ウド・キアーが演じたパットことパトリック・ピッツェンバーガーは、老人ホームで孤独に暮らす偏屈なおじいちゃん。
かつて街一番のヘアメイクドレッサーとして活躍し、女装パフォーマーとしてもゲイバーのステージに立っていた人物だが、今では上下グレーのスウェットに身を包み、静かに余生を送っている。
そんな彼の元に舞い込んだのが、亡くなったかつての顧客が遺言に託した、死化粧の依頼。ゲイとして生き、最愛のパートナーであるデビッドを亡くし、親友だった元顧客と袂を分かったパットの胸には、輝いていた頃のさまざまな思い出が去来する。
本能に突き動かされるようにホームを抜け出した彼は、仕事道具の化粧品を万引きし、立ち寄った美容院で「熱中症予防に」とピンクの帽子を譲り受け、みるみる気高さを取り戻していく。たとえ時代遅れと揶揄されながらも、田舎道をランウェイのように堂々と闊歩する姿は、最高にゴージャスだ。