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目や耳が不自由な方も赤ちゃん連れもウェルカム! 日本で一番優しい映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」

集英社オンライン / 2022年8月29日 13時1分

映画館や映画館主のこだわりが詰まった厳選の偏愛作品が上映されている、全国にある魅力的なミニシアターをシリーズで紹介していく。

映画界の未来をも変え始めたミニシアター

目が見えない人、耳が聴こえない人、全ての人に映画の感動を届けたい。そんな思いで誕生した日本初のユニバーサルシアター「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」(東京・北区)が、9月1日で開館6周年を迎える。「自然の光」を意味するアイヌ語を館名にした下町のミニシアターは、その言葉の通り街を優しく照らし、人々の心や映画界の未来をも変え始めている。

シネマ・チュプキ・タバタ(以下、チュプキ)はJR山手線・田端駅から徒歩約7分の田端駅下仲通り商店街にある、座席数最大25席のミニシアターだ。上映作品はイヤホン音声ガイドと日本語字幕つき。車椅子のまま鑑賞できるスペースもあれば、赤ちゃん連れの方も心置きなく映画を楽しめる完全防音の「親子鑑賞室」も完備。



ここは大きな音が苦手という方や、周囲を気にすることなくメモを取りながら鑑賞したい!などといった一般の方の利用も可。つまり、どんな方でもウェルカムな映画館なのだ。

親子鑑賞室

代表の平塚千穂子さん

2016年にチュプキを設立し、運営を行うNPO法人バリアフリー映画鑑賞推進団体City Ligts代表の平塚千穂子さんが語る。

「最初は障がい者専用映画館だと思われていたようです。座席数が少ないから一般の人は行ってはいけないのではないか?と敬遠する方もいました。でも、当事者たちだって専用の映画館に行きたいんじゃなくて、皆が楽しんでいるところで一緒に楽しみたいんです。隔離したら意味がない。だからこそのユニバーサルシアターなのです。実際、障がいを持った方の利用は全体の2割程です」

映画館を訪れた監督や出演者のサインがびっしり。8月31日まで、新しい映写設備(DCP)導入のためのクラウドファンディングに挑戦中

チュプキはその特性ゆえに支持されてきたワケではない。毎月テーマに則って編成されるこだわりのプログラムや、劇場の音響設計をアニメ『ガールズ&パンツァー』シリーズで知られる音響監督・岩浪美和氏が手がけた良質な上映環境にある。

平塚さん自身、名画座の名門・早稲田松竹でアルバイト経験アリの根っからの映画好き。現在の活動の原点となったのも名作がきっかけだ。

20数年前、浮浪者が盲目の花売り娘の目を治すために奮闘するC・チャップリンの名作『街の灯』(1931)を、目の見えない人たちと一緒に鑑賞する上映会の企画に参加した。チャップリンは「言語や国境を超えて、世界中の人が楽しめる」とサイレントにこだわった。しかし音で情報を得る彼らにとって、サイレントは“世界中の人”の外側に置かれていた。さらに、映画好きの中途失明者と出会い、彼らの「映画鑑賞を諦めたくない」という思いを知ったという。

「ならば自分が届けよう」と平塚さんは2001年にCity Lights(『街の灯』の原題に由来)を設立。音声ガイド研究会を発足して当事者たちの意見を取り入れながら、最良の音声ガイド制作を自費で行いつつ、シアター同行鑑賞会や映画祭を実施している。

座席には音声ガイド調節機が

映画の音を振動で感じられる「抱っこスピーカー」の貸し出しも

盲導犬も一緒に鑑賞することが可能

拠点にした上映スペース「Art Space Chupki」(東京・上中里)での活動を経て、念願の常設館・チュプキをオープンさせた。その資金をクラウドファンディングで募ったところ、約1880万円が集まった。

「“奉仕活動をやっています。でも映画は知りません”という人に(映画鑑賞を)誘導されても、きっとつまらないですよね。私たちは“映画の良さを伝えたい”という仲間が集まって活動し、当事者の人たちと一緒に築き上げてきたという思いがあります」(平塚さん)

映画館のおかげで優しくなった街

田端を選んだのは、平塚さんが北区在住ということもあるが、興行場法をクリアする物件を探し回ったところ奇跡的に見つかったのが現在地らしい。

「最初はこういう映画館ができることを心配する住民もいるかな?と構えていたんです。ところが商店街の会合へ初めて挨拶に行ったとき、『これは他人事じゃねぇよな。俺らだって、いつ目が見えなくなったり、耳が聴こえなくなるか分からないんだから応援しようよ』と受け入れて下さった」(平塚さん)

下町の人情は粋だ。最寄りの田端駅からチュプキまでの道のりには、新田端大橋から地上に下りる長いスロープがある。その踊り場に、自転車の速度抑制を促すポールが設置された。歩行者が安心して歩けるようにとの配慮からだ。商店街入り口の横断歩道には、押しボタン式の音響が付いた。商店街の方が、警察署に掛け合ってくれたという。

ポールが設置されたスロープ

商店街の近くの信号に設置された音響

他にも道に迷っていると、地元住民に道案内されたというエピソードが多数。目が不自由な人を、地元の高校生がチュプキまで介助してくれたこともあったという。商店街の方が言う。「街が優しくなった」と。

「街中にこういう場所を作ってよかったなと思うのが(障がい者と健常者が)触れ合う場所が出来たということ。小さい映画館なのでご予約の方が遅れそうな時、5分ぐらいなら上映時間を遅らせる時があるんです。ある日、交通機関の遅れで目の不自由な方の到着が遅れている旨をお客様に説明したら『待つよ』と了承して下さった。その方が帰り際に『待てた自分が嬉しかった』とおっしゃっていたのが印象的でした」(平塚さん)

もっとも経営はチケット収入だけでは厳しいというのが現実だ。サポーター・クラブの会費や映画会社から依頼のあった作品の音声や字幕の制作でやり繰りしているのが現実だという。

取材に伺った日は、平塚さんがプロデューサーを務め、音声ガイド制作の奮闘を追ったドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち』(10月22日公開)の試写会が行われていた

しかし時代は確実にチュプキに追い風が吹いている。2013(平成25年)に障害者差別解消法が制定され、シネコンなどでは言語バリアフリー化アプリUD castが普及。さらに2021年に改正障害者差別解消法が公布されたことに伴い、全作品に音声と字幕ガイドが義務付けられるような動きになってきている。

「City Lightsの活動もそうなんですけど、上から説得されて行動するより、体験した人が“面白いから広まって欲しい”と起こした活動の方が、時間はかかるけど、本当の意味での変革ができるように思います。トップダウンよりボトムアップ。まずは皆さんに体験していただきたい」

田端といえば、とりたてた観光名所もなく“田端ナッシング”(by@kurage60さん)とも称された街。しかし、もうそうは呼ばせない。田端にはチュプキがある。




取材・文/中山治美 構成/松山梢



CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)
〒114-0013 東京都北区東田端2-8-4
TEL&FAX 03-6240-8480 水曜定休
https://chupki.jpn.org

※8月31日まで新しい映写設備(DCP)導入のためのクラウドファンディングに挑戦中

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