷や人格攻撃、果てはさまざまな犯罪の温床にもなったことで、ひろゆきは複数の訴訟で巨額の賠償請求を受けています。

それにもかかわらず、ひろゆきは現在「2ちゃんねる」の英語圏版であり、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人にも就任しています。

匿名掲示板は、表現の自由を保障する場でもありますが、表現の自由が保障されたことで発信される情報は、ひとの心の闇を誘い、ときには大きな暴力へと結びつくことがあります。

公共の正義からは異端視される過激な思想をもつ12もの組織に潜入調査したルポ『ゴーイングダーク』は、「4chan」を含むさまざまなアンダーグラウンドな場で結びついた人々の姿を読者に教えてくれます。
ひろゆきは、匿名掲示板の管理人として訴訟を起こされ、多額の賠償金を踏み倒そうとしているとも言われています。その態度から、社会問題に無関心なのかと思われるかもしれませんが、表現の自由を尊重すること、国家権力からの圧力に抵抗する場所を作り維持することにはひと一倍まじめに向き合っているのかもしれません。

文/永田希

考えて生きる 合理性と好奇心を併せもつ

成毛 眞、ひろゆき

2022年5月26日発売

880円(税込)

新書判/192ページ

ISBN:

978-4-08-790079-8

「頂上の雑談」を目撃せよ!
“元日本マイクロソフト社長”と“論破王”、人気論客ツートップによる「知的雑談の技術」が、この一冊に集約。

SNS時代の情報収集術、メタバースやNFTの今後。
ウクライナ戦争後の世界の行方、核融合技術と原発。
自分が今35歳のサラリーマンだったら?
社債転換型トークン、“安い国”日本の可能性。
自分の頭で考えるためには?
会話の最中に意識していることは?……などなど
現在進行形にして普遍性のあるテーマを語りあいつつ、それぞれの「考え方」「読み方」「話し方」まで披露。
どうにも知的雑談が足りないコロナ時代に、「頂上の雑談」をお届けします。

ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?

ひろゆき、竹中 平蔵

2022年6月24日発売

1,430円(税込)

四六判/192ページ

ISBN:

978-4-08-788079-3

【ひろゆき VS 日本一嫌われた経済学者・竹中平蔵】
YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」で話題になったトークに、未公開の追加対談を収録した、炎上必至の激論10時間!

ひろゆき「どうして嘘をつくんですか?」
竹中平蔵「ひろゆきさん、それはイチャモンだよ!」

経済停滞の戦犯、既得権益の闇……
日本の「病理」がいま暴かれる!

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