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ガンバ大阪・片野坂監督解任! 世界の名将たちにみるチームを強くするマネジメント力

集英社オンライン / 2022年8月22日 15時31分

「私に託された使命は、また強いガンバ大阪を取りもどすこと」。就任時にそう話していた片野坂監督が成績不振を理由にわずか8か月で解任された。選手をリスペクトし、選手を慮る能力のある監督だった。それでも力を発揮できない監督業の難しさ。一体、何が足りなかったのか? チームを強くするために必要な名将の資質を考える。

名将に必要な資質

8月17日、J1リーグ、ガンバ大阪の片野坂知宏監督の解任が発表された。J2自動降格圏の17位に低迷。残り10試合で、松田浩コーチが昇格する緊急人事になった。

片野坂監督は大分トリニータで実績を積んだ優秀な指導者である。J3からJ1まで引き上げ、J1でも上位の成績を収めた。6年目の最後のシーズンにはJ2降格も、天皇杯では決勝進出を果たしている。



しかし、ガンバでの就任1年目は、何をしてもうまくいかなかった。選手同士が試合中に罵り合う一幕は象徴的だった。実質、半年でクビだ。

監督のマネージメントは、日々が勝負になる。たとえ過去にタイトルを手にしていても、プレースタイルを確立していたとしても、何の保証にもならない。むしろ成功のたび、監督自身も、チームもそれに囚われる。

「監督のスパンは3、4年。それで一つのサイクルが終わる」

欧州では一つのセオリーで、大分時代の片野坂監督も4年目を境に成績は下がり続けていた。当時の再現に期待が高まったが、もはや同じことがガンバで通用するはずはなかった。

名将の資質とは何か? 世界の名将たちの言葉から紐解く。

森保ジャパンの人気がない理由は…

「現役時代の自分と同じ選手など要らないし、通用しない。アップデートされた選手が必要。監督も同じで、常に成長しなければならない」

世界最高峰の名将の一人であるジョゼップ・グアルディオラは、指導者1年目にFCバルセロナのセカンドチームを率いていた時代、すでにサッカーの真理に辿り着いていた。

当時、同チームに「グアルディオラ二世」と言われる選手が台頭し、プレースタイルは瓜二つだった。しかし、グアルディオラ本人は現役時代の自分と同じであることに難色を示し、サッカーを革新させられる選手や戦い方を求めていた。

伝統は大事にしたが、過去の成功例に囚われることを嫌った。生き馬の目を抜くサッカー界で生き残るには、常に革新が求められる。

翻って、日本代表を率いる森保一監督が不人気な理由は、チームを革新させる輝かしさを感じられないからだろう。

森保監督自身のJリーグでの経歴は、日本人指導者として文句はない。ロシアW杯後、初めて代表監督に就任した時のチームは、浪漫を感じさせた。中島翔哉、南野拓実など新鋭選手の良さを引き出し、始まりの予感があった。しかし時が経つにつれ、力が落ちた主力選手にすがりつく。久保建英や鎌田大地が異国で新境地を開いているのと対照的だろう。周りはその様子を見て辟易とし、革新を叫ぶのだ。

監督は立ち止まってはならない。

レアル・マドリードをスペイン王者、欧州王者に復権させたカルロ・アンチェロッティ監督は、組織を新たにする名人と言える。世代交代が急務と言われる中、最小限の摩擦で巧妙にチームを作り変えた。

昨シーズンは就任1年目で主将のセルヒオ・ラモスを外し、ダビド・アラバを入れる一方、他のベテランは重用し、最小限の変化でタイトルを獲得した。今シーズンはマルセロ、イスコ、ガレス・ベイルなを放出し、守備の重鎮・カゼミーロも大金で売却、若いエドゥアルド・カマヴィンガ、オーレリアン・チュアメニが生きるシステムをすでに用意していた。

「個性の集まりを、集団に束ねる」

「カゼミーロとは違うタイプのMFがチームにはいる。例えば私はACミラン時代に同じポジションにピルロを用いた。カゼミーロとは似ても似つかない」

そう語るアンチェロッティは選手次第でチームを構築し、それ故に多彩なプレースタイルを見せ、名将と呼ばれるのだ。監督は選手を見極め、適切な戦い方を選択することが仕事と言える。

結局、人を使えるか。その器がモノを言う。

バルサで歴史に残るチームを作り上げた名将、フランク・ライカールトはその点、圧倒的カリスマだった。アヤックス、ACミラン、オランダ代表などで輝かしいタイトルを獲得した現役時代は威光を纏っていたが、それだけではない。生来的なリーダーだった。

監督室ではいつも煙草をふかし、遅れて練習場に出て来た。泰然自若。トレーニングの実務はコーチに任せ、選手の調子を見極めた。選手が不満に感じていないか、浮かれ過ぎてはいないか、孤独を感じていないか。

「能力の高い選手は、たいてい複雑な性格の持ち主。そういう選手こそ、チームに必要とされる。善良さは悪いことではないが、必須ではない」

ライカールトはそう言って、美味そうに白い煙を吐き出した。

「監督は善良な選手を探し、チームを作るべきではない。いろんな性格の持ち主を融合させることだ。一人はリーダーシップを発揮し、一人は寡黙で従順、一人は反発心があり、一人は芸術を極める。個性の集まりにダイナミズムを与え、集団に束ねるのが監督の役目さ。だから、指導者は選手個人の振る舞いに気を配る。練習中、みんながムスッとしているのは良くないが、全員が笑っているのも良くない兆候さ」

ライカールトは生粋の統率者だった。選手ありきで、その力を引き出した。

「最近は誰もがシステムを論じるが、システムが大事なのではない。手持ちの選手に合うシステムを見つけることが大事さ。在籍する選手の能力やキャラクターが優先。サッカーは刻一刻と動きのあるスポーツで、用意した一つのモデルでは戦い抜けない。選手がピッチで応用するんだ」

彼は器の大きい名将だった。選手の意識を解放し、自由にプレーさせた。そうしてロナウジーニョを中心にした伝説的なチームを作った。

「選手と同じように、監督も…」

サッカーの世界は非情だ。

ライカールトも右腕だったコーチを失うと、時の流れに勝てなかった。チームは爛熟期を迎えて退行。監督がチームや自身をアップデートさせ、選手の良さを引き出すのは至難の業だ。
片野坂監督は、大分での成功をガンバで再現できなかった。

それは必然だったかもしれない。同じ戦いは劣化するだけだ。

例えばガンバの選手は大分の選手よりも、ポテンシャルは高いが、統率する難しさもある。日本代表歴やJ1経験も豊富なだけに、我が強い。また、大阪の選手は性格的にやんちゃで、アグレッシブなトライを好む。組織にはめ込まれることに拒絶反応もあったかもしれない。J3からともに勝ち上がってきた大分とはあまりに違う状況だった。

しかし、片野坂監督の見せ場はこれからだ。

「選手と同じように、監督も日々、サッカーを生きている」

スペイン人監督ファン・マヌエル・リージョの言葉は、名将の条件の答えになるかもしれない。2019年、リージョはヴィッセル神戸をわずか7か月で失意の中で去った後、中国2部のクラブを1部に引き上げ、翌年からマンチェスター・シティのヘッドコーチとしてプレミアリーグ優勝に貢献していた。今シーズンからはカタールのアル・サッドで指揮を執る。

失敗も成功も乗り越えていくのが、名将への道だ。

取材・文/小宮良之 写真/西村尚己・アフロスポーツ

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