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車中泊旅の途中、本州最果ての国道でクマに遭遇した夜

集英社オンライン / 2022年8月23日 17時1分

愛犬とともに車中泊の旅をしたいと思い立ち、中古のエブリイを自力でカスタム。お試しトリップを経ていざ繰り出したのが「みちのく犬連れひとり車中泊の旅」。ところが旅の4日目に思いもかけない事件に遭遇……。

下北半島の最奥地で見たニホンカモシカとツキノワグマ

“みちのく犬連れひとり車中泊の旅”に出てから4日目の夜。
21時頃だった。

僕は青森県にいて、本州最北端の大間崎を目指し、下北半島を貫く国道338号線をひた走っていた。
深い深い山道で、もうかれこれ1時間以上、対向車とすれ違っていないし、先行車にも後続車にも会っていない。
道の両脇には、深山幽谷が広がっている。
心細いドライブだったが、ローカルラジオ局ののんびりしたトークと相棒の犬に癒され、励まされながら、僕はひたすら、車中泊仕様に改造したオンボロスズキエブリイのアクセルを踏んでいた。



そいつは、下りの左急カーブを曲がった先にいた。

粉う方なき、どっからどう見ても明らかに、めっちゃクマだった。
国道のど真ん中に悠然と座っている。
けっこうデカい。
首元の白い半月状の模様がはっきり見えた。

こちらは車の中なのだから安全なのはわかっていても、生まれて初めて野生のクマを間近に見ると、気持ちがひるんでしまうものだ。
クマを恐ろしいと思う気持ちは、日本人のDNAにデフォルトで刻まれているのだろうか。

急ブレーキをかけ、息を飲んで見ている僕の車のヘッドライトに照らされたクマは、「めんどくせ」という感じでのそりと立ち上がると、ガサゴソと道の脇の草むらに分け入り、山へ帰っていった。
邂逅は、ほんの一瞬だったのだ。

ああ、ビックリした。
と、一息ついて気づいた。
しまった! 写真を撮っていない!
この車にはドラレコもない!
遭遇の証拠を見せられないのが非常に残念だ。

山道を走っている間、恐らくテンかイタチ、あるいはタヌキもいたかもしれないが、そういう小さめの野生動物はひっきりなしに目撃した。
そして、ニホンカモシカも2回。

スマホでとっさに撮ったので写りはとても悪いが、ニホンカモシカの写真を見てほしい。
そしてクマさんに出会ったという話も、ホラではないと信じてもらいたい。

ニホンカモシカ……の写真もこんな微妙なものしか撮れておらず面目ない

それにしても、下北半島というのはなんというところなのだ。
山道とはいえ整備された立派な国道に、ニホンカモシカやツキノワグマが、普通にウロウロしているとは。
まさに秘境だ。
同じシモキタといっても、下北沢とは大違いだ。

さて、僕がこんな夜に下北の山道を必死で走っていたのには、ちょっとした理由があった。

むつ市で3年ぶりに開催された大きな夏祭りを見物することに

その日の僕は、午前中に三内丸山遺跡を見学して、はるか昔の縄文人の暮らしに想いを馳せたあと、本州最北端の“市”であるむつ市に移動した。
東京を出発してから4日目。
ここまでは寝るときと食事、観光地などへの立ち寄り以外はずっと走りっぱなしだった。
だからこの街では、車のオイル交換やホームセンターで不足品の買い出し、それと溜まりはじめた洗濯物をコインランドリーで洗ったりしようと考えていた。

それらの用事を済ませたのち、市のはずれである海の近くの温泉に入っていたら、地元の漁師らしきおじいさんに話しかけられ、湯につかりながら世間話をした。
おじいさんは、「ああそう、わざわざ東京から。ご苦労さんだね。まつり、見にきたのでなく?」と尋ねてきた。

祭りの情報をゲットした現場、「プレジャーランド石神温泉」。ど演歌がBGMで流れる昭和レトロな温泉

何も知らなかった僕が「まつりって?」と聞くと、今日を中日(なかび)として三日間、田名部神社の例大祭が開かれるのだという。
へえ、と思った僕は温泉から出たあと車内で検索してみた。
田名部神社というのは、むつ市の中心部にある下北半島の総鎮守。そして田名部まつりとは、5台の山車が出る下北半島最大の夏祭りであること、コロナの影響で今年、3年ぶりに開催されることなどがわかった。

これは面白そうだ。ぜひ見よう。
本当は温泉から上がったら、半島東南の海岸線を走り、本州最北端の大間崎まで行くつもりだったのだが、僕は田名部まつりを見学するため、夜までむつ市内で過ごすことにした。

