1981年の「ロードショー」の表紙には4人の新人が登場する。そして、8月号の表紙を飾ったゴールディ・ホーン(『プライベート・ベンジャミン』1980)を除く3人にはある共通点がある。オリヴィア・ニュートン=ジョン(4月号)、6月号のスーザン・アントン(6月号)、シーナ・イーストン(10月号)はいずれも歌手なのだ。
あのオリヴィア・ニュートン=ジョンも表紙に。歌手と映画の「ビッグ・イン・ジャパン」現象とは!?
集英社オンライン / 2022年9月7日 12時1分
先頃逝去した80年代を代表する歌姫オリヴィア・ニュートン=ジョンら、ポップミュージックのシンガーたちも表紙を飾ってきた。洋楽洋画の市場が拡大していくなか、「ロードショー」が貢献した日本独自の現象とは。
覚えてますか、スーザン・アントン
去る8月8日に73歳での逝去が伝えられたオリヴィア・ニュートン=ジョンは『グリース』(1978)や『ザナドゥ』(1980)などで女優としても活躍しているものの、スコットランド出身のシーナ・イーストンに関しては当時はまだ演技経験がなかった(1981年製作・公開の『007 ユア・アイズ・オンリー』の主題歌を歌っていたので起用されたものと思われる)。
スーザン・アントンは準ミスアメリカに選ばれたことをきっかけに歌手としての活動をはじめ、女優としてもTVドラマや映画に出演していたものの、代表作と呼べるものはなかった。それでもアントンがロードショーの表紙に起用されたのは、当時、日本で人気を博していたからだ。
カメリアダイアモンドのCMに起用されたことがきっかけで、CM曲に採用された「フォクシー」も大ヒット。スーザン・アントンはたびたび来日し、日本の歌番組に出演したり、コンサートを行っていた。日本でしか売れない洋楽ミュージシャンを「ビッグ・イン・ジャパン」と揶揄するが、その走りのような存在だったと言える。
「ロードショー」は6月号において表紙のみならず、「カラー特写&インタビュー スーザン・アントンがやってきた!」という特集を組んでいる。海外の映画やTVドラマのスターだけでなく、ミュージシャンにも食指を伸ばす、ロードショーの積極的な姿勢が垣間見える。
『エレファント・マン』のヒットは日本だけ!?
映画に目に向けると、『007 ユア・アイズ・オンリー』や『マッドマックス2』(1981)などのヒット作のなかに、『エレファント・マン』(1980)が紛れていることに気付く。4月号で初紹介されたのち、「『エレファント・マン』大ヒットの秘密」(8月号)「素顔の『エレファント・マン』ジョン・ハート」(9月号)「総決算!『エレファント・マン』」(10月号)「『エレファント・マン』の休日」(11月号)と特集が組まれている。
この状況は、当時をよく知らない筆者からすると違和感しかない。奇才デヴィッド・リンチ監督のあのマニアックな作品を、一般向けの映画誌が頻繁に特集しているのだから。
だが、配給収入をみると、その理由がわかる。『エレファント・マン』はなんと24億5000万円で、1982年の年間ランキングで第1位に輝いているのだ。製作費500万ドルの低予算映画『エレファント・マン』のアメリカ興行収入はboxofficemojoによると2600万ドル。日本の24億5000万円は配給収入なので、興行収入に換算するとおよそその倍になる。つまり、『エレファント・マン』は日本で突出した好成績を叩きだしていたのだ。
この現象は1975年の『エマニエル夫人』と同じだ。いずれも比較的低予算で、他の映画市場ではそこそこの成績だったにもかかわらず、日本だけで大ヒットしている。まさに映画版「ビッグ・イン・ジャパン」である。
『エマニエル夫人』は日本ヘラルドが女性のための官能映画として宣伝し、『エレファント・マン』は東宝東和が感動のヒューマンドラマとして売っていた。これら独立系配給会社の宣伝マンたちの存在が、その成功の裏にある。大スタジオ製作ではない個性的作品を買い付け、彼らの創意工夫と熱量で日本人のメンタリティや当時のムードにあった宣伝を展開する。宣伝マンたちと親しく付き合っていたロードショーは、作品やスターの特集記事で貢献した。そうして生まれる独自のうねりの中心に位置していたのだ。
7月号/テイタム・オニール 8月号/ゴールディ・ホーン※初登場 9月号/クリスティ・マクニコル 10月号/シーナ・イーストン※初登場 11月号/ダイアン・レイン 12月号/シェリル・ラッド
©ロードショー1981年/集英社
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