1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

奥多摩駅のひとつ手前の「白丸駅」は、東京なのに秘境だった

集英社オンライン / 2022年8月30日 12時1分

「なにもない町」なんてない。おじさんも歩けば棒に当たる。初めての駅で降りて、初めての町をブラブラしてみよう。勝手に決めたルールは「下調べも現地でのスマホ使用も禁止」「派手な駅のとなりの地味な知らない駅」「2時間ぐらいで行ける範囲」の3つ。人生も旅も行き当たりばったりが面白い。今回はJR青梅線の奥多摩駅のとなりの白丸駅(東京都西多摩郡)を目指した。さて、なにが待っているのか。

駅舎のない駅

暑い……。曇りでよかった……。

飲み物を買いたいのにどこにも自販機がない……。

あ、またよその庭先に迷い込んじゃった……。

白丸駅を出て、くねくねの坂道を上っていったり、行き止まりで戻ってきたり、別の道に入ったらどんどん森が深くなったりと、当てずっぽうでウロウロすること30~40分。ウグイスやセミの鳴き声はにぎやかでしたが、人間とは誰ともすれ違いませんでした。



あとでわかりましたが、国道や渓谷の入口につながるにぎやかなエリアとは逆側をさ迷っていたようです。

8月初めの日曜日に訪れたのは、青梅線の白丸駅。ひとつ先にある奥多摩駅は青梅線の終着駅で、土日の朝にはJRが新宿駅から「ホリデー快速おくたま」という直通列車を何本も走らせています。そんな一大観光スポットの隣りの駅には何があるのか。私の事務所に近い池袋駅から、JRの山手線と中央線と青梅線を乗り継いで2時間ぐらい。青梅駅を過ぎてしばらくしたら、電車の窓の外には深い森が広がります。ここは本当に東京都なんでしょうか。

駅のホームにあった「名所案内」。距離の単位が懐かしい「粁」でした。これで「キロメートル」と読みます。そっと「Km」と書き添えたのは、JRの人でしょうか。あるいは見るに見かねた利用客でしょうか

この連載では、目的の駅に着いたときに真っ先にやらなければならないミッションがあります。それは、トップ画像用に駅舎の写真を撮ること。白丸駅を降りて無人改札を通り、あらためて駅を見ると、あれれ、駅舎がない! 券売機が設置してある小さな建物を「駅舎」と呼ぶのは、さすがに無理があります。「駅には必ず駅舎がある」という私の先入観は、見事に打ち砕かれました。旅はいろんなことを教えてくれます。

「駅舎」。奥に見える白いドームは待合室です

さまよった末に、たくさんの車が行き交う大きな道に出ました。あ、おいしいものを売っていそうな店があります。風にはためく「東京の森ピクルス」「奥多摩生味噌」のノボリ。中に入ると、たくさんの種類のピクルスや味噌が並んでいます。ここ「手づくり工房 四季の店」で働いて10年ぐらいという片庭由美子さんにお話を伺いました。

「四季の家」の店名は、自然豊かな奥多摩の四季を感じられる商品づくりをしていきたいという思いから

都心から奥多摩に移住

「お味噌は、東京都産の大豆を使って奥多摩に伝わる昔ながらの製法で作っています。発酵を止めない非加熱・酒精無添加の味噌なので、酵母が生きていて体にいいし、時間が経つにつれて色や風味が変化していく楽しみもあります。ピクルスは地元の農家から出る規格外野菜を活用できないかということで、5年前の2017年秋に誕生しました。今までに25種類ぐらい作っていて、季節ごとに売り場には常時10種類前後が並んでいます」

ドライブの途中にたまたま立ち寄って買ったお客さんが、リピーターになってネットで注文してくれることもあるとか。「手づくり工房 四季の家」公式HP

色つやといいツブツブ具合といい、見るからにおいしそうなお味噌です。「奥多摩生味噌」と「奥多摩麦味噌」が入った「生味噌お買い得セット」(745円)を購入。家で食べたら、どちらも口をつけた瞬間に「うわっ」と声が出るほど香り豊かでした。ピクルスも、わらび、ゆず、たけのこなど、珍しいラインナップが並びます。迷った末に「生きくらげのピクルス」(648円)をチョイス。コリコリした食感とやさしい酸味が絶妙でした。

