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繊細すぎるHSPを悩ます、自律神経のサバイバル(凍りつき)反応とは?

集英社オンライン / 2022年9月4日 17時1分

繊細で感受性が豊かな性質の人を表すHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)のなかには、職場での悩みや仕事の疲れ・しんどさを感じやすい人も多い。しかしそれはHSPゆえではなく、思考でコントロールできない「自律神経」も大きく影響しているという。これまで5,485人(2022 年8月現在)ものHSPに携わり、今年6月から、働くHSP向けのプログラムをスタートした皆川公美子さんに話を聞く。

HSPの働きづらさは「自律神経」にあった

HSPが軽やかに働くためのオンラインプログラム「そういう個と。」を主宰する皆川さんは、自身も強度のHSP。2016年にHSP・HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)向けサービス等を運営する株式会社サステナミーを設立し、HSPを対象としたセミナーを実施。これまで、述べ5000人以上のHSPに出会ってきた。



2022年6月にスタートしたプログラム「そういう個と。」は、約半年間にわたり、HSPが自分の特性を理解したり自分の強みと出会い直したりするためのサポートを行う。HSPが自分らしい働き方を手に入れるために「伴走」してくれる、これまでになかったサービスだ。

同サービスには、グループセッションやFacebook上のメンバー限定グループなど、同じHSPの仲間と交流し、気軽に思ったことを話せる「安心の場」も用意されている。

特徴的なのが「自律神経との付き合い方を知り、再構築する」など、自律神経に関するプログラムが含まれていること。一見、HSPと自律神経は無関係のように思えるが、「働きづらさ」を抱えているHSPの背景には、自律神経が関係していることが多いと皆川さんは言う。

「そういう個と。」は6ヶ月のプログラム(画像/株式会社サステナミー提供)

「多くのHSPの方に出会うなかで、『HSPには2種類いる』と2018年くらいから感じるようになりました。

一つはHSPならではの深い処理や察知する力、共感力の高さなどを活かして自分の能力を発揮し、社会で活躍できている人。もう一つはHSPとしての強みや良さを持っているにもかかわらず、不安が強く出ていて仕事や職場の人間関係につまずきがちだったり、一歩を踏み出せない人。

同じHSPなのになぜ、そこまで違いが出るのだろうと不思議に思っていたとき、1994年にステファン・W・ポージェス博士というアメリカの神経生理学者が発表した『ポリヴェーガル理論(自律神経理論)』に出会いました。

その後、自律神経について学んでいくうちに、働きづらさや仕事の悩みを抱えがちなのは『HSPだから』ではなく、思考でコントロールできない『自律神経の反応』も大きく関わっているのではないかと気づいたんです。

逆にいえば、自分の神経パターンを知って自律神経をコントロールできれば、HSPの方が自分らしく、過度なストレスを抱えずに働くことができるのではと考えました」

神経刺激が多いゆえに疲れやすいHSP

そもそも、HSPが働きづらさを感じやすい要因には、ほかの人は気に留めないようなささいなことにも気づける繊細さや、感受性が豊かであるゆえに、深く考えたり疲弊しがちだったりする点が考えられる。

「HSPの中には、仕事でも相手の顔色を細かく読み取ったり、誰かの発言やメールの文面の裏側まで考えてしまったりすることが日常的、という人も多いのではないでしょうか。

たとえば、上司から『この仕事をやっておいて』と頼まれただけでも、『昨日の会議ではああ言っていたし、この前はこう言っていた。さっきの上司の表情と声のトーンだと、きっとこうしたほうがいいんだろうな…』と、頭の中であれこれ組み合わせて細かく分析するのがHSP。ちょっとした場面から受け取る情報量や刺激が、とても多いんです。

HSPを提唱したアメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士は、HSPの唯一の弱点に『刺激を過剰に受けてしまうこと(Overstimulation)』があると述べています。実際に、HSPで働きづらさを抱える人に話を聞くと、神経刺激がご本人の限界を超えてしまっているケースがとても多いと感じます。HSPでない人と比べると、『刺激過多』になりやすい特性であることは確かです」

能力があるのに働きづらさに悩むHSPにも多く出会ってきた(画像/株式会社サステナミー提供)

限界を感じると起きるサバイバル反応

「職場の人間関係が原因でメンタルが悪化した」「ある日突然ダウンして働けなくなった」などの経験を持つHSPには、ポリヴェーガル理論における自律神経の「サバイバル反応」(凍りつき)が起きている可能性があるという。

自律神経には、活発なときに優位になる「交感神経」と、リラックスや消化吸収の際に優位になる「副交感神経」があることで知られる。ポリヴェーガル理論では、副交感神経系はさらに「背側迷走神経」と「腹側迷走神経」という新たな神経系に分かれると提唱される。

「背側迷走神経は、死の脅威に面したときに生き残ろうとする神経。たとえばアフリカのサバンナで、ライオンに狙われた獲物が硬直してじっとしている映像を見たことがある人もいるかもしれません。これは、背側迷走神経が優位になったサバイバル反応の状態です。

