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ガンバ、ヴィッセルの巨大戦力クラブが下位低迷…監督交代という禁断の果実

集英社オンライン / 2022年9月3日 10時1分

サッカーJ1リーグでチーム別年俸ランキング1位のヴィッセル神戸と同3位のガンバ大阪が降格圏内の下位に低迷している。潤沢な資金で巨大な戦力を持つ2クラブはなぜ低迷しているのか?

巨大戦力の2クラブがなぜ下位に低迷?

今シーズンのJリーグでは、関西の有力クラブであるガンバ大阪、ヴィッセル神戸が降格圏に沈んで苦しんでいる(原稿執筆8月30日時点、ガンバ16位、ヴィッセル17位)。

どちらもJ1トップレベルの戦力を誇るだけに、緊急事態と言えるだろう。資金面で恵まれている二つのクラブは監督を交代させ、新たな補強も敢行したわけだが…。そもそも、なぜ有力クラブが降格圏に沈み、抜け出せずにいるのか?

その論理は、ビジネスを含めた集団社会に通底したものだ。



不振のチームには、様々な問題があるように映る。「守備が総崩れで再建急務」とか、「深刻な得点力不足」とか、「采配が疑問」とか、「有力選手が移籍し、穴を埋められていない」とか、いずれもそれらしい。しかし11人対11人の集団スポーツでは、問題の真相は入り組んでいる。

一つ問題を解決しようとしてもほとんどの場合はうまくいかず、さらに袋小路に入る。多くのケースで、問題はもっと根源的、構造的なものである。攻撃がうまくいっていないのは守備に問題があり、守備がうまくいかないのは攻撃に問題があったりする。どちらかに手を入れると、さらにバランスが崩れることもある。

監督交代が相次ぐガンバとヴィッセル

日常的なマネジメントで、巨細なく選手のメンタルに目を配るしかない。

<選手が現場の戦いに満足しているか。苛立って、ストレスを抱えていないか>

集団をマネジメントする人間は、そこを見極めるべきである。なぜなら、サッカークラブだけでなく、会社でも役所でも不具合を抱えた集団では、どれだけ素晴らしいメンバーで、偉大なリーダーの差配であっても、効果は最小限になってしまうからだ。笛吹けども踊らず、たとえ個人の能力差で勝てたとしても、長続きするものではない。

ガンバも、ヴィッセルも、選手が少なからずマネジメントに不満を抱いていた。

ガンバの選手たちは、昨シーズンまでの宮本恒靖監督の時代からストレスを受けている。例えば数値化されたトレーニングは総じて不評で、選手からタフさを徐々に奪っていった。さらに言えば、関西人特有の自由闊達さの喪失までもたらしたと言える。

そして今シーズンも、片野坂知宏監督の指揮の下、選手の捉え方に断層があったことは否めない。大分トリニータで片野坂監督が一つの成果を出したシステムは、控え目に言って機能しなかった。それは監督自身が「選手ありき」に軸が揺れ、フォーメーションも変えるなど戦い方が徹底されなかったことにも理由がある。そこで生じた迷いや焦燥が、試合中の選手同士の怒鳴り合いの喧嘩にまで発展したのだろう。(別稿:ガンバ大阪・片野坂監督解任! 世界の名将たちにみるチームを強くするマネジメント力

一方でヴィッセルはガンバ以上に、監督のクビをすげ替え続けている。2019年から3年足らず、ファン・マヌエル・リージョを皮切りに吉田孝行、トルステン・フィンク、三浦淳寛、リュイス・プラナグマ・ラモス、ミゲル・アンヘル・ロティーナ、そして再び吉田…。目まぐるしく変わる状況を、現場で戦う選手が歓迎するはずはない。

「バルサ化」。

かつてチームは大それた目標を掲げたのが、今や懐かしい。リージョは最高の体現者で、フィンクもぎりぎり路線を守っていたが、「守りありき」のロティーナは理念から違った。三浦、吉田に至っては、フロントの強い意向を実行するだけだった。