片庭さんは20年ほど前に自然を求めて世田谷区から奥多摩町に移住。「季節ごとの風景も星空もきれいで、食べ物も安くておいしい。本当に来てよかったです」

片庭さんに「このあたりで見どころと言えば?」と尋ねたら、少し降りると渓谷があって、川沿いに遊歩道があるとか。ダムもオススメとのこと。ありがとうございます。行ってみます。ネットじゃなくて、誰かから直接教えてもらった情報って、何となく値打ちがあるような気がしますよね。ほんの30分前まで山の中を孤独にウロウロしていましたが、ようやく旅が動き始めました。

きっと紅葉の季節もきれいですね。秋の晴れた日に、また来てみたいです

渓谷にかかる「数馬峡橋(かずまきょうばし)」から見る風景は、川の両方から深い森が迫って、かなりの迫力と美しさです。ああ、晴れていないのが残念(さっきは曇りでよかったと言ってたくせに、人間は身勝手ですね)。遊歩道を通って、隣りの鳩ノ巣駅を目指してみましょう。川面では、たくさんの人がカヌーやボートを楽しんでいます。

遊歩道の山側にはカヌーを保管しておく小屋のようなものが何ヵ所かありました

のんびりした足取りで30分ほど歩くと、ダムに出ました。その名も白丸ダム。「エコっと白丸」という東京都が作った「再生可能エネルギーPR館」があったので、ひと休みするとしましょう。ああ、奥多摩わさびのアイスクリームがおいしい!

奥多摩はわさびが名物なんですね。来るまでまったく知りませんでした

「エコっと白丸」は去年の秋にオープンしたばかり。トイレやWi-Fiや電源を利用できて、近くには展望台や広めの駐車場もあります。外のベンチでアイスを食べていたら、カッコいいふたり組が。神奈川から来たマークさんと埼玉から来たアントレさんです。ふたりともアメリカ生まれの30代。ちょくちょくツーリングに出かけるバイク仲間で、奥多摩は何度も訪れているとか。「日本の自然、素晴らしいです」と口をそろえます。

向かって左がアントレさん、右がマークさん

鳩ノ巣駅の手前に、また渓谷に降りる道がありました。歩くと揺れる吊り橋の「鳩ノ巣小橋」で楽しそうに写真を撮り合っていた女の子4人組は、都内の写真の専門学校に通うクラスメイト。「みんなで自然の写真撮りに行こうよ」と盛り上がり、交通の便がいい奥多摩を選びました。このメンバーで出かけるのは初めて。みなさん笑顔が弾けまくっていて、すごく楽しそうです。若いっていいですね。今日の奥多摩もこれからの人生も、めいっぱい楽しんでください。

左から小澤さん(神奈川県)、梅下さん(埼玉県)、入舩さん(神奈川県)、森下さん(千葉県)。梅下さんと森下さんが持っているのは、レトロなフィルムカメラ。「写真に独特の味が出て、撮るのが楽しいです」(森下さん)

サービスの多いうどん店

「鳩ノ巣小橋」から10分ほど歩いて鳩ノ巣駅へ。名残惜しいですが帰路につくとしましょう。次の電車まで30分ぐらいあります。そのあいだに、駅前の食堂「さんらく」で遅めのお昼とひとり打ち上げ。肉と玉ねぎたっぷりの肉うどん(650円)、おいしかったです! お店は85歳の山宮さん(向かって右)と妹の古賀さんが、土日のお昼だけ開いています。山宮さんは福生から、古賀さんは埼玉県の川越から通ってきているとか。「ここが実家なんですよ。駅前にお店がなくなっちゃったら寂しいから、どうにか続けてるの」(古賀さん)。

お店を切り盛りする山宮さん(右)と古賀さん

うどんの横のトウモロコシは「近所の人からもらったから」と付けてくれました。ビールのおつまみのきゅうりもサービスです。店先には、近所の農家から預かった採れたて野菜の販売コーナーも。

サービスのトウモロコシ、甘くてみずみずしかったです

それにしても、今まで私は奥多摩を知らなさ過ぎました。想像以上に自然豊かで風光明媚で秘境感たっぷり。終点の奥多摩駅周辺だけでなく、手前のエリアも想像以上に人気スポットだったことにもビックリです。繁華街やビル群も東京なら、こっちも東京なんですね。「東京」という二文字を見る目が変わりました。やるなあ、東京。

写真・文/石原壮一郎

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください