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三線との出会いによって開いた人生の扉 『虹の音色が聞こえたら』著:関口尚を吉田伸子さんが読む。

集英社オンライン / 2022年9月15日 16時1分

読み終わると、爽やかな風が胸を吹き抜ける。深呼吸をした後のような、ほっとした気持ちになる。沖縄の青い青い空と海が、目の前に広がっていくようだ。

三線との出会いによって
開いた人生の扉

読み終わると、爽やかな風が胸を吹き抜ける。深呼吸をした後のような、ほっとした気持ちになる。沖縄の青い青い空と海が、目の前に広がっていくようだ。
本書の主人公は眠人 。物語は眠人が小学生の時点から、彼の成長を追っていく。幼い頃に母親を亡くした眠人は父親の直彦と二人暮らし。妻を喪って以来「おかしくなった」直彦は、仕事は長続きせず、パチンコ屋とキャバクラ通い。外面だけは良いので、周りからは「いい人」だと思われているが、眠人にとっての直彦は「でこぼこな人」であり、「弱い人」だった。


そんな父親のせいで、眠人が強いられる貧困生活。逃げ出したくとも、その方法さえわからない。ともすれば絶望に飲み込まれそうになる眠人を変えたのは、同級生の竜征と、公園の東屋で出会った高校生の春帆と、彼女が奏でる三線の音だった。
物語のなかで、ひときわ印象に残るシーンがある。眠人に三線を教えることになった春帆が、眠人と竜征の家庭の事情を知り、距離を縮めた時の彼女の言葉。携帯電話を持っていない二人のために、百円玉と自分の電話番号を渡して言うのだ。「いつでもかけてきていいよ。ていうかなんかあったら、必ず逃げてくるんだよ」と。
逃げていいんだよ、ではなく、「逃げてくるんだよ」と引き受けてくれようとする春帆のその言葉。それは、本書のキーワードのひとつでもある。もうひとつは、音楽。辛い日々を送っていた眠人の心にも、三線の音と春帆の歌は届いたのだ。
ここから眠人がどうやって成長していくのか、は実際に本書を読まれたい。明けない夜はないとか、そういう言葉さえ届かない現実と、その現実を生きていかなければいけない理不尽に立ち向かっている全ての人に、この物語が届きますように。そして、その理不尽に立ち向かう人に、躊躇うことなく手を伸ばせる私でありますように。

虹の音色が聞こえたら

関口 尚

2022年8月19日発売

693円(税込)

文庫判/320ページ

ISBN:

978-4-08-744426-1

絶望的な日々から逃げずに済んだのは、三線と沖縄民謡、そしてあなたに出会えたから。
「前を向いて生きていれば、自分を変えてくれる出会いがきっとある」矢野 隆氏(解説より)
いきなり文庫!

小5の眠人は、昼間から酒に溺れる父を避け、夜まで公園で過ごす毎日。唯一の理解者は、家庭に事情がありながら元気に過ごす同級生の竜征。ある日、公園の東屋に女子高生が来て、三線という沖縄の楽器を弾き始めた。眠人はその音色に魅了される。彼の人生に新しい風が吹いた瞬間だった。出会いと別れ、友情と恋、進路と自立。理不尽な現実に立ち向かうあなたの心にやさしく沁みる、青春小説。

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