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「あなたの命より大事な学校なんてない」。夏休み明け、不安な子どもに大人は何ができるのか

集英社オンライン / 2022年8月30日 16時1分

現在日本で唯一の不登校専門紙『不登校新聞』は、当事者視点での発信を1998年の創刊以来貫く稀有なメディアだ。自身も不登校を経験した本紙代表の石井志昂(しこう)さんに話を聞く第2回目。「夏休み明けはどんな子どもにとってもリスクが高まる日」と話す石井さんに、学校について悩む子どもたちとその親へ伝えたいことなどを聞いた。(後編/全2回)

夏休み明けは「最大のリスクがある日」

「夏休み明けは統計上、子どもにとって最大のリスクがある日と言えます」と『不登校新聞』代表の石井志昂さんは訴える。文部科学省によると、令和2年度に「小・中・高等学校から報告のあった自殺した児童生徒数は415人(前年度317人)で、調査開始以降最多となっている」(「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査結果の概要」より一部抜粋)とし、「1年間の自殺者数の推移を見ると、飛び抜けて夏休み明けが多い。厚生労働省も指摘しています」と石井さんは言う。子どもの周りにいる大人たちができることは何だろうか。



「まず気をつけなければいけないのは、子どもはわかりやすいSOSを出してくれないんです。言葉で『助けてほしい』や『学校へ行きたくない』とはなかなか言えない。もし言った場合は最終通告になりますから、大切に受け止めてください。次に、夏休みに入った頃と夏休み明け前後の様子を見比べてみてあげてほしいです。そうするとその子がどんな状態なのか、判断がつくと思います」

『不登校新聞』代表の石井志昂さん 写真/不登校新聞

子どもからのSOSを待つのではなく、様子を見守る中で声をかけることの重要性を説いた上で、「学校や将来に対する考え方を親から子へ伝えてあげてもいいのではと思うんですね」と続ける。

「私自身もそうでしたけど、子どもって学校で成功しないと人生が終わり、くらいに思っているわけです。そういう子どもは親も自分のことをいらないはずだとさえ思い込んでしまう。でも当然親からしたらそんなことはないですよね。その部分を改めてはっきり子どもに伝える。あなたの命より大事な学校なんてない、と。あなたの命が一番で、学校で苦しいことがあったら休んでいいし、何かあったら迷わず相談してほしいと。目を見てはっきりキッパリ、短時間で伝える。これが基本だと考えます」

「20年後、普通のおじさん、おばさんになってるよ」

石井さん自身も14歳の頃、中学受験やいじめが原因で不登校になった。当時は人生が終わったと思っていたという。その後、一冊の本と出合いフリースクールの存在を知り、思い切って訪れたことで人生が変わった。さまざまな理由で苦しんでいる当事者に、今、石井さんがかけたい言葉は何か。

「自分が不登校だったときに何と言われたかったのかはずっと探していて、しっくりきてはいないんですけど。同じような立場の人がいたら、あなたは20年後きっと、普通のおじさんになっているよと言いたいですね。10代のときってどうやって大人になるかわからない。いろんな思いを抱えながら生きてきて20年経って、不登校のせいなのかできないこともいっぱいありました。

でも気がつけば、一緒に暮らせてありがたいと思う人と出会えて結婚もできて。そういう人とも洗濯機のかけ方一つで言い合いになったりもします。喧嘩したけどパフェを食べに行って仲直りしたり。それって普通の人生だなって思うんです。辛いことも苦しいこともあるけど、捨てたもんじゃない。今絶望的だと思っている人には、普通のおじさん、おばさんになる人生が待ってる。それは信じてもらえたらうれしいですね」

不登校新聞では20年以上にわたり、当事者やその親、学校以外の居場所を提供する大人など1000人以上の声に耳を傾け、届けてきた。取材を続ける中で感じた環境の変化はあるのだろうか。

「不登校への認知度の高まりは感じていて、文科省は顕著に変わりました。2016年には、休みの必要性と学校外の学びの重要性を法律として認める教育機会確保法も成立し、『学校復帰させることだけが道ではない』と何度も通達しています。ただ、現場である学校が全然聞かないんですね。文科省と現場の感覚のズレがあります」

メンタルケアし合える社会に

今年の6月、不登校の子どもを持つ親のコミュニティ「親コミュ」を立ち上げた。メッセンジャーアプリのLINE WORKSを利用して24時間365日チャットができる、親のための居場所。孤立させない環境をつくるためのコミュニティ運営と情報発信に尽力したい考えからだ。

「我々の想定以上の100名がすでに集まっています。実際に『夏休み明けの登校日が始まったけれど子どもが苦しそうだ』と打ち明けているお母さんもいて。リアルタイムでつながって、『大丈夫だよ』や『心配だね』と声をかけ合える環境づくりができた意義を感じます。不登校は地域差がなく、人口比率と比例しています。ということは、人口が少ない地域には不登校が一人しかいないということがあり得る。離島でただ一人の不登校だと言われてプレッシャーを感じていた方が、こういう場があってうれしかったと言ってくださいました」

最後に、今後の野望を聞いた。

「日本中のメンタルケア能力を向上させたいです。例えば、『死にたい』と言っている人にちゃんと向き合うこと。茶化したりせずに、気持ちを聞く。精神的に苦しい人がいるのなら、本人の怠けや弱さに目を向けるのではなく周りの環境の整備を考える。単純なことですが、ケア能力を上げないと多くのことが救われないと思うんですね。苦しくなったら休むことや立ち止まることが必要だと伝えていきたいです」

取材・文/高山かおり

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