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昭和の「戦え」から、「戦おう」「戦うんだ」へ。“ヒーローソングの達人”藤林聖子が語る仮面ライダー歌詞の変遷

集英社オンライン / 2022年9月2日 19時1分

『仮面ライダー』シリーズは昭和・平成・令和の3時代をまたぎ、今年で50周年。9月4日からは最新作『仮面ライダーギーツ』(テレビ朝日系)の放送が始まる。6月には、歴代のテレビシリーズ・劇場版の主題歌や挿入歌322曲を収録したCDボックスセットが発売。その収録曲の半数以上、実に167曲の作詞を手掛けたのが作詞家の藤林聖子さんだ。“ヒーローソングの達人”が、時代を超えて描いてきた仮面ライダーの世界観とは?

作詞家の藤林聖子さん

環七のロイホで明け方まで詞を議論

作詞家の藤林聖子さんが初めて『仮面ライダー』の作詞を担当したのは、2000年に放送された『仮面ライダークウガ』。10年間のブランクを経てのテレビシリーズ復活の作品だった。再出発の大役を任せられた当時を、藤林さんはこう振り返る。



「仮面ライダーはもちろん知っていましたが、子どもの頃の記憶にあるのはどちらかというと『シャリバン』や『ギャバン』などのメタルヒーローでした(笑)。でも作詞をするにあたっては、かつてのシリーズをあえて見直すことはしませんでした。先入観にとらわれず、それまで担当してきたアーティストやアニメの作詞の経験を活かし、当時の自分が持っているものでやってみようと。

かつて大ヒットしたシリーズで、さらに新世紀という節目なのだから、絶対に失敗できないという暗黙のプレッシャーがあったのだなと今ならわかります。振り返ってみると、『クウガ』は生みの苦しみを最も味わった作品で、思い入れの強いものの一つです。

作詞の段階でできあがっていた台本は1、2冊で、2〜4話ほど。ストーリーの展開がわからない中、手探りでの創作でした。打ち合わせをして、書き直す……これを何度も繰り返しましたね。環七通りのロイヤルホストで、夜中の2時からプロデューサーの高寺成紀さん、マネージャーさんたちと集まって明け方まで話し合ったのも今ではいい思い出です」

藤林聖子が“預言者”といわれる理由

作詞した主題歌がのちにストーリーと符合することが多いことから、ファンの間では「藤林聖子は“預言者”」といわれる。序盤のみの台本を手掛かりに、どのように詞の世界観をつくっていくのだろう。

「主題歌の作詞はテーマパークの大枠をつくるようなものではないでしょうか。なんとなく歌詞から書き始めてしまうと全体のイメージがブレてしまうので、まずはタイトルを先に決める。タイトルは、それぞれのライダーを象徴できるように心掛けています。

全体の進行スケジュールの都合で、毎回、渡されるのは台本1〜2冊のみなのですが、それだけの手掛かりでは具体的に核心をついたことは書けません。かといって、抽象的な言葉ばかりでも締まりがなくなってしまう。その加減が難しく、考えに考えた結果、“捉え方によってはこうも解釈できる”という表現に着地することがたびたびあります。プロデューサーさんに、番組が続く中でストーリー展開に困った時は主題歌を聴き直してスターティングポジションを思い出すと言っていただいたりしました」

仮面ライダーの歴代テレビシリーズ・劇場版の主題歌・挿入歌322曲を収録したCDボックスセット。¥55,000

「難しければ難しい仕事ほど燃えるんですよね」

『仮面ライダークウガ』から今年8月末まで放送された『仮面ライダーリバイス』まで、藤林さんは約20年間で23曲の主題歌を手掛けた。一方で、『ONE PIECE』、『ドキドキ!プリキュア』、『暗殺教室』、『ジョジョの奇妙な冒険』など数々のテレビアニメの主題歌やオープニングテーマをはじめ、日本の有名アーティスト、BTS(防弾少年団)、BIGBANG、TWICEなどの韓国アーティストの作詞も担当。これほど多くの作品を生み出すことができる仕事術とは?

「作詞の方法は詞先と曲先の2種類があります。文字通り、私が詞を書いてから曲をつくるか、できあがった曲に私が詞をつけるかのどちらかです。私が書かせていただいた仮面ライダー主題歌では、最初の『クウガ』は詞先、その後いくつかを曲先でつくり、2005年の『仮面ライダー響鬼』で一度詞先に戻り、その後は曲先となっています。

毎回プロデューサーさんも違いますし、ライダーの世界観、キャラクターやルールの設定も変わるので、不確かな要素のほうが大きい。そこで大事になってくるのが、緻密な打ち合わせです。プロデューサーさんの思い描いている仮面ライダーの世界はどんなものだろう?と想像し、作品の本質をつかむこと。