世界最高のサッカー選手と言えるアンドレス・イニエスタも、その歪みの中で今シーズンは苦しんでいる。監督がリーダーシップを失う中、他の選手が前からのプレッシングで押し込むサッカーを求めるようになり、体力的に厳しいイニエスタはジレンマを抱えることになった。宴は終わりに向かっているのだろうか…。

監督交代という禁断の果実

監督交代後、少なからずチームが巻き返しているのは、「ブースター」「カンフル剤」と言われる効果だろう。今までサブだった選手が士気を高め、一方で主力は尻に火がついて気持ちを入れ替える。まさに選手のメンタルの変化だけで、2,3試合は勝ち点を稼げる。しかし再現性のある戦いではなく、あくまで一過性の効果だ。

注意すべきは、監督を替えるたび、チームが消耗する点だろう。監督交代は禁断の果実で、かじるたびに高揚感を得られるが、中毒症状を発し、効果は鈍化、集団は弱体化する。3人以上監督を替えた場合、最悪の事態が起こる確率は非常に高くなる。例えば昨シーズンのスペイン、リーガエスパニョーラでは、降格した3チームとも3人の監督が指揮を執っている。

もっとも、不振のチームが監督を代えないのも、座して死を待つことを意味する。昨シーズンのJ1では、降格した3チームとも降格が決まるまで監督を代えていない。

事ここに至った場合、名を捨てて実を取る“現実主義の戦略”を取れるか。それが残留、降格の分かれ道になるかもしれない。スペインでは、降格しかけたクラブが縋る「Bomberos (ボンベーロス)」と言われるタイプの監督がいる。スペイン語で「消防士」という意味で、文字通り、火だるまになりかけている状況を救う。火消しの極意は、実務的な戦いに徹することだ。

「消防士監督と言われるのは嫌じゃないよ」

かつて日本代表を率いたこともあるメキシコ人監督ハビエル・アギーレは、その流儀を語っている。サラゴサ、エスパニョール、そして昨シーズンは久保建英を擁したマジョルカを、シーズン途中からの指揮で降格から救った。

鍵は「選手のメンタル」コントロール

「誰もがグアルディオラ、モウリーニョ、クロップのようになって、タイトルを取れるわけじゃない。それぞれの監督に、それぞれのクラブでやるべき仕事がある。まずは、選手にやるべきことを認識させることだ」

そう語るアギーレは、マジョルカでも選手のモチベーションを高め、「負けない」選択で勝ち点を拾っていった。その点、チーム一のテクニシャンだった久保をベンチに置くことも躊躇っていない。不確実性の多い攻撃面の魅力を排除し、代わりにスランプの少ないファイターの泥臭さを重用。戦える陣容で守りを固め、カウンター一発を狙い、奇跡の残留をつかみ取った。

誤解のないように言えば、アギーレは守備偏重主義の監督ではない。選手の良さを引き出し、攻撃的にも戦える。その柔軟性は、メキシコ代表監督時代に示している。チーム状況と目的を鑑み、選手は何をすべきか、してはいけないか。その着地点を心得ているのだ。

指揮官が腹を括ることで、選手も納得する。自然と士気は高くなり、それは結果につながり、結果はプレーに自信を与える。構造的問題はあっても、10試合程度の短期決戦ならば押し切れるのだ。

瀬戸際にある集団において、簡潔なマネジメントこそが最上の策と言える。組織を一から作り直すのは難しい。選手が不安を感じている場合、混乱を増幅させるだけだからだ。

辿り着くところは、やはり選手のメンタルか。

一つ忘れてはならないのは、そうしてチームが救われた場合、その集団の新たな船出は十分に見直すべきである。なぜなら、その歓喜は危機的状況で生まれた産物で、再現性はないからだ。

取材・文/小宮良之 写真:西村尚己/アフロスポーツ

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