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選手人口は1200人余り。それでも世界に挑む、ライフセービング日本代表の夢

集英社オンライン / 2022年9月1日 16時1分

2年に1度開催される、ライフセービング競技の最高峰「ライフセービング世界選手権大会(LWC 2022)」が今年も9月27日より始まる。男子日本代表選手たちに、大会にかける思いと競技の魅力を聞いた。

日本チームには世界に誇れる強みがある

朝7時、神奈川県・片瀬西浜海岸。地元のサーファーはチラホラいるものの、海水浴客の姿はまだない。昼間の陽気な雰囲気とは違う、少し堅い表情を見せる海で、屈強な男たちがトレーニングに励んでいた。

夏の間は海の安全を守るライフセーバーとして活動しているが、同時に、ライフセービング競技のアスリートとしても活動する彼ら。9月27日〜10月2日にイタリアで開催される「ライフセービング世界選手権大会(LWC 2022)」に、日本代表として出場することが決まっている。


左からキャプテンの上野凌選手、園田俊選手、西山俊選手、繁田龍之介選手。この日、参加していなかった嶋津俊也選手、高須快晴選手を含め、男子日本代表は6名

約50か国・のべ4000人のライフセーバーが集う2年に1度の大舞台では、各国男女6人ずつで編成したチームで、オーシャン競技・ビーチ競技・プール競技のすべてを戦い、その総合得点を競う。

「ここ数年の日本の順位は8位。オーストラリアとニュージランドが世界の2強です。体格の違いもありますが、選手層の差は大きいですね。日本のライフセービング選手人口は1200人前後。一方、全豪選手権には約9000人が集うので、そもそも競技人口の母数が違います。彼らは子供の頃から競技に親しんでいるし、そこからふるいにかけられた精鋭たちが集まってきていますから」(西山)

競技人口の違いは、同時に、大会を支える仕組みや練習環境などのインフラの違いにも現れる。「メジャースポーツとマイナースポーツの違いを見つけるのと近しいものがある」というが、日本チームにも世界に誇れる強みはある。

8月下旬に行われた、日本代表合宿

「海外選手よりも体格は小さいけれど、ビーチフラッグスは小回りが効くので、日本はかなり強い種目です。ライフセービングは泳ぎ以外の技術も必要とされる競技。溺者に見立てたマネキンをプールの底から引き上げ、レスキューチューブを装着して引っ張る種目もあるのですが、そういった細かい技術の精度は日本チームの強みです。プールの水深70センチに張られたネットをくぐる障害物リレーでは、2017年の『ワールドゲームズ』で世界記録を樹立し、優勝したこともあります」(上野)

社会性があるユニークなスポーツ

代表メンバーはそれぞれ、子供の頃から水泳をやってきた過去がある。ライフセービングに打ち込むようになった理由やタイミングはさまざまだが、その魅力については「がんばる意味がある」と口を揃える。過酷なトレーニングを積み、勝利を目指す先には、いつか救える誰かの命があるかもしれないからだ。

「スポーツでありながら、社会性があるところが一番ユニークなポイントだと思います。僕自身、泳いだり、波に乗ったりすることが楽しくて競技を続けていましたが、実際にライフセーバーとして浜に立つと、どうしても事故が起こることもある。そういう現場に直面すると、活動する意味があるなと、強く感じます。

僕たちの活動の母体である日本ライフセービング協会は、スポーツだけでなく救命や教育に関しても管轄しているし、その上の国際ライフセービング連盟は、国際オリンピック連盟(IOC)と世界保健機関(WHO)から承認を受けている。他のスポーツとは絶対的に違う部分だと思います」(上野)

キャプテンの上野凌選手は、7歳から地元のライフセービング・クラブに所属し、キャリア20年。「LWC」出場はこれが2度目となる。200mスーパーライフセーバーで「全日本プール選手権」4回の優勝経験を誇る

コロナ前はプロ選手として活動していた西山俊選手。「LWC」出場はこれが6回目のベテラン。2017年の「ワールドゲームズ」障害物リレーの優勝メンバー。「全日本ライフセービング選手権大会」のオーシャンマンで5回優勝(うち3連覇)している。自身のSNSやウェブサイトでは、活動を積極的に発信中

高校からライフセービング競技に打ち込んでいる園田俊選手。「LWC」出場は2度目。2018年の大会ではメドレーリレーで3位に。2018年「全日本ライフセービング選手権大会」のオーシャンマンで優勝している

「LWC」初出場となる繁田龍之介選手は、もともと競泳選手としてオリンピックを目指していた経歴の持ち主。社会人になってからライフセービングに転向。2021年、2022年の「全日本ライフセービング選手権大会」では、障害物スイム、レスキューメドレーで優勝した

嶋津俊也選手。2021年の「全日本ライフセービング学生選手権」では、ビーチスプリントで優勝

高須快晴選手。チーム最年少の、早稲田大学4年生。2021年の「全日本ライフセービング学生選手権」ではオーシャンマンで優勝した

10年後のオリンピック種目採用を目指して

1年を通して日本各地でも大会が行われているライフセービング競技。種目が多くルールも複雑だが、その分、他の競技にはないおもしろさがある。

「単純に泳力を競って1分1秒を争う種目もありますが、オーシャン種目では特に、自然と調和できるかどうかが重要になってきます。波をつかんで乗ることができたらより前に行けるし、つかまえられなかったら遅れてしまう。同じ波に乗ったとしても、途中で崩れてしまう場所と崩れない場所ができることもありますしね」(上野)

「だからこそ、観戦するときも最後の最後までおもしろいんです。フィジカルの強さだけでなく、ポジション取りなどのテクニックや経験値、運の要素もありますから」(繁田)

レースをする環境が一律ではないからこそ、オーシャン種目ではタイムを競わないのがルール。競泳では持ちタイムが1秒違っただけでなかなか相手に勝つことはできないが、ライフセービングでは大逆転も起こりうるのだ。

「プール種目の場合もすごく細かいルールが設定されているので、いかに技術や精度を上げていけるか。その追求には終わりがないんです」(西山)

満面の笑みでそう語る彼らの表情を見ていると、競技を心から愛していることが伝わってくる。目下の課題は、ライフセービング競技の魅力を広く伝えること。トップアスリートである彼らの役割はもちろん、世界に通用する選手になることだ。

「2032年にオーストラリアのブリスベンで行われるオリンピックでは、ライフセービング種目の採用を目指しているそうです。もちろん、僕は出場する気でいます! そのときには44歳ですけど(笑)」(西山)

「プレイヤーとしてだけでなく、コーチやチームマネージャーなど、オリンピックに携わる道は他にもありますからね。これまでは、オリンピック競技じゃないからという理由でスポンサーがつかないこともありました。出場することができたら、ライフセービングの可能性が広がるはず。期待しています」(上野)

そのためにもまずは、「ライフセービング世界選手権大会(LWC 2022)」で5位以内を目指すという日本代表チーム。身体ひとつで世界の海に挑む、彼らの勇姿を見守りたい。


取材・文/松山梢 撮影/nae.

日本ライフセービング協会の公式サイトはこちら
https://ls.jla-lifesaving.or.jp

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