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アスリートの“うんち”はここが違う! 元サッカー日本代表・鈴木啓太が手がける腸内環境ビジネス

集英社オンライン / 2022年9月2日 17時31分

Jリーグ、浦和レッズ一筋16年。サッカー日本代表としても活躍した鈴木啓太氏がセカンドキャリアに選んだのは、アスリートのうんちを集めて、その腸内環境を研究するというユニークなもの。現在はそこで得た知見を商品やサービスとして一般消費者にも還元している。彼がアスリートの“うんち”に注目した理由とは?

アテネ五輪最終予選で起きた「事件」

――2015年の現役引退と同時にスタートアップ「AuB(オーブ)」を設立し、トップアスリートの腸内環境を研究。現在は栄養補助食品などを販売されていますが、なぜアスリートのうんちに注目されたのでしょうか。

母が調理師だったのですが、僕が子どものころから「健康の土台は腸」「ウンチをよく見なさい」と繰り返し言われていた影響が大きいです。当時はマジメに受け止めていなかったのですが、それでも母はずっと言い続けるんですよ。



それで、ウンチの状態で体調を把握するのが習慣になりました。今では自分のウンチを観察しない人に対して「なんでしないんですか?」と聞きたいくらいです(笑)。

――ウンチを見る上でポイントはあるんですか?

やはり途中で切れてしまうよりも、1本で出た方が気分がいいですよね。僕の場合はバナナみたいなウンチがでると今日も体調がいいなと感じます。逆に体調が悪いと便の状態も悪くなりますよね。

――例えばお酒を飲み過ぎた翌日は、便がゆるくなったりしますよね。

そうなったら、酒量を減らしたり、数日控えたりすれば体調は回復します。つまり体調が悪くなった理由もウンチが教えてくれるわけです。そうやって幼い頃から便や腸の状態を意識してきました。高校時代には腸内細菌が入ったサプリを飲むようになったり、お腹を温めたりするようになっていました。

ただし、僕の高校時代は、25年近く前。当時は腸の状態とサッカーのパフォーマンスがどのように結びつくのかを、きちんと説明できる人もいなかった。

半信半疑で、母に言われてサプリを飲んでいたんですが、チームメイトに「なに飲んでるの?」と聞かれても、「ビタミン」と答えてました。腸内細菌のサプリを飲んでいるなんて知られたら、おかしなヤツだと思われる時代でしたから。

2000年の入団以来、浦和レッドダイヤモンズ一筋で16年プレー。MFとして浦和の中盤を支え続けた(写真/AFLO)

――現役時代、ご自身の便を観察する習慣が強みになった経験はありますか?

2004年にUAEで行われたアテネオリンピック最終予選のことです。登録メンバー23人中、18人が下痢になってしまった。みんなゲームの直前までトイレに籠もっているような状態でしたが、僕はまったく体調を崩さなかったんです。

母のアドバイスで、遠征中は温かい緑茶と梅干、それに腸内細菌のサプリメントを欠かさずとっていたのが、よかったのかもしれません。緑茶や梅干しには、殺菌作用がありますしね。

腸内環境でパフォーマンスが変わる

――アスリートのうんちに着目する土台には、サッカー選手としての実体験の積み重ねがあったんですね。

そう思います。プロになるとトレーナーにマッサージしてもらうでしょう。冷たいドリンクを飲んだ翌日は「冷たい飲み物、けっこう飲んだよね」とバレるんです。

夏場は冷えたドリンクをどうしても飲んでしまうんですが、そうするとお腹の周辺が硬くなり、筋肉のバランスが崩れてしまうんです。だから僕はトレーナーの方に、お腹にお灸をすえてもらって、コンディションを整えました。後輩には「部屋が臭くなるから止めて」と苦情を言われましたけど(苦笑)。

1981年7月生まれ、静岡県出身。高校卒業後、2000年に浦和レッズに入団。06年にJ1優勝、07年にはAFCチャンピオンズリーグ優勝に貢献し、2年連続でJリーグベストイレブンを受賞。06年には日本代表に初選出され、07年にはAFCアジアカップに出場。15年に現役を引退

――お腹が冷えた状態ではいいパフォーマンスができないという自覚はあったのですか?

はい。とくに僕は、お腹が冷えるとパフォーマンスが落ちてしまうタイプでした。だから冬場が苦手で、夏の暑さが厳しい時期のほうが調子がよかったですね。

僕の身体能力はプロ選手としては決して高くなかったし、身体も大きい方ではありません。コンタクトが多いポジションだったのでフィジカルが課題でしたし、足だってもっと速く走れた方がよかった。

そうしたビハインドを補うためにも、コンディションや体調の管理には人一倍、気を遣うようになりました。そうして日々のトレーニングや試合を繰り返すなかで、腸や便の状態と自分のコンディションの関係性を徐々に実感するようになって。

――それが確信に変わったのはいつごろですか?

引退間際の2015年に腸内細菌の研究者に会う機会があって、彼の話を聞くうちに「これだ!」と思ったんです。

僕は高校時代の3年間と、プロになった当初は寮生活で、チームメイトと一緒に暮らして練習していました。そこでは食事も栄養も同じ。なのに、ひとりひとり身体の仕上がりや体調、疲れ方が全然、違うのはどうしてなんだろう? とずっと疑問に思っていたんです。

遺伝子や個性の違いと言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、その要因のひとつは腸の活動や腸内細菌にあるのではないか、その時に感じたんです。同時に、それまで僕がアスリートとしてきた経験や実体験が科学的、医学的に裏打ちされた気もしました。

そして、腸の環境を可視化できれば、アスリートはパフォーマンスをより高められて、行動変容にもつながっていくのではないかと考えたのです。

第1号の検体は松島幸太朗

――それで起業にいたったわけですね。

はい。スポーツによってアスリートに求められる資質やスキルは異なりますが、共通して求められるのは、疲労を効果的に回復させて、いいコンディションのなかでトレーニングを続け、スキルや能力を積み上げていくこと。

だとしたら、優れた成績を残したトップアスリートの腸内環境を調べれば、スポーツに限らず、広く社会や健康に貢献できる事業が行えるのではないかと考えました。こうして2016年の引退に合わせてアスリートの腸内細菌を研究するスタートアップ「AuB」を立ち上げたのです。

――腸の環境の可視化とは具体的にどんなことをするのでしょうか。

一言で言えば、トップアスリートからウンチをもらって、どんな腸内細菌がいるか調べるんです。きっと一般の人たちとは異なるアスリート菌と呼べる腸内細菌が存在するだろうという仮説がありました。

第1号の検体は、ラグビー日本代表の松島幸太朗選手。食事中に「うんこ、持ってきてよ」とお願いしたら「ケイタさん、なに言っているんですか」と驚いていました。

――松島さんの気持ちは分かります(苦笑)。

それでもぼくらの事業の意図を説明したら、快く提供してくれました。いまは野球、サッカー、陸上、ラグビー、新体操……40競技、950人以上のアスリートから便のサンプルをいただきました。

それでこの7年間、研究を続けてきて、人の腸内の健康度合いは「酪酸菌」の多さと腸内細菌の多様性に左右されると分かったのです。

アスリートの便は、一般の人に比べて腸内細菌に多様性があるんです。ある研究によると、酪酸菌は持久力に関係する短鎖脂肪酸を作るという結果が出ていますが、アスリートはこの酪酸菌を持っている人が多い。こうしたものを、ヘルスケアの領域でも貢献できるようにしていきたいと思ってます。

AuBではアスリートの腸内細菌データの研究を通じて、理想的な腸内環境に近づくための「アスリート・ビオ・ミックス」シリーズを開発、販売。酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌のほか、人に有用な約30種類の菌を独自に選定してブレンドしている

――腸内細菌のエサとなる栄養補助食品や「酪酸菌」など、人に有用な菌を配合したサプリメントなども開発したそうですね。

ようやく開発にこぎつけたところです。僕はサッカー選手としては走れる方だったと思いますが、だからこそ人間の身体には限界があると実感できました。

限界まで身体能力やスキルを高めたら、あとはいかにコンディションを整えるかがパフォーマンスを高める鍵になる。それはアスリートも一般の人も変わりません。そのためにも、腸内細菌、腸内環境の重要性に注目してほしいのです。

取材・文/山川徹 撮影/村上庄吾

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