動かなければ相手はそれ以上攻撃しなくなるので、スキを見て逃げたり、捕食されたりするとしても強い痛みを感じにくくなる。命の危険がある野生では、極限状態で自分を守るためにそういった反応が出ることがあります。

人間社会に置き換えると、たとえば職場で上司に理不尽に怒鳴られたときなどに何も言えずフリーズしたり涙が出たりしてしまう人がいますが、それはサバイバル反応。『冷静に説明・対処すればいいだけでは?』と思われるかもしれませんが、そうしたくてもできない自律神経状態なんです。

自律神経のサバイバルモデル(画像/株式会社サステナミー提供)

緊張やストレスが大きい状況で日々働いていると交感神経が活発化しすぎて、フリーズで収めることしかできなくなってしまうことがあります。もちろん全員ではありませんが、HSPのほうが神経処理が平均より深い分、そうなってしまうリスクは高いかもしれません。

自律神経は共鳴を起こすので、常にイライラしている上司がいる、苦手な人と日々職場で関わらなければいけないなどの場合、場の雰囲気や人の感情・危険を察知しやすいHSPはしんどくなりやすい。

また、自分の本音を言えず、仕事や悩みをひとり抱え込んで限界を迎えてしまうなどもHSPの方にはありがちです。無理を重ねた結果、ある日いきなりベッドから起き上がれなくなった、会社に行けなくなってしまった、などの状態になってしまうこともあります。これは『本人のがんばりが足りないから』ではなく、自律神経の状態なんです」

刺激量の調整を意識する

HSPが「刺激を受けやすい」のは前述の通り。だからといって、職場で強いストレスを感じたら、その都度離職・転職をして環境をリセットすることが、根本的な解決方法になるわけでもない。

HSPがストレスをためすぎず、職場で働き続けるための工夫にはどういったものがあるのだろうか。

「まずは、刺激の耐性幅を広げること。人によって、刺激にどの程度耐えられるのかという幅は異なります。働くうえで、落ち込む・動揺するなどある程度の感情の揺らぎは誰にでもありますが、それらの刺激が耐えられる量であれば問題ないですよね。

たとえば在宅勤務の日数を増やして人との接触時間を減らしたり、時差出勤をして満員電車を避けたりするなど、そもそもの刺激量を減らす方法も効果的です」

言葉を跳ね返す「バリア」のテクニック

一方で、出勤が必須だったり人と会う必要がある仕事をしているHSPにはなかなか難しい。おすすめの方法として、気軽に取り入れられる「イメージのバリア」を教えてもらった。

「たとえば職場に苦手な人がいて、その人の発言によってストレスやダメージを受けることが多い場合、相手から言葉が飛んできたときにどんなバリアが自分にあったらいいか、考えてみましょう。

滝のように上から水が流れていて、相手の言葉に含まれるモヤモヤや思念をサーっと流してくれるバリアがいいのか。レンガのような頑丈なバリアがいいのか、アクリル板のようなバリアがいいのか。何でもいいので、自分にとってぴったりのものをイメージします。

次に、実際にそのバリアのなかに入っているイメージをします。相手から何か言われたとき、その言葉が流れていったり跳ね返ったりする様子をイメージしてみてください。

そのとき、バリアのなかの空気はどうか、バリア越しの外側の空気はどうか、その違いも具体的に感じてみましょう。バリアの内側と外側で、まったく違う空気が流れていることをイメージできるはずです。バリアに穴や隙間がないか、実際に自分の手で触って確かめてみることも忘れずに。

そこまで体感できたら、実際にその人に会う前にバリアを装着します。ずっと装着し続けるのではなく、あくまで対象となる相手と接するときだけ使うというのもポイントです」

試してから一定期間は、バリアを張った結果どうなったかを自分なりに検証したり、微調整したりすることで、一番よい状態にカスタマイズできるようになっていくそうだ。

振り回されない土台をつくることが大事

HSPが社会で活躍していくためには「自らを整えていくこと」が欠かせないと皆川さんは考える。

「HSPが、働きやすい職場や自分に合う職場を探すことが悪いわけでは決してありません。ですが、気が合わない人が一人もいない、嫌なことが一切起こらない職場や仕事は現実にはありません。

つまり、何かあったら毎回環境をリセットするよりも、職場に苦手な人がいても気にしすぎない、人から言われたことにいちいち落ち込まない、ときには反対意見も臆せず言える、困ったときにSOSを出せる、気軽に人にものを頼めるという自分になったほうが、どんな場所でも働きやすくなると言えるのです。

これまで働きづらさを感じてきたHSPの方が自律神経についても理解し、安定した神経土台を身につければ、会社や職場の人に自分の感情を振り回されることも減ります。

心理的に健康な状態を手に入れれば、仕事で落ち込むことがあっても、自分で自分をご機嫌にすることができるようになる。少し時間はかかりますが、神経土台を整えることは何歳からでもできますから、ぜひできることから取り入れてみてください。そしてこれまでがんばってきた自分を、温かい目で振り返ってみていただけたらと思います」

デンマークHSP協会との意見交換の様子。HSPは世界人口の約5人に1人と言われる(画像/株式会社サステナミー提供)

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