市内の中心部に引き返して駐車場に車を停め、犬を連れてまつりのエリアに行くと、大勢の人たちが繰り出し、大いに盛り上がっていた。
豪華絢爛な山車が通りを引き回され、角を曲がるときは男衆が力を合わせて回転させる。そのたびに見物客からは大きな拍手と歓声が送られていた。
山車の巡行のあとにはじまった、女衆を中心とする「おしまこ流し踊り」も素晴らしく、ずっと見ていても飽きなかった。
やっぱり地方都市の祭りはいいものだ。
地元の人たちは、3年ぶりに祭りができる喜びを噛みしめているのだろう。
通りすがりのよそ者である僕にも、街全体を覆う高揚感が伝わってきた。

田名部まつりは素晴らしかった

祭りのメインイベントの見物を終えた僕は、今日のねぐら探しをはじめた。
ところが、スマホで調べてみたところ、むつ市中心部には車中泊できる道の駅がないということがわかる。
一番近い道の駅は、恐山の西に位置する、かわうち湖というところ。
Googleマップによると、現在地から44km、約48分で着くようだ。

次の本当の目的地である大間崎までは48km58分。
かわうち湖を経由すると、大間崎まではかなり遠回りになってしまう。
だが僕はかわうち湖を目指すことにした。
急ぐ旅ではないので遠回りも悪くないだろうと思ったのと、道の駅かわうち湖は標高の高いところにあるので、涼しくて寝やすいのではないかと考えたからだ。

目的の道の駅に辿り着いたのだが、えも言われぬ恐怖感に襲われる

むつ市中心部からかわうち湖までは、東回りの県道46号線を行く。
河内川渓谷沿いのこの道が、かなり厳しかった。
路面はきれいに舗装・整備されているのだが、急カーブが続き、ただひたすら真っ暗。
そしてこの道に入った時点から、他の車をまったく見かけなくなり、心細さが次第に募っていった。

この夏、東北地方は雨に見舞われていた。
その影響で土砂崩れが多発している山道はなかなかスリリングなのだが、その日は天気が良かったので、新たな土砂崩れの心配はなさそうだった。
どこまでも真っ暗な山道を走り、もしかしたらこのまま永遠に、どこにもたどり着かないのではないかという妄想に陥りかかった頃、道の駅かわうち湖にたどり着いた。

……だが、そこは異様に淋しい場所だった。
昨今の車中泊ブームで、各地の道の駅はにぎわっていることが多く、どちらかと言えば静かな環境を求めたいという気持ちが強かったのだが、ここは逆に不安になるほどひっそり閑としている。

僕の車のほかにいるのは、たったの一台だけ。
これがまた、不安な気分に拍車をかける要因となる。
キャンピングカーやバンだったら、僕と同類の車中泊組だなと思うのだが、その車は普通のコンパクトカー。
だだっ広い駐車場の中央付近、闇の中にぽつんと駐車している。
こんな場所で夜の9時だから、車内ではきっと人がいて休んでいるのだろうが、気配は感じられない。何をしているんだろう?

ヤバいやつだったら困るので、僕はその車からなるべく離れたスペースに駐車し、寝る準備をはじめた。
準備といっても、窓に目隠しのカーテンやサンシェードを設置するだけだが、その作業をしていたら、なんだか犬の様子がおかしくなってきた。

何かにおびえたように尻尾を巻き、ソワソワ落ち着かない。
舌を出し、ハアハアと荒い息をしている。緊張しているときによく見られる仕草だ。
どうしたんだろう? 周りには何もいないのに。
犬の様子を見ていたら僕もなんだか不安になってきた。
動物の本能で、何か不吉なものを感じているように見えたからだ。

逃げよう!
わけがわからない恐怖にとらわれ、僕は車のエンジンをかけて急発進。道の駅かわうち湖をあとにした。
あの異様な雰囲気を放っていたコンパクトカーが、猛スピードで追いかけてきたらどうしよう……。
そう思ってしばらくはバックミラーに注意していたが、どうやら追われている様子はなくほっと胸をなで下ろした。

ここから国道338号に入り、西の海沿いを大間崎まで行くのはかなり長い道のりだが、とにかく少しでも早くそこから遠ざかりたかった僕は、必死でアクセルを踏み込んだ。

その途中のカーブで、クマに遭遇したのだった。

中途半端だが、本稿はここで終了する。

実はまだ旅の途中で、この原稿は秋田県内のとある道の駅で書いている。
出発からドタバタ続きだった今回の車中泊の旅、クマ事件以外にも書きたいことがいろいろあるので、順次報告したいと思っています。

文・画像/佐藤誠二朗

相棒

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