とりわけ、仮面ライダーの場合は、まだできあがっていない作品の本質をつかまなければならないので、すでに完結しているアニメ作品よりも難易度は高い。60秒ほどのサイズで詞を書かなければならなかったり、不確定な部分があったりしますが、難しければ難しい仕事ほど燃えるんですよね(笑)。だからこそ仮面ライダーの作詞を続けて来られたのかもしれません。

仮面ライダーやアニメ作品の場合は、台本をしっかり読むのはもちろん、原作漫画も必ず目を通します。『ジョジョの奇妙な冒険』のようにとてつもない長編漫画は『ここは面白い』とか『このセリフはキーワードになる』という場面に付箋をはりながら読み進めることもありますね。ごく稀ですが、スケジュールが許せば一日中ソファーに座って漫画を読みふけることもあって、ふと、あれ、私、今仕事してるんだよね?と我に返ったり(笑)」

曲ができてから2日間で詞を書くことも

作品を理解するためにじっくりと時間をかけるという藤林さん。膨大な仕事量に思えるが、どのように調整しているのだろう。

「並行して進める仕事は多くて3つまでと決めています。締め切りが一日おきに続いたりすることもあり、スケジュール調整はなかなか大変。今は曲先の仕事が多いのですが、メロディができあがる予定が遅れ、私のもとにやってきたときには締め切りまで2日間しかないということも。

作詞の後、仮歌を入れて、歌い手が練習して、レコーディングをして……と楽曲に関わる予定がぎっしり詰まっているので、締め切りを守らないわけにはいかないんです。予定通りに仕事の時間が確保できないときでも、約束の期日までに詞を書き上げるために、準備だけは怠らないようにしています。

仕事柄、音楽が流れている店内だと詞をつくるのに都合が悪いので、ほぼ自宅で過ごすことになります。もともと夜型で陽が沈んでからのほうがやる気が出たんですが、ここ数年は日中のほうが効率がいいと気づき、午後7時には仕事を終えるようにしています。というのも、犬を3匹飼っていて、ちょうどこの時間にお腹が空いたと鳴くんです。この晩御飯の時間に合わせ、その日やるべきことを終えようと頑張っています」

時代を超えて変わったこと、変わらないこと

男性的なイメージが強い特撮ヒーローものだが、思い出に残る登場人物として、女性の役を挙げるファンも増えている。新しい時代の価値観を取り入れてきたのも、シリーズが長く続いてきた理由の一つだろう。

「男性主人公の作品の中では、かつて女性はさらわれたり、足手まといになったりといった、脇役が当たり前でした。同じ特撮ヒーローでもスーパー戦隊シリーズでは、以前は5人中1人だけ女性で、色は決まってピンクでした。今では、戦隊の中に女性2人、色も青と黄色とか、ずいぶん変わっています。

仮面ライダーでは、2002年の『仮面ライダー龍騎』の劇場版『EPIDODE FINAL』で、加藤夏希さんがシリーズ史上初の女性ライダーとなりました。以降、テレビシリーズでも女性ライダーが登場するのが定番となっています。同じ女性として、この活躍はとても嬉しいですし、こうして時代の移り変わりとともに変化してきたからこそ、仮面ライダーは幅広い層に楽しんでもらえる作品となっているのではないでしょうか」

昭和、平成、令和と変わりゆく仮面ライダーの姿に、それぞれの時代のヒーロー像もうかがえるという。

「昭和の仮面ライダーは男らしく、体格がよく、いかにも強そうな印象があります。その象徴が藤岡弘、さんですね。それが、だんだんと見た目も雰囲気も優しい男子になってきた印象があります。例えば、2000年の『クウガ』のオダギリジョーさん、2001年の『アギト』の賀集利樹さんなどは線が細くてシュッとしていて、どこか少年の面影があるような方が仮面ライダーに。その分、親しみやすく、視聴者との距離感が縮まっているのではないでしょうか。

明確に区切ることはできないのですが、歌詞に使われてきた言葉も、昭和は『戦え』と命令形だったのが、平成では『戦おう』と呼びかけるようになり、令和の今は『戦うんだ』と自分自身に言い聞かせるような言葉を選ぶようになっている。

昭和のポップスは、男女問わずみんなカッコつけた感じで、自分自身がドラマの主人公のような歌詞が多く、平成はお祭りのような突き抜けた明るさがあったなと懐かしくなります。今の若い人たちはファッションや話し方など自然体ですよね。自分自身をもっと素敵に見せたいという見栄や承認欲求が落ち着いてきているように思います。令和になり、コロナ禍になって早3年。これからはもっと個人個人が自分なりの価値を見出していく時代になるのかもしれません」

あらゆる時代に共通する仮面ライダー像はあるのだろうか。

「50年間、仮面ライダーに貫かれてきたのは“覚悟”。何が起きても、最後は自分自身で解決するという覚悟を持った孤高のヒーローは、今後も日本中、世界中でずっと愛されていくはず。100年続いてほしいと願っています!」

取材・文/小林 悟 撮影/田中 亘

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